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クリエーター  作者: 如月灰色
《第五章 終焉の時》
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~第百三話~三者面談

今更ですが70万アクセス、6万ユニークありがとうございます!

 目の前にいるこの世界の絶対的君主、創造主の言葉に呆れて口を開けていると、またも衝撃的な言葉が聞こえてきた。


「しかしそれもいささか疲れた」


「…は?」


 頭を振る創造主にこの短いスパンに何度目かのは?を返すと、創造主は続けた。


「ヒトとは、本当によくわからん物だ。あらゆる誘惑に負け、弱者を虐げ、堕落し、尚も正しくあろうとする。自然や神が力を貸さないなら、自ら抑止力を作り出し、崩壊寸前の世界のバランスを幾度も持ちこたえてきた」


「…いや、ぶっちゃけ結構腐敗がどうしようもないところまで進んでたけど」


「我は何度も、世界が崩壊しようとした時それを壊し、再構築してきた。バビロン然り、ソドムとゴモラ然り…ノアの大洪水然り」


 ノアの言葉が聞こえた瞬間、俺の体が反応したのを創造主は見逃さなかった。


「我はあの大洪水を起こす前、ある男を次代の担い手として選んだ。神谷晶…いや、ノア=キーランス。汝の魂の欠片を受け継いだ男よ。そしてイエス、アブラハム、ジャンヌ・ダルク、アーサー、釈迦…彼らもまた、汝の魂の欠片を受け継いだ者達。神の声を聞く者達は、皆ノアの系譜のそれだったのだ。その欠片が集まり、ようやく汝の魂が形を得て、そして天国への扉(ヘヴンズ・ゲート)の持ち主たるノア=キーランスの転生が完成した」


「幼少時に死んだ俺の前世のガキんちょが、どうして箱舟のノアと繋がるかようやくわかったよ。魂の欠片ねぇ…。しっかし、そうそうたるメンツだな」


「汝はこの世界が腐敗していると言ったな?」


「…あぁ」


 そう思っていたのは事実だ。政治家は汚職し、教育は乱れ、権力を握り民を先導する者が私利私欲に塗れている。その規模が家族であったり、地域であったり、果ては国家間でも蔓延していた。

 …その結果が、半マテリアル界への侵攻と俺の各国の首脳暗殺だ。

 人を殺す事に慣れてしまったのは恐ろしいことだが、自分が犯した罪に後悔はしていない。俺に人を裁く権利があるわけではないが、彼らの所業は絶対に間違っている。

 『綺麗事が通らない世の中なんて間違ってる』。それは彼が自堕落な生を過ごしてきた中で、唯一つ変わらない矜持だった。正しい事を行った方が馬鹿を見るなんて世界では、法治を騙った無秩序でしかない。そんな社会は人間より理性を持たない動物達の社会にも劣る。

 人は互いを尊重しなければ生きていけない。他人を害する事はするべきではない。

 しかし…それがまかり通る世の中になってしまったからこそ、俺は『腐敗した世界』だと言い放った。

 小さい頃は当たり前にヒーローに憧れて、しかし社会に近づくにつれてそれでは潰されると知り、かと言って簡単に染まりきる事も出来ず、だから俺は諦めに似た感情でだらだらと生きる事に決めた。

 もしかしたら、こんな世界でも自分の筋を貫いていた香奈子に惹かれ、また純粋なエリーに惹かれたのかもしれない。


「今挙げたお前の魂の欠片を持った者達を、そうそうたる顔ぶれだと言ったな。しかしだ。汝はその先人達の魂をも牽引する者だという事実に気づいてはいないのか?」


「どういうことだってばよ…」


「かつて世界が滅びようとした時に、ノアという器が生まれ、人類を絶滅から救った。キリストや釈迦も数々の奇跡を起こし、民を導いた。ジャンヌ・ダルクやアーサーにしてもそうだ。そして汝が腐敗したと言ったこの世界…。汝は仲間と共に巨悪を倒し、我の元にたどり着いた。彼らとどこが違うと言うのだ?いや、彼ら以上の偉業を成し遂げたと言っても過言ではない」


「お前にたどり着くことが偉業か…とんだ自画自賛野郎だな」


「そこでだ。汝にこの世界を預けよう」


「…は?」


 何を言ってるんだこの野郎は。


「汝が我と代わり、この世界を創造するのだ」


「…いや、俺帰る家あるし、つうかお前殴ってやったから帰るつもりだし。あいつらとも約束したしな」


「この空間から、どうやって帰ると言うのだ?」


「いや、来た通りあのとび…ダービーの扉から…」


 そう言って振り返ると、目をひん剥く光景が待っていた。


「なっ!?扉が…融けて…」


 上から氷のように融けて行く扉を見て、俺は思わず駆け寄った。


「おい待てよ!ダービー!おい、創造主この野郎!止めろって!」


「無駄だ。役目を終えた扉が、自ら去ろうとしているのだ。それを作った我ですら、それは止められん」


 崩れる扉だったものを必死に押さえるが、進行は止まらない。

 元の大きさの中ほどまで進んだところで、この空間の色と同じ白い砂煙を上げて全てが崩れ去ってしまった。


「くっそ!ふざけんなよ!ダービー!おい!ダービーーーー!!!」


 粉塵で視界が遮られ、なす術もなかった俺は地面を殴った。何の感触もしない地面が、やけに腹立たしかった。


「ダービー…くっそ…なんで…」


「…アキラ?」


 その声に、何故か言いようのない恐怖に襲われた。

 まさか…こんなところにいるわけがない…。でも、この声を俺は聞き間違える事なんて絶対にない。


「エリ…い…?」


「アキラ?ここは?ダービーさんって、何が…?」





「創造主!てめぇ!」


「ちょっ!何してるのアキラ!これはどういう…」


「なんでエリーをここに呼んだ!エリーには関係ない話だろ!!」


 実は薄々気づいていた。

 俺にはもう、この男の言うことに抗う術はないと言う事を。

 そして展開通りなら、俺が次のこの世界の創造主とならなければいけないという事を。

 それは…二度と今までの世界に戻れないという事。


 そんな世界にエリーを来させてしまった…。


「何を言う。汝のように他人を玩具に出来ない人間にとって、悠久の刻ここで孤独でいることは筆舌し難い苦痛だろう。ならば汝が最も愛する者を共にさせれば、永遠の愛を貫けるだろうと、汝ら人間でいう心遣いというものを…」


「余計なお世話だって言ってんだよ!残された子供達はどうなる!エリーの家族達はどうなる!!そして…望んでもいない永遠を強いられるエリーはどうなる!!!こんな苦しみ、俺一人で十分なのに!」


「止めてアキラ。…ねぇ、創造主さん」


 エリーが俺の腕に触れ、そして創造主に目を向けた。


「エリー…何で知って…」


「私ね、夢を見てたの。アキラ達が戦って、ダービーさんが突然消えちゃって、アキラがこの人と話してる夢…」


 ハッとして思わず創造主から手を放してしまう。エリーはそれに納得したように、再び創造主に言葉を掛けた。


「創造主さん。アキラがこの世界を造るってことは、何でもアキラの思うとおりに出来るって事だよね?」


「あぁ。この空間から出られないという制約の範囲内で…だがな」


 創造主が返すと、エリーは安心したように穏やかな顔になった。そして、次に俺に真剣な眼差しを向けてきた。


「ねぇアキラ。さっき、アキラ残された人達はどうするって言ったよね?」


「…あぁ」


「自分…振り返ってよ…」


 凛とした表情で俺を見たエリーは今度は顔をくしゃくしゃにして大粒の涙を零した。


「アキラが帰って来なかったら、残された私はどうなるのよ…」


 エリーの言葉に、息を飲んだ。


「アキラがこの闘いに向かう前…アキラが無事に帰って来れるようにずっと祈ってた私はどうなるのよ…。例えアキラが無事でも、帰って来れないなら何の意味もないじゃない…」


 心の中で舌打ちをした。想像力の欠如も甚だしい。


「それに…アキラには私の姿が見えるかもしれない。ううん、アキラの事だから、ずっと私達を見守ってくれるってわかってる。でもね…私が死んで、ヨッドとエダイも死んで、シーリカさん達はずっと生きてるかもしれないけど、それでも触れられないで、一緒に笑うことも出来なくて…」


 エリーは一呼吸置いて、泣いて赤くなった瞳をまっすぐ俺に向けた。


「そんな苦しみ、アキラだけに味あわせたくない」


 俺が言葉に窮してると、エリーが俺の胸に顔を埋めてきた。


「二度と帰れなくてもいい。皆みたいに死ねなくてもいい。私は…アキラの寂しさを軽く出来るなら、ずっとここに居ても構わないよ」


 エリーの覚悟を聞き、静かに目を閉じると、俺はそのまま創造主に聞いた。


「なぁ創造主…」



次回、最終回です。ここまでお付き合いいただいた皆さん、お疲れ様でした。そしてありがとうございました。

最終話と…実はエピローグも考えているのですが、最後までお楽しみいただけると幸いです。

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