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クリエーター  作者: 如月灰色
《第五章 終焉の時》
118/121

~第百二話~クリエーター

「…るじ…主…」


 彼は駆け上がっていた。

 仲間の死を悲しみ、自分の無力さを嘆き…。


「主!もうすぐ頂上に着くぞ!」


 その涙を零さぬよう、一心不乱に走る。


「主!危ないぞ!」


 相棒の声は彼に届かない。

 感情の奔流を抑えることに必死な彼には。


 そして…。


「あいたっ!?」


 盛大に頭をぶつけた。

 俯いて駆け上がっていたので情報は階段のステップしかなく、しかもいきなりステップが途切れたことに対応出来なく、足を強く踏み外してバランスが崩れた矢先に頭頂部を強打した。

 かつて幼子の頃、頭蓋は頂点が開いているという。これからの脳の成長に、それを圧迫しないよう内圧を開放する為だ。大人になるにつれその穴は閉じていくが、その名残か頭頂部…脳天は圧倒的人体急所だ。


「…だから言ったろうに…アホ主…」


「っ…頭割れる…」


 つむじの辺りを両手で押さえてしゃがみこむ。こんな痛み、親父やマドラのおっさんの拳骨食らったとき以来じゃねぇか…。

 のた打ち回らないだけ自制している自分を褒めようとした時、瞼の裏が急に白く眩しくなった。


「主っ!扉が…天国への扉(ヘヴンズ・ゲート)が開…」


「何言ってんだ、天国への扉(ヘヴンズ・ゲート)はお前…」


 真っ白な光が次第に強くなり、強風に似た存在感に一瞬前後不覚になった。

 頭の激痛が何とか少しずつ治まり、薄目を開けるとさっきの光そのままの真っ白な空間にポツンといることに気がついた。


「…無様な格好してるな、指環の主」


 急に降りかかった声に前を向くと、一人の男が立っていた。

 しかし、その姿は定かではない。

 髭を蓄えた仙人のようであり、精悍な顔つきの壮年の男のようであり、まだ幼子のようでもあった。

 しかし、その男から発せられる存在感は、これまでの誰とも違った。

 一代で富を築いた父剛三、キュートス国国王キート=ベイン三世、日本国首相長谷川、そして…悪魔王サタナエル。

 かつて強大なカリスマ性を持つ男たちを間近で見てきたが、目の前のこの男は別格だ。規格外過ぎて別枠と表現し直してもいい。

 清浄な光に包まれたその男の前に、無様にも身震いが止められなかった。


「なんだよこいつ…なぁ、ダービー…ダービー?」


 ダアトにいた時と似た、漠然とした不安がよぎる。相棒がいつの間にか消えている。あの時は這い寄る混沌、ナイアルラトホテップとして俺の前に姿を現したが…。


「ようこそ、指環の主。神代より紡がれた我が遊戯の主役、神谷晶よ。ここは思考と創造の玉座セフィラ、ケテル。我と汝の為の玉座だ」





「ダービーは…」


 目の前の男の言葉は断片的にしか脳に入ってこないが、ダアトと似た感覚の正体はわかった。

 しかし…だとしたら…。


「そんなことはどうでもいい。ダービーは…俺の相棒はどこに行った…」


「ダービー…指環の精か。あやつから何も聞いてなかったか?」


 『何も聞いてなかったか?』

 その言葉に、直近のダービーとの会話を思い出そうとした。

 ダービーと最後にいたときは、勿論階段を上がっていた時。ここにたどり着く前に、俺はグレンが消えた事実を必死に耐えようとして…。


『主っ!扉が…天国への扉(ヘヴンズ・ゲート)が開…』


『何言ってんだ、天国への扉(ヘヴンズ・ゲート)はお前…』


 まさか…。


「ふむ…後ろを見た方が早いか?」


 男の言葉に後ろを振り向くと…。


「あっ…あぁ…」


 立ちかけた姿勢から、もう一度膝から崩れ落ちた。




「ダー…ビー…」


 俺が入ってきたと思わしき金剛石で出来た扉の手前、見覚えのあるタキシードが落ちていた。

 そのタキシードの右袖はまっすぐ俺に伸びていた。何かを訴えかけるか警告を喚起するかのように…。


「ダービー!」


 咄嗟に自分の指を見つめるが、いつもあいつの存在感を感じていた指環は、ただの装飾品に成り下がっているようだった。


「もう、この遊戯はエンディングを迎える。彼の役目はもう終わったよ。悠久の間、彼は孤独に耐えてきた。もう終わらせてやっても…」


「てんめぇ!!」


 泣きそうな程力を込めて、目の前の男の胸倉を掴む。幽子体アストラルを掴むかのように酷く頼りない感触だったが、それでも目の前の男に感情をぶつけなきゃ気が済まない!


「終わっていい命なんてねぇんだよ!あいつは…ダービーは…」


「そんな瑣末な事を。我は全ての者の生殺与奪を司る…」


「俺らはお前の玩具じゃねぇんだよ!!」


 左手で胸倉を掴みながら、右手で思いっきり男の左頬をぶん殴った。別にダメージがあろうとなかろうと構わない。ただボコボコにしなければ気が済まない。


「汝…我を誰だと思ってる…この世界を作り出した創造し…」


「んなことハナっからわかってんだよぉ!!」


 もう一発ぶん殴る。これは…その生に俺たちの為のくだらない犠牲を刻み込まれたココの分。


「俺はなぁ!」


 殴る。これはグレンの無念の分。


「てめぇをぶん殴る為に!!」


 これは…理不尽に孤独を運命づけられ、その結果消えてしまった相棒の分。


「くっ…やめっ…」


「来たんだよぉ!!」


「ぐはぁ!!」


 最後は…こいつが決めたレールに逆らえずにいろんな人を犠牲にしてしまった自分の分。

 …八つ当たりとは言わせない。

 ぶっ飛んだ創造主が口から血を流して立ち上がる。

 その目は何の感情もない、ただの顔の一部のようなものだった。




「気が済んだか、矮小なる人間よ」


「…は?」


 口元の血がいつの間にか消え、そいつは無感情な顔を俺に向けた。


「感情と意思を持つ我に似せて作られた人形…『ヒト』」


「…は?」


「『ココロ』というものに魂のメモリーの大部分を費やし、その代わりにその身は脆弱になった。その逆、知性を待たぬ代わりに強靭な本能と頑強な肉体を持った『ケモノ』」


 創造主がとつとつと語りかける。その真意がわからず、ただ聞きに徹する。

 この言葉の中に、俺たちの時空を翔けた闘いの答えがあるかもしれない。


「そしてヒトより知性と影響力を重視した結果、肉体を待たざるに至った天使と悪魔、そして『カミ』。その三つを多様にブレンドし、共存するのが我が箱庭…この世界」


「ほう。この世界がお前が造ったシム○ティーだとして、何をしたかったんだ?創造主さんよ」


「我はただ、見てみたかった」


「…は?」


「『ヒト』が我と同じ力を手に入れたとして、それをどのように使うかを見てみたかったのだ」


 するってぇと何かい?俺たちはおめぇの知的好奇心の為に嘆き苦しみ、そして死んでったってーのかい?


「善や悪の権化である天使や悪魔では、どのように行使するか目に見えている。神性は…わからんが、もともと影響力が強いゆえに力を与える必要はない。ケモノはケモノで知性がない為に力を使いようがない。そこでケモノより体が弱いが『感情』を持ち、天使と悪魔のように『善でも悪でもない』ヒトがどのようになるか、興味を持ったのだ」


「…つまり、俺たちは教室のメダカと同じってことか?ただの観察対象の」


「だから言ったであろう?これは『遊戯』だと」


 …ちょっと呆れて、言葉も出てこなかった。


あと二、三話で完結を…。出来るかな?

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