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クリエーター  作者: 如月灰色
《第五章 終焉の時》
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~第九十八話~往く者と残る者

「行くってさ…」


 シーリカに背中を押されてよろけると、三人は笑っていた。

 グレン、カイム、そしてシーリカ。

 俺がこっちの世界に来て護国騎士団に入ってから、いつも一緒にいた三人…。

 その三人が今、俺を見送るために笑っている。

 強大な敵を背に…。


「馬鹿、あいつは皆でやらなきゃいけないレベルだろ」


創造主クリエーター…」


 カイムの言葉に、一瞬言葉を発することを忘れる。なんとか次の句を口にしようと思ったら、シーリカに奪われた。


「私達は、原初の因縁を…忌まわしき因縁を果たす為にここに来た。因縁に打ち勝ち、世界に平和をもたらすためにここに来た。違う?」


「それは…」


 間違ってない。間違っちゃないけど、あいつの力は強すぎる。この星を壊しかねない力を持つ相手に、誰かが欠けた状態で戦うのはあまりにも無謀だ。

 俺がそう問おうとした時、か細い声が遠くで聞こえた。


「貴様は誰だ…?言ってみろ、人…げ…」


「お前…まだ生きてい…」


「お主はもう退場じゃよ」


 ガラムの声に反応したアスタロトの首が、一瞬で飛んだ。

 俺が振り返ると、首が無い馬に牽かれた戦車の上、老人が槍を納めていたところだった。

 そしてその老人は、俺の視線に気づくとにっこりと笑いかけた。


「のう?無貌のの主よ」


「ノーデンス…」


 俺の傍らに居る、ダービーが呟いた。

 旧神・ノーデンス…。アレが、旧支配者を封印した英雄か…。


「さぁ、行って来い。アキラ…いや、ノア=キーランス!」


 グレンが力強く叫ぶと、他の皆が同調した。


「キーランス…貴方の因縁は、あそこのはずよ」


「何を迷ってる、晶」


 二人支え合うようになんとか立っている、ヘラと白夜が笑う。


「…行ってきなさい、ノア。そして…終わらせてきて」


 シーリカが笑う。


「ここは任せろってんだ!」


 グレンが笑う。


「早く…行け…間に合わなくなっても、知らんぞ…」


 ガラム王子は…喘いでるが。


「ノア…俺達を信じて。ノアがアキラとして帰ってくる事を、俺達が信じたように、この戦いだけでいい。俺達の事信じてくれ」


 カイムが…笑う。


「馬っ鹿野郎…」


 俯き、拳を握る。歯が軋む音まで聞こえてくる。

 俺は…俺は…。


「行こう、主」


「ダー…ビー?」


 俺の肩を叩き、相棒がにっこりと笑った。


「信じようではないか。主の…仲間を!」


 クッソ!俺はこんな時も皆に甘えてしまうのか!

 ここまで皆で一緒に来たんだ。最後まで一緒に…。


「茶番はそろそろいいかな?」


 空に浮かぶサタナエルが、指と首を鳴らして気を溜めている。

 肘を軽く曲げ、上を向けて広げられた両の手のひらには、尋常じゃないくらい圧縮された魔力が渦を巻いていた。


「どっちにしろ、行かせんよ」


 サタナエルが手を振るったと同時に、ダービーが俺を掴んで駆け出した。


「行くぞ、主!」


「ロイガー!ツァール!」


 背後を振り返ると、シーリカが二人の神性の名を叫び、サタナエルに対抗していた。

 ロイガーとツァール。ダービー…ナイアルラトホテップやクトゥルーと同じ旧支配者にして、四大元素『風』を司る、『名状しがたい者』ハスターの眷属…。


ーーーそっか…シーリカも風属性最高位の魔術師だもんな…。


 サタナエルの二つの魔力と、ロイガーとツァールが衝突し爆砕する。ロイガーとツァールが生み出した風の煽りに背中を押され、俺達は加速した。


ーーーいってらっしゃい、ノア…アキラ。そして、新たな世界を『創り』直して…。貴方が望む、優しい世界に…。


 シーリカの声が、直接脳内に語りかけてきた。微笑みすら感じられそうな優しげな声に、涙が出そうになる。

 俺達が顔を合わせるのは、さっきのがもう最後だったかもしれない…。

 そう思うと、寂しくて辛くて仕方がなかった。


「…愛されておるな、主」


 並走するダービーが、微笑みかけてきた。


「だからこそ、終わらそうではないか、主!」


「…あぁ!」


 袖で顔を拭い、時魔法の加速をかけていく。そして気づき、立ち止まり振り返った。


「主?」


「皆!餞別だ!速さは力…絶対、勝ってまた会おう!」


 地面に手を付き、遠くに見える仲間たちの背中に、叫んだ。


「『大地の祈り(アース・ブレス)』!そして…『光速シューティングスター』!」


 土属性最高位の補助魔法と、時属性最高位の加速魔法を送る。

 後衛魔術師として、俺が出来る最後の援護だ。俺の全力を、仲間たちに託す。

 おかげで俺の魔力はすっからかんだ。無限の魔力(エターナル・マナ)の回復力に期待するしかないくらいのエンプティー。

 ただ…皆には、俺の全てをかけてでも勝って欲しかった。

 土の伝導力に光速の魔力を乗せ、一秒でも早く皆の元へ…。


「主、今のは…?」


「大地の祈り…土魔法最高位にして、俺の無限の魔力を持ってなきゃ出来ない凶悪な魔法だよ。俺以外が使うと、命を引換えに使わなきゃいけない事から禁術扱いされてたんだ」


「なんという…いつ覚えた?そんな時間は…」


「魔術師団に入って、カイムと図書館に行った時にチラッとな」


「チラッとておま…」


「んっ?おまなんだって?」


 青筋立ててダービーの頬をつねり上げる。どうだ?ほっぺた落ちそうだろう?


「すまん、すまん主!つい掲示板のクセで…」


「お前はいつ回線に介在出来るようになったんだ?」


 最後にピンと弾いて離すと、ダービーの両頬は見事真っ赤になってましたとさ。涙目で顔をさすっているが、俺は知らん。自業自得だ。


「ったく…。この魔法は体力全回復以上のステータスブレイク状態。更に浄化や対物理、対魔力ダメージ半減以下の補助付き。更に光速もつけて速さまでブレイク。いくら最強の悪魔でも、光の速さにはついてこれまい」


「…チート過ぎないか?主」


「だから命をかける『禁術』なんだよ。俺だって無限の魔力(エターナル・マナ)がなきゃ五回死んでもまだ足りない。でも…俺も全力で戦いたかったから…」


「主…」


「行こう、ダービー。クソッタレな創造主をぶん殴って、この戦いを終わらせよう」


 城のエントランスから、階段を上り、最上階に辿り着く。

 ドアを蹴り破ると、光輝く『ゲート』が鎮座していた。


「行くぞ…」


「あぁ!」


 ダービーと拳を合わせ、ゲートを潜る。眩しくて目が潰れそうだ。

 目を瞑り順応するのを待つと、ようやく視界が開けてきた。

 …そして、絶望した。


「また…階段かよ」




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