~第九十七話~晶&ダービーVSサタン&ルシファーその3
サタンの咆哮と共に、あいつを蹂躙していたはずの神々が吹き飛んだ。
大多数が霧散し、残ったのは上位の神性のみだった。
…トイレの神様は無事退避出来たのだろうか。
「ハァ…ハァ…」
全身から血を流し、そして怒りにその血は蒸発していった。
常人ならそれだけで死んでしまいそうな殺気を俺に向ける。
「ルシファー…」
「…仕方ないね。僕もよもや、これ程だとは思わなかった」
背後を見ると、ダービー…ナイアルラトホテップも神性…もとい、同志を召喚しているようだった。
情勢は、完全に俺達に傾いていた。
「ダービー!一気に叩くぞ!」
「待て主!」
俺は薙刀を持ち、走った。
こいつらが何を考えているのかはわからん。が、その前に叩いてしまえばそこで終わりだ!
「モード、『聖別』!!」
切先に浄化をかけ、神速で振り抜く。
『聖』と『邪』。あいつが悪魔たる『邪』である限り、『聖』に抗う術はない。
『加速』と『浄化』…更にさっきの『神々の黄昏』。その前の諸々の魔法の行使で、もう結構魔力が減ってる。『無限の魔力』持っててもこれだけ疲れるのか…。たぶん、いや絶対『神々の黄昏』のせいだ。
ぶっちゃけ、浄化かけたときふらっと来た。浄化も消費魔力が多いからなぁ…。
つうか、ジャッジメントってなんだよジャッジメントって。ですのって言えばいいのか?俺はレールガンの方が好きだ。もしくは遊○王のカードか?
「っ!?やっべ!」
くだらない事を考えてたら、サタンの懐まで来ていた。早く届くように偃月刀選んで加速までかけていたのに、懐入ったら意味ねえじゃん。逆にリーチが邪魔だ。
そしてもっと悪いことに、魔力の消耗で集中力が切れたせいで、浄化の効果が切れていた。
クソ、『聖なる十字架』みたいに投げっぱなしじゃないのかよ、聖別!
「ウォラァ!」
そこに容赦なくかまされるサタンの前蹴り。咄嗟に柄で防御したが、衝撃のあまり元の位置に転がっていった。
ふりだしに戻る。
「なに遊んでるのさ、サタン」
「五月蝿い!」
俺が視線を戻すと、サタンは自分の胸に手を突き立て、黒い光球を出した。
いつでも打ち返せるよう得物を構えるが、それは俺を飛び越え上空に放たれた。
目で追うと、ルシファーの方からもそれは投げられ、そしてぶつかった瞬間黒い雷が降った。
「ダービー!」
「主!」
相棒の気を探し傍らに立つと、ダービーは苦い顔をして頷いた。
…この際、ダービーの近くにいる人達は気にしない方向でいこう。たぶん下手に認識すれば、発狂しそうだ。
「そういや、あいつらは!?」
「ダメだ、土煙で全く見えん!」
「あーもう、めんどくせぇ!消えろ!」
俺が手を振るうと、辺りの粉塵が磁石に吸い寄せられる砂鉄の如く、俺の振るった腕に収束した。
「主!アレっ!」
ダービーが指差すと、サタンとルシファーが横たわっていた。うつ伏せに倒れたやつらからは、気が感じられなかった。
「私に気づいていて無視しているのか、それとも気づかない程鈍感なのか…」
声がする方向を振り返る。…すまん、後者だ。サタンとルシファーの体に気がいって、気づかなかった。
そして目に入ったのは、大きさ二倍弱(当社比)に成長した、サタンの特徴にルシファーの翼を持った男だった。浅黒い体と角はサタン、衣服と翼はルシファー。…その翼は。漆黒だという相違点はあるが。
「我が名はサタナエル。そこな土の神性と指環の精同様、二つとして一つの我らが完全究極体よ」
「グレート○ス…」
「ブッ!」
俺が小さく呟くと、隣のダービーが吹き出した。
だって完全究極体なんて、あの虫しか思い浮かばないもん。
インセクターさんチーっす。
「私を蛾と申すか!」
「知ってんのかよ!」
俺のツッコミが炸裂したと同時に、パリンという音と共に空間も炸裂した。
…もとい、衝撃波がガラリオン山脈にぶっ刺さった。正確には、一度俺達をかすめて山脈の山頂部を切り離し、おそらく世界一周してきてもう一度山脈に突き刺さった。
…こんなんありかよ。
「狂気山脈が!」
「なんという…」
「狂気山脈だったの!?アレ!」
なんというか衝撃的事実をダービーの仲間から聞いたような気がしたけど、今はそれは大した問題じゃない。一呼吸して、ツッコミに乱された呼吸を整える。
「…とりあえず、やってみるか。ロッ○バスター!」
右手に収束されたさっきから重たかった土塊を青い岩男の如く撃ち出した。
そして案の定、それがやつにダメージを与えることはなかった。
「いや、案の定っては言ったけどさ…あれ、音速で撃ったんだぜ?それで無傷かよ…」
「じゃあ、私の番でいいか?」
「ノーサンキュぅぅ!」
慌てて退避すると、俺達がいたところにさっきと同じ衝撃波が撃ち込まれた。
鼓膜がヤバいレベルの炸裂音を聞きながら、攻撃が当たった所を覗く。…暗くて先が見えん。いや、探査を使って後悔したから現実逃避したとも言える。
ーーー星を開きやがった。
フロンティア精神なんてレベルじゃねぇ。裏側までパックリいってやがる!こんなん何発も撃たれたら、俺達どころか世界がヤバい。
…これは、早急になんとかするしかないな。つうかそうしないと、世界が滅びる。
「主!危ない!」
空隙を覗き込んで惚けている俺を、ダービーのタックルが救った。
地鳴りと共に、暗黒色のマグマが吹き出す。…なんでなんでもかんでもこいつらは黒なんだ?
「アキラ、俺に任せろ」
声に振り返ると、いつの間にかグレンがそこに立っていた。
どうやらさっきのサタナエルの一撃で、俺達を仕切っていた亜空間が崩壊したようだ。見渡すと、皆の姿が見える。一応、死んだ者はいないようだ。
…ガラムの野郎、しくじりやがったな?ガラムの側に、サタナエルを見つめ青ざめているアラストルが見える。
あと、カイムの近くにいる小汚い梟はなんだ?
「うん、アキラは行ってきな?」
「あっ」
カイムが梟を簡単にくびって笑った。そんな簡単に殺れんだ?
つうか、どこへ?
「あの城、行くんでしょ」
シーリカが俺の背中を押した。