~閑話休題~晶、1○歳のころ
白カカオです。第九話、加筆修正しました。粗ありすぎて困る…そして、なんかここ数日で驚くほど爆発的にアクセス数が伸びてるんですが、どういうことでしょうか…どっどれだけ感謝されれば気が済むの!…すみません。ということで、夜勤前に短めの小話を投下します。
「なぁ…僕ら別れよっか?」
受験も終え、卒業間際、いつも通り僕の部屋でくつろぐ僕と、交際中の彼女、倉橋香奈子。三年生の春に交際をスタートして、もうじき、一年になるところだ。
「ほら、僕は東京の大学に行くし、香奈子は北海道だろ?結構な遠距離じゃん」
「うん…そだね」
僕は東京の三流私大になんとか合格。香奈子はどうしても行きたい大学があると、自分の進路を曲げなかった。彼氏に流されがちなこの世代の女の子にしては、なかなかたくましい子だと思う。だから付き合ったんだけど。それが互いの道を分けることになったのだから、皮肉なもんだ。
「そうだよね…私が譲らなかったんだよね」
「受け入れたのは僕だけどな」
思うことがあったんだろう、しばし、気まずい沈黙…。切り出したのは、僕の方だけど。きっと、お互い離れ離れになったら、恋人という関係を維持出来るほど強くない。香奈子もわかってくれているんだろう。付き合うきっかけをくれたのは香奈子だから、せめて別れるきっかけくらいは僕が持とう。香奈子も、きっとわかってくれる。
ベッドで漫画を読んでいた香奈子が立ち上がり、あぐらをかいて座っている僕の背中にコツンと頭を預ける。
「私があきちゃんより、自分の夢、とったんだよね…」
泣くのを我慢しているような、振動が伝わる。
「いいことじゃないか。夢とかこれっぽっちもない、僕にとっては羨ましいよ」
「ごめんね…」
「なんで謝るかな、フったのは僕なのに」
僕も泣き笑いのような顔を浮かべ、向き直らせ正面から香奈子を受け止める。香奈子の体温が、愛おしい。
「服、汚れちゃうね」
「気にすんな。香奈子は滅多に甘えてこないんだから、今のうちに甘えとけ」
「ありがとう…あきちゃんの胸の中、安心する。すごい癒される。全部包み込んでくれるような」
香奈子が笑いながら顔を擦り付けてくるのがわかる。
「冬で太ったからな」
「違うよ馬鹿…あきちゃん」
「んっ?」
香奈子が胸から離れ、真っ直ぐ僕を見据える。いつもの薄化粧は頬に幾重もの筋を作っているが、やっぱり香奈子は綺麗だ。
「私、あきちゃんが好きだった。ううん、今でも大好き」
「あっ…」
『晶、私たち、付き合わない?』
一年近く前、放課後みんなでカラオケに行った帰りに向けられた、香奈子の言葉を思い出した。
『私…晶なら嫌いじゃないし、付き合ってもいいかなぁ…なんて』
あの時は、随分と婉曲な言い回しだったけど。
「でも、明日からは、友…達として…よろしくお願いします」
言葉に詰まりながらも、僕の結論を受け入れてくれた。泣くな僕!加奈子の前ではせめて、笑ってやれ。
「あ、ぁ…」
「でも、今日だけは、あきちゃんの傍にいさせて…」
また僕の胸に顔を埋める香奈子。身長差、頭一個分。香奈子の頭は苦もなく僕の胸の位置に収まる。背中に回る腕に力が入っている。
「あぁ…」
その後、しばらく二人で抱き締め合って泣いた。結局、僕は堪え切れなかった。軟弱者め。
「お邪魔しましたー」
「あらぁ、帰るの?また遊びに来てね?」
「はい!また、いつか…」
最後に小さくこぼしながら、お袋の言葉を背に香奈子と僕は玄関を出た。田舎の春先は、やっぱりまだ肌寒い。空を見上げると、綺麗な星空が迎えてくれた。
「あきちゃん、夜空の下で散歩するの、好きだったよね」
「うん」
「実は私寒いの結構我慢してたんだけど」
「嘘っ!?ごめん。言ってくれりゃ良かったのに」
「んーん…空見上げるあきちゃん見るの、趣味だったから」
「なんだよそれ」
「ほら、人間好きなものの為なら我慢できるじゃない?」
「そんなもんか?」
「私、あきちゃんの家族もみんな、好きだった。居心地良かった。順子ちゃんの目、たまに怖かったけど、それでも可愛らしくて、好きだった」
…沈黙。二人の足音だけが、響いている。
「じゃ、この辺でいいよ」
コンビニがある、いつもの待ち合わせの十字路で香奈子が切り出す。
「でも…」
「これ以上、あきちゃんの傍で甘えられない。もう、覚悟したから」
「そっか」
こういう時って、たぶん女の子の方が強いと思う。僕なんか、自分で出した答えに未だに迷っている。
「最後に…」
そういうと、香奈子は唇を重ねてきた。震えは、寒さなのかそれ以外の何かがあるのかは、僕にはわからなかった。
「じゃあね、晶!」
笑顔で去っていく香奈子の方を、必死に笑顔を作って見送る。きっと、これで正しかったんだと思いたい。
ただいまも言わず、部屋に戻る。家族には、今日は言えそうにない。帰り際のアレで、あの場にいたお袋と姉貴はわかってそうだけど。窓を開けると、冷たい風が身を切るようだ。何かを誤魔化すように、僕は生まれて初めて煙草を買った。空き缶を灰皿代わりにして、一息吸って思いっきりむせる。
「お兄ちゃん…あれ、煙草吸ってるー!」
「…ノックくらいしろよ」
ゲホゲホと咳き込む僕の目に、涙が浮かぶ。きっと、慣れない煙草の煙のせいだ。
ーーーして主。香奈子殿の抱き心地はいかほd
「お前…台無しだよ。僕の美しい思い出を」
ということで、いつもと違うテイストでお送りしました。お口に合いましたでしょうか。ふぅ…こういうのって、書いててしんどいんだなぁ…出来るだけ爽やかにしてみました。学生の恋だし。でも別の小説でチャレンジしてみようかな?次回、キュートス編に戻ります。