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クリエーター  作者: 如月灰色
《第五章 終焉の時》
109/121

~閑話休題~とある世界の日常その2

というわけで、番外編でした。少し短めの内容なので、連投してしまいたいと思います。

「相変わらず、絵里ちゃんは料理上手ねぇ」


 会社を見上げる公園で弁当を広げる、俺と梨華、向居に蓮の四人。同期のこの三人とは、入社して何年か経つが未だにこういうことをしている。

 ちなみに、冒頭の発言は梨華。以前同期組で俺んちに邪魔しに来た時に、絵里の手料理を食った時のことを覚えていたらしい。


「だからって、人の弁当をつまみ食いしていい理由ではないぞ・お前も自分で作れ」


「やぁよ。私より、今の彼の方が料理上手いし」


「エビ○ス嬢乙」


「ビッチ乙」


 手元の砂を俺と蓮の弁当に入れてこようとする梨華に、ひとしきり笑った後向居が話を振る。ナイスタイミングだ。


「梨華の今の彼氏って、あの無口なおっきい人?」


「そうよ?ああ見えて、意外と器用なんだよ」


「つうか、食いもんを粗末にすんな」


「強面なのにホント意外だな」


「俺はスルーかよ」


 自分も弁当がクライシスだったのに、流れが変わると蓮はもうそっちに乗っかりやがった。この世渡り上手め。


「今度ご馳走になりたいな。でもその前に晶、もうすぐ洋君と大君の誕生日でしょ?何かプレゼント買ってくから、絵里ちゃんの料理また食べさせてよ」


「あー!俺も俺も!」


「私も、久しぶりに絵里ちゃんと洋大見に行く!」


「お前ら…その代わり、ちゃんとプレゼント買ってこいよ?向居おじちゃんはちゃんと買ってきてくれるんだから」


「おじちゃんって歳でもないじゃん、俺ら…」


 苦笑する向井を尻目に、


「蓮、心ちゃんも連れてこいよ。外出許可は出てるんだろ?絵里もきっと、喜ぶから」


「…あぁ」


 連の妹の心ちゃんは、絵里の学生時代の同級生だ。今は少し重い病気を患い、入院中だ。幸い手術も先日成功し、今は快方に向かっているらしい。


「蓮、今日仕事終わったら心ちゃんのお見舞い行っていいよね?あそこの病院、面会時間融通きくし」


「あぁ、来てくれ。あいつも喜ぶ」


「じゃあ、みんなで行こうよ」


 蓮の顔がパッと華やいだ。妹さんの話になると少し物憂げな感じになるのだが、こいつはいつもみたいにちゃらけている方が絶対に似合う。


「神谷さーん!ちょっと来てください!」


 会社の方から、後輩の田瀬が走ってくる。首に掛けた『田瀬流』と書かれたネームプレートが跳ねている。


「どうした?まず落ち着けって」


 タンブラーを一口飲ませ、田瀬を落ち着かせる。肩で息をしていた田瀬が、息を整えた。


「会社曲がったところで外人さんに道聞かれたんですが、俺英語わかんなくて…ちょうど神谷さん見えたんで、思わず来ちゃいました」


「俺だって日常会話位しかわからんぞ?」


「そんだけわかれば充分よ。いってらっしゃい」


「はいな」


 ハーフのくせに英語が話せないデンゼルを連れて、


「あの人です」


 田瀬に道を聞いた人物にたどり着いた。これはわかりやすい、背が高めの、褐色の肌に銀髪に近い金髪。こりゃ話しかけたら大概に逃げられそうだ。お巡りさん…と田瀬に続こうとした俺は、きっと悪くない。


「ヘイミスター。何か困ってるのかい?」


 …勿論英語だ。念の為。


「おぉ!道を教えて欲しい。霧都キングダムスって会社なんだが…」


 なんか、ネイティブの発音で社名を言われると、色んな意味で圧倒されんな。王国にSつけちゃうんだぜ?つうか社名だけなら、何の会社だかわからんな。


「それならウチの会社だけど…その角を左に曲がれば、すぐつくよ」


「サンキューボーイ!」


 …ボーイって歳でもないんだけどなぁ…。外人に、日本人は若く見えるというのは本当だったのか。

 俺がブツブツ呟いていると、頭上から声がかかってきた。


「ヘイ…もしかしてどこかで会った事が?」


 こんなインパクト抜群な人物と会って、忘れようがないはずなんだが…言われてみれば確かに…。いや、でも絶対忘れないよな?


「いや…たぶん気のせいじゃないかな?アンタのビジュアルは、一目見たら忘れなさそうだし」


「そうか…助かったよ。また会おう」


「シーユーアゲイン。ミスター」


 背の高い褐色の恋び…外人が俺から離れると、俺の中にさっきの質問がかま首をもたげる。

 おかしい…絶対忘れなそうなのに、俺もどこかで…。今朝の夢か?でも、それこそ何の根拠にもならない。でも…どこかで…。


「神谷さん、助かりました!」


 ペコリと頭を下げる田瀬の頭を、そのままグリグリしてやる。


「お・ま・え・は!はっきり霧都キングダムスって単語出たじゃねぇか!ちゃんと最後まで話を聞け」


「すいません、つい反射で…」


「ったく!普段は優秀なのに、なんでこういうときは抜けてんだ…」


 田瀬のケツを叩いて戻ると、もうすぐ昼休みが終わる時間だ。さて、準備するかな。クイーンズ・カンパニーは一駅先だ。早めに出ても、然程問題ないだろう。


「晶、もう行くの?」


「あぁ。さき仕事戻ってら」


 公園でギリギリまで満喫するのであろう同期達を置いて、先に自分のデスクに戻る。まぁ…お客さん迎えに行くだけだから、何の準備もいらないよな?名刺位か…。




 クイーンズ・カンパニーに着くと、午後から向居が商談に赴く、世良商事の社長さんが出てきた。一例してやり過ごすと、その背中を見つめる。結構なお歳のはずなのに、壮健な体格のせいで全くそれを感じさせない。うちの社長も親父も似たようなところあるし、社長になるのはそういう器の人間なのか?それなら俺には無理だ。


「そんなジロジロ見てると、失礼だよ?いきなり振り向かれたらどうするの。晶のとことも、お付き合いあるんでしょ?」


 振り返って受付カウンターを見ると、俺と同郷の幼馴染…倉橋香奈子が笑っていた。こいつは北の大学に進学したはずなのに、いつの間にか都内に就職を決めてやがった。世間とは狭いとつくづく思う。


「その時はその時さ」


「あきちゃん昔からそういうとこあるよね。それでホントにどうにかなっちゃうから、タチが悪いんだけど」


「タチが悪いってどういうことだよ?」


「おかげで勉強、したことなかったでしょ?」


「ぐっ…」


「それで、学校上がってから相当苦労したんでしょ?」


「ぐぬぬ…つうか、何で知ってんだよ」


「お母さんから聞いたもの」


 あのお袋…余計な事をリークするんじゃない。


「それよりあきちゃん、何か用事あったんじゃないの?」


 香奈子の言葉に、本来の用事を思い出した。知人に会うと、つい脱線してしまうのは俺の悪い癖だ。


「あぁ!今日デイビット・ヘヴンスさんって人が来てるだろ?迎え頼まれてたんだ」


「あら、デイビットさんならさっき、もう出たわよ?なんでも、日本の地を自分で歩いてみたいって」


 ホーリーシット!ちょうど行き違いだったか。おのぼり外人さんにありがちなアレか。駅に大群に巻かれて泣いてないといいが…。つうかこんな都会の迷路みたいな道、案内無しなんて無謀過ぎる。


「サンキュ!…あー、デイビットさんの連絡先、聞いてるか?」


「聞いてるけど、たぶん大丈夫よ?あきちゃんの会社までここからあまり遠くないし、簡単に道順は教えたから。それに、見た目でなかなかわかりやすい人だし」


「だからって、迷ってるかもしれないだろ?」


 慌てて胸元から手帳を出す。乱暴にメモ欄を出すと、ある発言が気になった。


「…わかりやすい?」


「うん。おっきくて、肌焼けてて、色素薄い金髪で…」


 …おい、まさか。

 その時、会社から電話が来た。香奈子に断りを入れて、電話に出る。


「あー晶、すまん、デイビットさんもう会社についてしまっていたんだ。応接間に通してる間に、お前が出て行ってしまったようだな。戻ってきてくれ」


 …限りなくビンゴに近いビンゴ。たぶん俺が道案内した、あの人だ。


「…香奈子、悪い。もう大丈夫だ。サンキュ」


「そう?じゃあ、気をつけてね」


「おう」


「それと…頑張ってね?」


「何がだ?」


「デイビットさん、ちょっと軽いっぽいけど、いい人そうだから。あきちゃんが接待するんでしょ?」


「…あぁ」


 なんでこうもなんでもお見通しなんだ。複雑な表情を浮かべると、香奈子の隣から声をかけられた。


「倉橋さんと神谷さん、なんだか夫婦みたいですね」


「ブッフォ!」


「なっ!小鳥ちゃん、何言ってるのよ急に…」


「だってなんか以心伝心って感じで…いいなぁ。私もこんな素敵な旦那さん欲しいなぁ」


 急に何を言い出すんだこの子は。俺には嫁が…って、知らないか。結婚指輪位気づいても良さそうだけど、俺と香奈子がそうだと思えば、視界に入らないのか。人間、思っていないものは見えないというし。


「そんな事ないわよ小鳥ちゃん!あきちゃんとは幼馴染なだけ!私にその気があっても…もうあきちゃんは結婚してるし!」


 そうだ!…なんか途中聞こえづらいとこあったけど。


「つうか、行くわ。またな!」


「うん、気をつけてね」


 なんとなく居づらい雰囲気を察して、会社に急ぐ。そうだ、一駅とは言っても、どうせ一駅分の距離なんて大した距離じゃない。

 タクシーを捕まえて初乗り料金で収めると、社長の元に走った。


「すいません、遅れました!」


 顔を上げると、やっぱり…あの外人が社長と共に俺を見ていた。つうか、ウチの社名と外人さんって時点で気づけよバカ…。


「オウ!さっきは助かったよ」


「遅れてすまんな、デイビット君。彼が先ほど話した、神谷晶君だ」


「…カミヤ・アキラだ。よろしく」


 名刺を交換し、改めて握手する。


「デイビット・ヘヴンスだ」


「ヘヴンスって、すげぇファミリーネームだな」


「これでも由緒ある家計でな。君のこれも、『ゴッド』だろう?お互い様さ」


「そうだな。まぁ、これから長い付き合いになりそうだ。よろしくな」


「こちらこそ、よろしく頼む」


「おいおい…私も混ぜてくれよ」


 全英語の会話に、社長が置いてけぼりだったことを忘れていた。俺の今日の役目は、我が社の案内と社長の通訳だ。


「ところで社長。私が来るまで、何を楽しそうにお話しされてたんです?」


「あぁ、見てくれ」


 そう言うと、社長が重なった紙の下から、数枚の写真を出してきた。

 これ…。


「私の妻と娘たちを自慢していたところなんだ」


 写真を出した途端、デイビットさんは感嘆の声を上げる。ビューティフォーとか、ベリーキュートとか、簡単な英語だが。

 …こんな時に親馬鹿か。でも気をつけた方いいですよ?デイビットさん、好色らしいから。

意外と長くなってしまいましたorz番外編、次回で終わります。

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