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クリエーター  作者: 如月灰色
《第五章 終焉の時》
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~第九十四話~白夜&ヘラVSベリアル&アラストル《後編》

今回はヘラ視点です。

 アラストルの雷撃からのダメージを、半分肩代わりした代償は大きかった。

 魔力回路が麻痺しているようで、地獄をもたらす者(ヘル・ブリング)が解除され、白夜から分離される。白夜の中に居た時に装備していた破魔の篭手(ヤールングレイプル)力帯メギンギョルズ思念アストラル体は強制的に剥がされ、文字通り丸裸で倒れる。他人に肌を晒す事より、敵地で何も装備していないことの方が怖かった。

 雷撃のおかげで体が痙攣し、酸素を欲し喘ぐ。しかしそれすらきちんと形にならず、逆に正常な胸の上下運動しか出来ない。そして、白夜に更に一撃くわえたアラストルが、私に近づいてくる。

 終わった…かな…。私が今まで犯してきた罪…沢山の人を、魔道に陥れ、破滅させた罪を償えぬまま、私は終わってしまうのかな…。最後まで皆と一緒に戦えなかった事も悔やまれるけど、最後のパートナーが、白夜で良かった…。

 私が生を諦めたちょうどその時、声が聞こえた。アラストルの一撃を喰らった、私のパートナー…戦いだけではなく、全てを委ねた愛しい人…白夜の声が。


「アラストルーーー!!」


 もういい。もういいよ、白夜。お願いだから、楽になって…。

 私の気持ちは他所に、すぐ側からアラストルが倒れる音。そして…。


「ヘラに、こいつには指一本触れさせねぇ。あばよ、雷神」


 白夜の声と共に、アラストルの咆哮、そしてもう一つ大きな魔力の膨張を感じた。

 白夜…白夜…。

 上手く声が出ないのがもどかしい。体が動かせないのがもどかしい。白夜が、私を護って戦ってくれている。なのに私は、自分の体一つ満足に動かせないでいる。彼はもっとダメージを負っているはずなのに…。

 だから…。


「白夜…勝って…」


 勝つ気で…一人で勝つつもりで全力で戦わないと、アラストルより強大な魔力を感じるベリアル相手に持たない。

 だから、待ってて…ほんの数分でいい。私が立ち上がれるまで持って…。すぐ、貴方の力になるから…。


ーーーアレは…?


 早く行けるように、痺れた四肢に鞭打つように力を入れる。無理やり首を捻じると、仰向けに倒れ、胸を切り裂かれたアラストルの死体の中に、ぼんやり光る物が見えた。

 こうやってグズグズしている間、私の体組織は周囲の魔素をきちんと吸収してくれていたらしい。この地はギラン…セラスと比べ、闇の魔素が多く存在する。皆正当な『正』の存在に対し、一人だけ異質な私には、得てして自然な現象なのかもしれない。私は…彼ら(セブンス・デッドリー)寄りの存在だから。

 けど、あいつらを倒せるなら、私の特異性も悪くないのかもしれない。多少回復した体を動かし、アラストルの開腹された死体に手を突っ込む。そして、少しばかり驚く展開を目にした。


「ミョル…ニル…」


 それは金色に輝く、白夜が手にかけた、前キュートス護国騎士団騎士団長マドラの愛槌、ミョルニルだった。マドラの所有が解除され、トールと同じく雷神であるゼウスことアラストルに還ったか。

 しかし、これはちょうどいい。丸裸の私に、こんな最上級の装備品が手に入るとは思わなかった。

 雷槌ミョルニルは小さく火花を上げ、私を威嚇しているようだった。本来破魔の篭手、力帯の「トールズ・シリーズ」を身につけなければこれは操れないと言う。一定のレベルを超えた武具は意思を持ち、所有者を選ぶという。誰でも持てる物ではない。尤も前保有者、マドラは雷属性と己の才覚だけでこれを押さえ込んだみたいだけど…。

 そうは言っていられない。たしかにこれは私には有り余るくらい重く、その高圧の電流で、素手で持ったところで私の手は高温で焼き爛れてしまうだろう。

 しかし、それが何だ。私の相方は、それより重い傷を負い、それでも世界の為、私の為に戦ってくれている。白夜は、正統な初まりの者たち(スターターズ)ではないのに…。なのに正統な私が、指をくわえて見ているだけなんて有り得ない。

 お願い、ミョルニル…。今だけでいい、私に力を貸して…。


「あああアアア!!!」


 手に取ったそれは、予想通り私の掌を焼き付ける。しかしこの後に及んで、我が身可愛さで諦めるなんて頭はない。


「何っ!?」


「ヘラ!?」


「あああああああああ!!!!」


 今は、宙空に浮かぶあいつ目掛けて、放とうとする。重すぎて持ち上がらない。マドラのように振り回す事は出来ない。


「ベリアルーーー!!!」


 ゆっくり持ち上がり、しかし重量に振り回されて円の軌道を描き地に落ちる。しかし上手く指向を持ったそれは、ベリアルの真上に巨大な雷柱を降り注いだ。


「グアアア!!」


 暴発気味に開放された巨大な雷の魔力を受け、地獄の第三君主が墜落する。そしてミョルニルに振り回された私は、遠心力に負け地面に叩きつけられた。その回る視界の端に、白夜を見た。

 足首が骨が見えるまで裂け、焼けた布地が肌に張り付いている。もしかしたら第三度の火傷まで負っているかもしれない。しかし肩で息をしながらも、大樹のように成長した魔剣を振り回し、それでも私を本気で心配している顔を浮かべてくれる。


「ヘラ!大丈…」


「大丈夫…大丈夫だから…」


 手を挙げて静止するとノロノロと起き上がり、アラストルからローブをひったくる。乱暴に体に巻きつけ、白夜を見上げる。

 さっきまで鬼のような形相であっただろう白夜の顔は険が取れ、普段と同じ瞳で私を見ていた。

 馬鹿…今は戦闘中なのに…。


「白夜、顔向けて」


 首に腕を回し、口をつける。下からでは難しかったが、舌を入れて私の唾液を白夜に飲ませる。


「ヘラ…?」


「私の体液を今、貴方の体に入れた。少しずつだけど、これで外の魔素を取り入れて回復が出来るわ」


「あぁ…サンキュ」


 白夜が一瞬戦闘を忘れたかのように私を惚けて見ていたが、すぐ思い出したかのように破魔の篭手と力帯を私に渡す。何よ、少し気が効くようになったじゃない。

 私はそれを受け取り装備すると、周囲を見回す。白夜が戦っていたであろう付近の地面が、ところどころ抉れている。それで、相手が飛び道具を使うことはわかった。まぁ、空からの攻撃なんて飛び道具以外有り得ないんだけど。白夜の神喰いの刃の『結界』を見れば、なおさら。


「このアマ…やってくれるじゃねぇか…」


「あら?喋り方に『地』が出てるわよ?案外、育ちがよろしくないんじゃなくて?」


 体から黒煙を上げ、苦しそうに立ち上がるベリアルに嘲笑を向ける。体力は、まだ五分の一と言ったところかしら。正直、私も余裕がない。でも、苦しい時こそ余裕を見せる。それが天国への扉(ヘヴンズ・ゲート)の主、ノア=キーランス…晶から学んだ事。

 最初はいけ好かなかったし、彼の言動は頭に来ることもあったけど、誰よりも仲間想いで、誰よりも『人間』らしく、そして意外にも寛大な心で白夜を許してくれた。そして、私をまた受け入れてくれた初まりの者たち(スターターズ)の皆。私は白夜と皆から貰ったものを無駄にしない!


「このクソアマ…殺す!!」


 ベリアルが、両の手から二つの魔力弾を放つ。白夜が咄嗟に手を引っ張ってくれて体勢を崩しながらもそれをかわした。魔力弾の大きさとは釣り合わない破壊力で、地面に穴が空く。その穴は他のそれと違い、世界の裏側までたどり着きそうな程深かった。


「白夜、アレ…」


「あぁ。わかってる」


 その魔力弾の正体に、白夜も気づいていたようだ。

 その正体は、限定的に凝縮された魔道爆発フレア。晶とグレンが起こした魔道爆発を、極限まで凝縮したそれは、触れたら消し飛んでしまうだろう。つまり…。


「一撃でも喰らったら、ゲームオーバーね」


「あぁ。どっちにしろ、今の俺達に長期戦は不可能だ。一気に蹴りをつけるぞ」


「えぇ!」


 再び私たちに向けて撃ってきたそれを、二人逆方向に飛び、かわした。

 白夜…本当に頼もしくなった。私の手助けもいらないんじゃないかと思うくらい…頼りがいのある男になった。私は、それを誇らしく思う。


「僕はネチネチいたぶろうとは思わない。一瞬で消滅させてやる!」


 ベリアルの周りに、幾つもの魔力弾が浮かぶ。なんてわかりやすい。乱れ撃ちすれば、私たちがかわせないと思っているのかしら。


「ヘラに図星を突かれたか。ルシファーに次ぐとはいえ、虚栄のハリボテで二番手だもんな。そうファビョるなよ、三下」


「貴ィ様らあああ!!」


 白夜の挑発に、更に倍加した魔力弾を同時に放つ。雨のように降り注ぐそれに、私も白夜も土煙にまかれる。


「ハッハッハ!他愛もなかったなぁ!恨むならこの僕を侮辱した自分の愚かさを恨…」


「けほっゲホッ…」


「ベリアル。一つ教えてやろう。それは死亡フラグっていうんだぜ」


「何っ!?」


 視界が晴れ、私たちの姿にベリアルは驚愕した。それもそうよね、『下手な鉄砲数打ち当たらなかった』んですもの。


「何故貴様ら生きている!」


「何故って…なぁ?」


「えぇ」


 私は暗黒空間に逃げ、彼は刃の結界で威力を削ぎ、ノーダメージで立っている。私の残りの魔力は半分近くに回復している。本当は極小のブラックホールでも作れば周囲は無事に済んだかもしれないけど、残り魔力を優先して正解だった。他属性の私がミョルニルを操るには、同属性の人より余分に魔力を必要とする。そして、私たちが力を合わせれば、必ずベリアルを倒せる!


「一人で戦えば、お前に勝てないかもしれない」


「このミョルニルは、たしかに私にはオーバースペックかもしれない」


「けど…」


 白夜と顔を合わせる。妙な照れくささと、安心感で思わず顔が弛緩しそうになる。でもそれを引き締め、ベリアルを睨んだ。


「力を合わせれば、貴方にだって勝てる!」


「フッ、悪く思うなよ。二対一だが、こっちはそれでお前と対等なんだから」


「寧ろ誇りなさい。私たちが二人がかりで、ようやく手が届く程、貴方が強いってことなんだから…。喰らいなさいっ!トールハンマー!!」


 マドラのように投げつける事は出来ない。しかし巨大な雷の魔力をぶつける事は、私にだって出来る!

 尋常でない程の大きさの雷柱をベリアルは間一髪さけ、さっきの攻撃でかなりの魔力を消費した彼は撤退しようとする。


「クソッ!」


 残念。全て私の読み通りだわ。ほら、さっきの仕返しよ。


「クアァ!」


「貴方だって、さっき後ろから攻撃してきたでしょ?これでイーブンにしてあげる」


 アラストルに迫った時、あいつがさっきの魔力弾で撃ってきたのはわかった。だから私も外した雷を地面に敷いたブラックホールに吸い込ませ、逃げるあいつの背後にホワイトホールを顕現させて吐き出した。簡単なカラクリよ。別に卑怯じゃないわよね?やられたことをやり返しただけだもの。


「白夜!」


「おぅ!喰らえ!ホームランバッター!」


 大樹に成長した神喰いを、アッパーウイングで振り、ベリアルを捉える。かわせないベリアルは無数の刃に切り刻まれ、哀れ挽き肉になりましたとさ。


「白夜、それただ振っただけじゃない。ネーミングセンスも無いし」


「いいじゃないか。勝ったんだし」


「じゃあ私が名づけてあげる。『血塗れの真紅の森ブラッディ・クリムゾン・フォレスト』なんてどうかしら?」


「お前…恥ずかしくないか?」


「…五月蝿いわね」


 白夜に真顔で返されて、赤面して顔を背ける。でもこうして笑っていられるのは、白夜が生きてくれているから。

 ありがとう、白夜。絶対…最後まで二人で戦おうね。

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