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クリエーター  作者: 如月灰色
《第五章 終焉の時》
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~第九十一話~シーリカVSモロク

こんばんわ。天気悪いですね。皆さんGWはいかがお過ごしでしょうか。GW休みとか何年ぶりでしょうか。なるべく連休中更新できたらいいなと思います。

  荒い息遣いが聞こえ、ローブを深く纏った男が両の拳を握っている。二つ角に押し上げられ、フードの部分が歪な形に歪んでいる。


「もう…いいか?いい加減お前を食いたいんだ…」


 軽く頬がひきつるような台詞を聞き、背筋に怖気が走る。なんか…気持ち悪い。


「いくら貴方が『暴食』でも、私はそんなに簡単に食べられる気は毛頭…」


「肉…女の肉…そうだ、生贄は、やはり女がいい…柔らかく噛み応えのある筋肉…恐怖で脳内物質が巡り…一層甘味を…」


 ブツブツ言いながら、『暴食グラトニー』のモロクが歩みを進める。一歩一歩着実に私に近づくそれは…悪魔そのものだった。


「悪いけど、近寄らせないわよ。五火七禽扇!」


 最初から宝貝パオペイを全開で振るう。オリンピアの巨像でも破壊される突風が叩きつけられる。そして同時に発せられた鎌鼬が、あいつを陵辱する。

 …はずだった。


「食わせろ…クワセロ…!」


 その距離、わずか数歩。突如振られたやつの左手を、思わず飛び退いてかわした。ギリギリ間に合わなかったのか、私の上級装備『天ノ羽衣』が破られる。胸元を裂かれ、サラシを巻いているにも関わらず咄嗟に胸を隠してしまう。

 風に乗って歩むための装備、『天ノ羽衣』。防御力も屈指の服が簡単に切り裂かれてしまった。バックステップの勢いに宙空二フィートの高さまで昇ると、私の風に捲くられてモロクのその姿が見える。 鎌鼬に私と同様ローブを裂かれたその姿は、酷く貧相だった。


「『暴食』の上に元豊穣の神の貴方だから、もう少しいい体してるかと思ったわ」


 のっぺりした印象の元神、モロクは一切ブレず私を見上げていた。


「クワセロ…捧ゲロ…ソノ身ヲ…」


 モロクの双眸が赤く光を帯びた瞬間、思考する為に距離を少し離した。モロクはクロノス、サトゥルヌスと同一視される元豊穣の神。豊穣の神なら、漏れなく土属性の影響を受けているはず…。それなら私の風を受けても吹き飛ばされない理由は納得出来る。

 属性には相性がある。そして相性が噛み合えば、レベルが低くても相手に勝つことは出来る。例えば『水』は『火』には強いが、水を吸収する『土』や、そのものを無効化する『氷』、性質上『雷』には負けてしまう。私の『風』は無干渉だったりするけど。

 しかし、ある程度のレベルになると『相克』の関係になって打ち消し合う。私の『風』は『土』の前に跳ね返されてしまうけど、土そのものを削る力はある。自然界ではそれが風化だったりするけど…。

 そういえば、切り裂いたモロクのローブの端に血が滲んでいた。五火七禽扇の突風は攻撃を与える面積が広くて通用しなかったけど、鎌鼬の効果はあるということだ。

 持久戦になる可能性はある。しかし勝機があるなら、そこを突くしかない。最初からフルパワーでいくしか…。


「っ!?」


 私の思考は、その攻撃に強制的に打ち切られた。

 いつの間にか私に迫っていたモロクの巨大な平手に、叩き落とされて地面に激突する。口の中に血の味が広がり、パニックに陥りかける。

 なんで?思考が長くなったとはいえ、間合いを空けて翔ぶ私にモロクは届かないはず…。

 その答えは、顔を上げた時にわかった。


「肉…食ワセロ…」


 やつは…巨大化していた。巨人ティターン族の血を引くモロクの実態を失念していた私のミスだ。私の一、五倍はありそうなその巨躯が、地響きをあげて近づく。


「クッ!打神鞭!」


 咄嗟に追い風(トップ・スピード)をかけて離れる。そしてとにかく打神鞭を振るう。風の刃が次々とモロクに襲いかかる。五火七禽扇と違い、これは真空の刃に特化した宝貝。これで削っていけば、確実にダメージは蓄積していくはず…。


「まだ、足りないわ。神風ゴッド・スピード!」


 追い風の上位魔法…神風を纏い、天ノ羽衣で空を舞い、全方向から切りつける。視認出来ない程のスピードに、モロクはついてこれないはずだ。

 流石に七つの大罪ども(セヴンス・デッドリー)の一角、硬い。だがしかし、少しずつ削れてはいる。そして一つ、更にアドバンテージを握れる『弱点』が視界に入った。


ーーーあそことあそこ…亀裂が大きい。もしかして…。


 一つ仮定してみた。もしかして、巨大化する前につけた傷まで、モロクのサイズに合わせて巨大化しているのかもしれない。だとすれば、つけいれるかもしれない。新たに傷をつけるより、すでにある程度ダメージを受けているところを攻める方が、効率はいい。文字通り傷をえぐる行為だけど、気にしてもしょうがないわね。この戦いは、どんな手を使っても勝たなくちゃいけないもの。


「五火七禽扇!」


 一瞬で装備を解除した五火七禽扇を呼び出して、一際亀裂が大きいモロクの右わき腹を一閃!


「グアアアアァァァ!!」


 雷鳴のような叫び声をあげて、モロクが苦悶の表情を浮かべた。五火七禽扇は最重量級の神器。持ち主に選ばれた私にはある程度の軽さに収まってくれるけど、それでも最初の内…私の筋力が追いつかないうちはとても今のように振り回せる代物じゃなかった。それだけに、叩きつけられた時の衝撃は大きい。


「ガアアアァァァ!!!」


 モロクが私を捉えていない今、一気に切り崩す!隠者ハーミットと呼ばれた所以、とくと思い知らせてあげるわ!

 神速の私は、モロクの右わき腹のかなりの部分と左腕、そして両足の大部分にダメージを与えていた。そしてモロクは見えない私に為すすべがない。

 しかし…一方的に嬲っている内、私は油断と焦りに冷静ではなかった事を思い知った。


「アアアアアアッ!!」


 私を見失ったモロクは、傷口をえぐられたショックで錯乱し、両腕を振り回し暴れている。神風で特攻ししようとしたところに運悪くその腕の軌道が重なり、私はよけられずモロにカウンターを受けてしまう。


「キャアアア!!」


 それは幸運としか言えない惨状だった。右足と…肋も何本かやられてしまった。肋はともかく、足をもっていかれたのは痛い。

 追い風や神風は、機動力を上げる補助魔法。しかし足自体がイかれてしまっては、機動力どころか動くことすら出来ない。癒しの風(ヒール・ウィンド)は使えることは使えるけど、アキラの回復魔法のように即効性があるわけではない。

 ダメージに涙目になりながら顔を上げると、モロクは元のサイズに戻っていた。私を叩き落とした時に失ったのか、左腕は肩口から無くなっていた。左腕と両足から夥しい血を流し、それでもモロクは笑っていた。


「足ヲ痛メタカ…モウ動ケマイ。サァ、オ前ヲ食ッテ、コノ左腕を返テモラオウカ」


 流血を気にせずに、欲望の権化が私に近づいてくる。考えて考えて…状況を打開する方法を…。


「サァ、イタダクトシヨウ」


 私に近づくモロクを睨み、そして天啓が下りた。


「フッ…その余裕が、貴方の命取りよ」


 天ノ羽衣の肩口を破り、折れた右足に巻きつける。

 この装備は空を舞う服。歩けないなら、飛べばいいじゃない。


「神風!」


 モロクの足元、超低空を滑るように「飛び」、背後に回る。そして神速での移動に加え向き直る為にターンした遠心力を利用し、五火七禽扇で足を払った。超重量級の質量に神速の移動エネルギーが上乗せされて、モロクの足は砕け散った。

 モロクが這い蹲る直前に、更に一回転して遠心力を殺さないまま首にもう一撃くわえる。


「あら?意外とあっさり逝ったのね」


 首が跳ね飛ばされ、胴体に右腕だけのモロクが倒れた。


「貴方、アキラと比べたらまだまだね。出直してきなさい」


 …やっぱりいいわ。次の世界では、もう会うこともないでしょう。

 巨大な魔導反応に気づいたのは、その直後だった。

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