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クリエーター  作者: 如月灰色
《第五章 終焉の時》
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~第八十九話~グレンVSレヴィヤタン

首痛い…もっと早く更新できたんですが、寝違いのせいで出来ませんでした。口惜しい…。

「言ってろよ!」


 アキラの突撃が戦闘の合図になった。レーヴァテインを握った両手に力が入る。正直アキラやガラムと違って、俺には目の前の敵に対して私怨はない。前の世界で妹のココ…ココルを失った元凶のマモンとベヒモスはアキラが瞬殺してしまった。まぁこの世界でココを死なせたウラヴェリアの時に譲ってもらったから、これはイーブンとしよう。こいつとはあまり関係のないことだ。しかし、存在することが悪なら、ココが命を散らした果てに待っていた未来なら…戦いなら…俺は剣を執る。

 目の前のレヴィヤタンはローブを頭深くまで被り、その全容が見えない。世界の災厄を謳うやつらにしては、やけに線が細い気がしないでもないが…このまま睨み合っても何も始まらない。ならば先手必勝!さっきはかわされたが今は目と鼻の先の距離だ。今度は逃げられまい。


「ココが愛した世界の為だ。悪く思うなよ…!」


 ノーモーションでレーヴァテインを横薙に振るう。目の前のヤツは逃げる暇もなく炎に捲かれた。高温の炎が気流を生み、何も無い大地を突風が駆けた。いくらなんでも、俺の愛剣が放つ神気をまとった炎を食らって、無事なわけがない。一撃で仕留める程やわな連中でもないとは思うのだが…。

 俺の危惧を払ったのは、炎の残滓から見える一人の影だった。


「まさかダメージゼロじゃ…ないよな…?」


 その影は平然と立っていた。軽く片手を突き出したそのシルエットは、微塵の揺らぎもなかった。陽炎がはれてクリアの見えたレヴィヤタンの影は、炎が生んだ強風でフード状のローブの一部を焦がし、長い髪がチラリと覗いていた。


「シッ!」


 レヴィヤタンの呼気が聞こえると同時に、俺は横にステップした。何かわからないが、何か攻撃をされるのは間違いないからだ。向こうも軽い挨拶くらいの気持ちだったのかもしれない。余裕ではないが、特に難もなくそれをかわした俺は、それをかわした事が正解だったと知ることになる。

 背後に転がっていた岩に、中程より更に深くまで切れ目が入っていた。鋭利な刃物で肉塊を切ったような、熱した刃物で獣脂を切ったような。綺麗なものだった。

 そしてもう一つ…。


「お前、女だったのか?」


 所々破れたローブからは女特有の丸みが垣間見え、フードが完全に脱げたそいつの顔は、間違いなく女のそれだった。


「ふっ…男だと言った覚えはないがな。それとも、僕が女だと何か不都合があるのかい?」


「まさか。女の子は紳士に扱うのが俺のポリシーだが…」


「それは期待出来そうだな」


 レヴィヤタンがフッと笑う。その笑顔は街を歩く普通の女の子のそれだった。勿体無い。普通なら、今の笑顔で間違いなく俺のナンパリストにチェックされるだろうに。


「だがな」


 火の力で生み出した陽炎ミラージュから体を切り離し、アキラや風魔術師レベルとは言わないが神速でレヴィヤタンの背後に回る。


「旦那と殺し合いをするような女は遠慮したいね」


 思い出した。レヴィヤタンとベヒモスは雌雄で、世界の終わりに互いに殺し合う運命だという。それも確か、勝った方が救済された人類の食料になるとかいう展開だった気が…。

 思考を切り上げ、一閃したかに思えたが刃がレヴィヤタンを傷つけることはなかった。薄布を切り裂くに留まったレーヴァテインが空振りした数歩先で、レヴィヤタンが笑う。


「そんな簡単にやられるほど間抜けじゃないわよ」


 はらりと着地し、俺を振り向いたレヴィヤタン。たった今切りつけたところから肌が露わになる。そのチラリと見える肌は、群青色の鱗状の皮膚で覆われていた。切りつけたところがわき腹だったからか、左の胸が少し除く。そこはどうやら肌色らしい。戦闘中にどうでもいいことを考えるとどうしても隙が生まれる。それを見逃すほど、敵も間抜けではないらしい。


「足元がお留守よ」


 剣の間合いから少し離れていたところに立つレヴィヤタンが、高速で旋回する。正確に言えば半身になっただけだが、見えない攻撃によって俺は文字通り足元を掬われた。


「なっ!?」


 仰向けに倒れて背中を強かに打ち付けた俺に、更に追い打ちがかかる。明らかに俺めがけて放たれた渦が、結構な質量を孕んで襲いかかる。

 無様に転がってかわす俺が見たのは、俺がいた地面に激突し、派手に水飛沫をあげるやつの攻撃だった。


「『渦巻くもの』レヴィヤタンか。忘れてたな。お前は…」


「そっ。私の属性は水と風。あなたにとって、相性は最悪ね」


 クスリと微笑むレヴィヤタンを、忌々しげに睨む。ザッと足元を蹴ってみるが、この地面の感触は間違いなく水を含み重くなっている。幻覚ミラージュでもなさそうだ。まぁ、今それをするメリットはあまりなさそうだが。


「シーリカとカイムを同時に相手取ってるわけだ。しかも性別は女…たしかに俺にとって最悪の相手だな」


「でしょう?フェミニストの貴方に、私が倒せるかしら?適材適所、単純な攻撃力なら初まりの者たち(スターターズ)の中でもトップクラスの貴方に、まずは消えてもらうわ!」


 最後を強めに叫んだレヴィヤタンが、みるみる変形していく。顔の印象はそのままに、額には湾曲した二本の短めの角。いや、顔自体にも刺青のような紋様が両頬から目に。体の方もさっき見えた肌色の部分が鱗に覆われ、また青白く変色している。そしてさっき俺をなぎ倒した物の正体が奴の服の下から覗いた。


「すごく…大きいです…」


 太くたくましい尾。長さ的にはやつの身長と同じくらいあるんじゃないか。一応きちんと変身するまで手を出さなかったのは、まぁ…お約束というものだ。


「そういうのもお好みかしら?貴方が両性愛者だってデータは聞いたことないけど」


「馬鹿野郎。俺は純粋な女好きだ」


「私は野郎じゃなくて…よ!」


 今度は両手の掌からさっきと同じ水流を二つ作り、俺に向かって放つ。幸い、この攻撃自体に大したスピードはないようだ。


「当たらなければどうってことはない!」


 サイドステップでかわす俺に、レヴィヤタンは不敵に笑った。途端、軌道を変えてそれは俺に向かってきた。


「クッ!自動追尾ホーミングか!」


 余裕にかわしたという油断から、それを避けきれず一身に受けてしまう。その衝撃に息が漏れ、方膝をつく。大丈夫だ、内蔵にダメージはないようだ。全身ずぶ濡れになって、装備が水を吸って重い。


「まだ平気なようね。でも…何度も受けたらどうなるかしら?」


 キッとレヴィヤタンを睨むが、体の力が多少抜けるのを感じる。これが属性補正か…。そういやカイムがまだ俺の副官だった頃、演習で似たような感覚に陥ったことはあったが、久しくそれなりのレベルの対属性と戦ったことがなかったから忘れていた。

 火属性は、相性という点では他の属性と比べるとかなり不利だ。属性干渉を起こさない独立属性は抜きに、基本属性だけで水と風、二つの弱点を持つ。圧倒的な攻撃力を持つ反面、弱点に対しては防御が脆弱なのだ。火は水、風で簡単に消えてしまう。唯一属性として勝てるのは、氷くらいだ。

 だがな…。


「二つ、教えてやるぜ」


 レヴィヤタンの追撃を、なんとか力を振り絞り宙に跳びかわす。


「そんなかわし方じゃ、まだまだ二流よ。ほら、次がかわせない」


 両手を俺にかざし、同じ攻撃を打つ。俺はそれをかわす術はない。明らかに直撃コースの俺は、一つ目のご教示をしてやる。


「先に変身なり巨大化なりしたワルモノは、正義のヒーローに絶対に勝てない」


 白熱した炎を纏い、直撃に備える。レヴィヤタンの攻撃は俺に当たる前に霧散し、大量の水蒸気で視界が悪くなる。


「そして…」


 炎を纏った俺はそのままレヴィヤタンに掌を叩き込む。レヴィヤタンの服が破け、派手にぶっ飛ぶ。飛ばされたダメージを受身で流し、素早く態勢を整えたレヴィヤタンがもう更に同じ攻撃を仕掛ける。怒気が力を生んだか、その質量はさっきとは比べものにならない。


「水も風も弱点は弱点だが…圧倒的な破壊力の炎を前に、生半可なそれは逆に飲まれるんだぜ?」


 俺も同じく炎の旋風…俺の場合は一つだけを出し、やつのそれに対抗する。さっきより大量の水蒸気が発生し、視界が完全にゼロになる。

 その向こうに影が見えると、念のため陽炎ミラージュを作り、その影に回り込む。


「フッ!バレバレよ!」


 案の定炎の揺らぎを感知したレヴィヤタンが俺に向かって攻撃してきたが、残念。それは残像だ。自分は陽炎ミラージュより火の魔力を低くし、まんまとレヴィヤタンの背後に回り込んだわけだ。


「それと俺はフェミニストでもなんでもない。ただの女好きだ。敵に手を上げることに、何の躊躇いもない」


 レーヴァテインを抜き、背中に突き立てる。そして神気を纏った炎を剣に纏わせ、旋回。多少のエグさを感じたが、敵は七つの大罪ども(セヴンス・デッドリー)だ。これくらいしばければ安心出来ない。


「ガッハ…」


 大量に吐血し、ずり落ちるレヴィヤタン。剣に対して斜めに倒れた為、新たに裂傷を作り、倒れ伏した。


「片…付いたか?」


 倒れたレヴィヤタンを一瞥し、他の連中の様子でも見に行こうと踵を返したところ、足を引っ張られた。レヴィヤタンが、俺の足首にしがみついている。


「まだ、息あったのか」


 流石世界再上位の悪魔にして欲望の化身だ。生命力は半端ない。


「…たら…だったら…」


 足元のレヴィヤタンに視線を落とす。その必死の形相はどこか悲壮感を湛えていた。


「もし…貴方程力があったら…世界を統べれたのに…」


「世界をとって、その後どうする?」


 律儀に答えてやる必要はないが、もうこいつが立つことはないだろう、最期の言葉くらい聞いてやる。…俺も、アキラに似てきたのかずいぶん甘くなったらしい。


「わからない…でも…貴方くらい…強かったら…」


「悪いな、『嫉妬エンヴィー』のレヴィヤタン。俺はそれに答えてやることは出来ねぇよ」


 レーヴァテインでもう一突きして楽にしてやる。ポツリと、自分でも驚く程優しい言葉をかけていた。


「俺は『煉獄育ち《フロム・フラム》』。たしかにお前との相性は抜群だったよ。そして私怨もなかったが…。それでも世界の為、アキラ達の為、そして…お前らとの戦いの宿命の為に散ったココの為に、負けるわけにはいかなかったんだ」


 水蒸気のもやの中、最後に倒れたレヴィヤタンを振り返る。


「俺は別に、お前のこと嫌いじゃなかったぜ…来世があるなら、アキラの作る世界に来世があるなら…世界なんかとらずとも、幸せになってくれ」


 そう告げると、戦況を確認する。


「次に戦うべき相手は…あいつらだな」

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