~第九話~魔術師、神谷晶その1
おはようございます。白カカオです。えー…1千PV、2百ユニーク突破しました。本当にありがとうございます。最近皆さんの反応が楽しみで、ついつい書きたい気持ちが逸りまくりんぐです。これからも生温かく見守ってください。とりあえず、感謝しか出てきません。それでは第九話、お楽しみください。
「何をそんなにかりかりしている、アキラよ」
「そうですわ。美容に良くないですわよ、アキラさん」
「ええい!わからいでか!何でアンタ達はこの状況になんとも思わないんだ!」
状況を確認したい。僕は魔術師団に入団して、挨拶の為にここに立っている。それは覚えている。で、普通に挨拶して終わろうとしたら、背後に獣神様と女神様が立っていました。うん、これ、普通はフローチャートとして繋がらないよね?
「だから『普通』など主には似合わぬと言うに。諦めが悪いぞ?主。状況判断力は魔術師にとって大事なこと」
「「我々はただ、指輪の精に呼ばれたゆえ」」
「お前ら三人空気読めぇぇぇぇぇ!!!」
歴戦の騎士達と魔術師達(団長二人含む)がフリーズしている中、怒鳴り散らす僕と若干、あくまで若干しょげ気味の三人。なんでこんなとこで漫才せにゃならんのだ。
「ぬっ…すまん。では我は戻ろう」
「アキラさん、また…呼んでくださるか?わらわを…」
「あー…悪かった。そう落ち込むな、アクアリウス。必要な時はちゃんと僕が呼ぶから」
「ふふ…待っておるぞ」
美女にそう帰り際寂しそうにされると僕が悪いみたいじゃないか。つうか消えるとき、哀愁を漂わせて振り向くな、レオ。なんで僕の良心が痛んでるんだよ。
「ダービー、お前後で説教な」
「なんとっ!?」
「全面的にお前が悪い」
二人が消えたあと、ようやく喧騒が戻ってきた。
「あいつ、いきなり二体同時召喚とかしやがったぞ…」
「それに、例の指輪、しゃべっているのか?」
「つうか、召喚した神に説教するとは…何者だ?」
…訂正。喧騒というか、騒然としている。なんかすごいことしちゃってたみたい、僕。
「ア、アキラ殿…」
「あぁ、セラトリウス団長。すみません、下がります」
僕の入団挨拶は、変態紳士のおかげで思わぬデモンストレーション…もとい晒し者になって幕を閉じましたとさ。
半刻後、騎士団と魔術師団に分かれ各々演習となった。僕がいるのは軍部魔術師棟の一室。あんなことやらかしてしまった手前、皆が向ける視線が…痛い。ただでさえも唯一人の人間というだけで目立つのに。
ーーーなに、歴史に名を連ねるものは必ず通る道だ。主も、早いか遅いかの違いであろう。
名を連ねるつもりはさらさらないんだが。お前、反省してねぇな。昨日の刑、やっぱり執行してやろうか?
「よ、よう。元気してるか?」
ちょっと引きつった表情で、麻のローブを着た青年が話しかけてきた。いや、そんな腫れ物に触れるような扱いされても傷つくんだが。無理も無いけど。
「あ、あぁ。でも別に無理に話しかけてくれなくていいよ?気ぃ使ってくれてるの、わかるし」
「えっ?あぁ、そうじゃないんだよ。面白そうなやつだなと思ったから、話かけたかったんだ。でも…こんな空気だし」
たしかに…気の弱い転校生なら初日で登校拒否しそうなこの空気は、ちと僕も辛い。
「まぁ…あんなことやらかしたからな」
「俺、カイム。アンタ、アキラ…で合ってるよな?」
苦笑とはいえ、本心の僕の笑顔を見たことで安心したようだ。別にとって食うわけじゃあるまいし。この国のエルフはいちいち大仰だ。
「あぁ。よろしくな、カイム」
「ところでさっきから難しい顔してたけど」
「こいつだよ、さっきのアレも、全部こいつのせい」
「主、それはあんまりでは」
「だから勝手に出てくんな。ややこしいことになる」
「すげぇ!本当に指輪の聖霊と話せるんだ!」
カイムの傍にいた、肩口でばっさり髪を切ったエルフが息を巻いて話しかけてきた。
「俺、グレン。よろしくな」
握手を求めてきた。シェイクハンドは全世界共通らしい。
「あぁ、よろしく」
それをきっかけに、パラパラと人が集まってきた。ええい!そんないっぺんに名前覚えられるか!でもまぁ、なんとかぼっちにはならずに済んだ…ところで、ようやくセラトリウス団長が戻ってきた。随分長い会議だったな。たぶん、僕のことだろうけど。
「静かにせんか!ほれ、アキラ殿も。ここからは特別扱いせんぞ。ここにきた以上、そなたもこやつらと一緒じゃ」
「はい、ありがとうございます」
他のみんなと同列に扱われることを嬉しく思い、何故か爽やか笑顔モードで礼を言う。学生時代を思い出して、楽しくなってきた。
「それではまずは…」
席に着き、魔術師団の戦術理論の講義に入った。午後からはこれを元に前衛、後衛に分かれ実技の時間に入るらしい。とりあえず、必要なことをメモにとろうと思ったのだが、残念ながらノートも筆もない。しかたなく出来るだけ頭に詰め込んで、後でカイム辺りに見せてもらうことにしよう。
意外と早く講義が終わり、昼食の時間に。さて…相変わらず何の用意もないんだけど、どうしよう。こっちの飯は、全部国王とは王女達に世話になってたし。そういや、こういう国王ご家族のいない食事はこっち来て初めてだったな。
「アキラ殿!」
セラトリウス団長が息を切らしてこっちに来る。手には、ジャラジャラいってる袋。
「どうしました?そんなに急いで」
「これ、国王からじゃ」
袋を受け取ると…おっ、重い。口を縛っていた紐を解くと、まぁ半分予想通り金貨や銀貨がぎっしり。ちなみに、この国の感覚だと、銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円位の感覚らしい。
「手紙も預かっておる」
手渡された手紙は二通。国王からとエリーから。
ーーーでぃあアキラ君。君の入団が正式に決まり、私も嬉しく思う。そこで、色々と必要な物も増えてくるだろう。これはキート家から君へ用意した支度金だ。遠慮せずに使ってくれ。PS.たまには私とも遊んでくれよ?首を長くして待っておるからな。いきなりでも大歓迎だぞ。国王より。
「寂しがりの子供か!つうか多いだろ!これ」
この袋、金貨と銀貨ばっかだぞ?魔術師の世界ってそんなに金かかるのか?
「…なぁ、カイム。そのローブ、値段いくらだった?」
「うーん…銀貨三枚くらいかな」
「ユニ○ロレベルかよ!こんないらねぇじゃん!」
「ユ○クロとかわかんないけど、もう一枚の手紙、読んでみたら?」
「あぁ…そうだな、すまん。ちょっと取り乱した」
ーーーでぃあアキラ。今晩はご馳走するから、お城に帰って来てね。初めて料理作るからわかんないけど、絶対美味しいから楽しみにしててね!アキラの為に、頑張って料理つくるからね!エリーより
「不安だよ!つうかエリーの初料理とか不安すぎんだろ!」
王女モードじゃないボケボケのエリーの料理とか…悪いがちょっと怖いぞ。頼むから、胃に入るもの作ってくれよ?
「えっ!?エリーってリーナス王女!?すげぇ!いーなー」
「え?なに?そんな興奮すること?」
手紙をぶん取り、興奮しているグレンに呆気にとられる。
「だってあのリーナス王女だぜ!王族美人三姉妹の!」
へぇ…そんなもんなのか。あいにく、僕はエルフとはこういうもんだと思っていたから感覚が麻痺していたらしい。外人の顔はあまり区別できないのと一緒で。それで、一般人より王族の顔を見る機会が多い騎士団とはいえ、滅多に見れるもんじゃないそうだ。エリー辺りはちょくちょく城下に遊びに出ているって話だが、それにより他の二人より認知されている…そうだ。まぁあいつガキンチョだし。
「なんだ、グレンってロリコンだったのか」
「違うわ!あの姫は別格」
「へぇ…そういうもんか」
「アキラ、温度差気づこうよ」
カイムが溜息をついた。
そして僕、カイム、グレンの三人は、こないだ姫様と王子と行った食堂に入った。昼食時なので、やっぱり混んでいる。向かう道中聞いたのだが、エルフの寿命は人間の約二倍、160~200歳位らしい。そして青年期が長いのも特徴のようだ。エリーもあぁ見えて、40歳近いらしい。僕より年上だったのか…。
三人分空いたテーブルに、おばちゃんが水を置きに来た。
「あら、人間の…アキラ君だったかい?へぇ…魔術師団入ったのかい。うんうん、なかなか様になってるじゃないかい」
「ども。カレンさん…でしたっけ?忙しそうですね」
ちなみに今僕はカイムとグレンが見繕ってくれたローブを纏っている。普段の格好だと、目立つし。早速国王から貰った支度金を使わせてもらった。こっちに来たときに着てたトレーニングウエアは、一緒に買った袋…もといバッグに突っ込んである。
「そりゃ騎士団と王族はこの国の華だからねぇ。数人まとまって来てくれるだけでその日は繁盛だよ」
「待って?騎士団と…王族?」
「ほれっ」
カレンが指差す方を確認すると、思わずテーブルに頭をぶつけた。
「あらっ?」
「あらっ?じゃありませんよ!護衛もつけずに何やってんスか!セリーヌ王女」
一角で穏やかに本を読みながら、セリーヌ王女がにっこりと笑みを浮かべてこちらを見ている。
「護衛など、平和なこの国に必要なくてよ?アキラ様」
「そうでした。…じゃなくて!」
「私も、エリーほどではないけど、たまにカレンおばさまのお料理を食べに下りてくるの。アキラ様もお食事に?」
「えぇ、まぁ…」
「早速お友達も出来たみたいで、私も嬉しゅうございます。アキラ様のこと、よろしくお願いしますね」
セリーヌ王女の笑顔に陶酔していたカイムとグレンがコクコクと頷く。
「あら?お店も混んできたようですわね。私はこれで。夕食、楽しみにしててくださいね。エリーったらはりきってもう準備してますの」
「今からって…早すぎだろ」
「うふふ。ではアキラ様、皆様。御機嫌よう」
あくまで上品にセリーヌ王女が去って行った。
「いてっ」
背後から思いっきり殴られた。
「お前ってやつは、お前ってやつは…」
殴った犯人はグレンのようだ。エルフの力で殴るな。コブできたぞ馬鹿野郎。
カレンおばちゃんがご飯を持ってきて、やっと落ち着いて飯が食える…わけではなかった。僕らの周りでギャラリーがうるさい。
「まぁマテリアルの世界の人間が、王女様と対等に、それも楽しそうに話してるなんて注目されない方がおかしいよ」
ニコニコとカイムが箸を進める。カイム、お前は自覚が足りない。さっきカレンおばちゃんが『騎士団も』って言ってたのを忘れたか?お前らも客寄せパンダだぞ?
「パンダってのはわからないけど、にぎやかでいいじゃん」
お前いい人オーラ出しすぎだろ。グレン見てみろ。一心不乱にかっ食らってる。
「あの…」
「んっ?」
魔術師の格好をした女の子が、こっちを見てモジモジしている。なんだ一体。
「あの…サインくださいっ!」
僕に向けられたその言葉に、ブッとグレンが飯を噴出す。
「きたなっ!」
襲撃をかわし、適当にサインしてあげる。ちゃんと書いてやれって言われても、生まれてこの方書類にしかサインしたことねぇんだもん。しかし、積極的で物好きな女の子はどこの世界にもいるもんだな。
「なんでアキラばっかりこう…」
落ち込むグレンに、慰めるカイム。たぶん普段からこうなんだろうな、こいつら。
「安心しろグレン。人間が珍しいから注目されてるだけで、じきに落ち着くだろ」
僕のフォローに耳を傾けてくれない。
「今度…リーナス様と飯食うとき俺も誘え…」
「わぁかったから」
ーーー主、これは主の『はーれむ』を作る絶好の機会では?
んな野望持ってねぇよ!!お前の思考回路は熟成されすぎて腐ってる。
こうして野次馬とグレンのせいで、午後の演習前に走って魔術師棟に向かうハメになった。
えっと…お断り。晶はそこまでイケメン設定じゃありません。本人が言っている通り、どっちかっていうと珍しさ先行のこの有様です。次回は午後編と晩餐会の回です。収まるかなぁ…引き続き、お楽しみいただければ幸いです。あと、ご意見ご感想いつでも大歓迎です!それではまた次回…白カカオでした。