beforeプロローグ 1
僕こと雨海表裏は普通の高校生であった、それがいつ僕が望んでもいないのにあんな睡眠を削るような仕事をする世界に足を踏み入れなければなたなくなったのかというと、だ。
すべては、そうすべてはある一つのサイトから始まったのだ・・・。
「能力者クラブってしってるか? 表裏?」
「能力者クラブ? なんですかそれ?」
何処にでもある普通の高校、法泉学園高等学校、偏差値中の中、男女比率一対一、制服の可愛さ(一部の女子の偏見と独断による調査)普通、行事多々、面白いといえば面白いがパッとしない。
と言った、入ったらそこそこ充実した学校生活が送れますよと言う学校で噂があがった。
「何処にあるかわからない秘密のサイトらしいのだ」
教室の後ろ+窓際と言った最高のポジションを占領した僕の前の席に座る、僕が中学のときからの友達、名前は式原札札、彼が不意にそんなことを言ったのだ。
「それは、また胡散臭い」
「まあ結論を出すのは最後まで話を聞いてからにしろ」
そう言って札札は少し得意げに爽やかな笑顔を僕に見せてしゃべり始める、茶色がかった(地毛)髪に整った容貌、嫉妬するほどのモテ男だコイツは・・・しかしなぜだか彼女がいない、一部では実は女の子じゃなくて・・・なんて言った腐女子の愉快な噂も囁かれている。
で、彼の話曰く、だ。
そのサイトは不意に突然現れるらしい、画面が真っ黒になって、最初はウイルスか何かかと思っていると真っ黒な画面に能力者クラブと赤い血のようなグラフィックが出てきて、そしてその下に『名前を入れれば一員』とこれまた血のグラフィックが出てくるらしい、しかし、その画面が何年何月何日何時何秒に出てくるかは不明、サイトで能力者クラブと打ち込んでも出てくるのは、霊能力者のサイトや何やら妖しげなサイトばかり、故に発信者及び発信源もわからず、管理者も探すのを諦めたらしい。
だが、最近さらに妙な噂が浮かび上がった、と札札は言うのだ。
「どうやらそのサイトはな・・・能力者だけに送られてるんじゃないかって、変な噂もあるみたいなんだ」
その言葉に僕は無意識に顔の筋肉の一部がピクリと動くのを感じた、時々あるであろう脳の誤作動、しかしそれは・・・。
「ん? どうしたんだ表裏、そんな豆鉄砲食らったような顔して」
「え? あ・・・そんな顔してました?」
「ああ、豆じゃなくて鉄球食らったような顔だぞ?」
「その例え、どうにかなりませんか?」
「ハハハッ! 手厳しいな」
能力者、説によれば遺伝子の突然変異それも脳細胞だけと言うよくわからないやつだ、元は一つの細胞のはずなのになぜか脳を構成する細胞が突然神秘的な力を生み出せるように染色体が変わるらしい、生物で習ったのだがDNAの構成ATCGだっただろうか、それが全てESPRに変わるらしい、そのまま読めばエスパー、誰だこんなこと考えた愚者は。
話を戻すと、だ、つまりこの世には能力者がいるかもしれない、しかし公認されているわけではないのだ、ただ確信のある都市伝説といったところか、たったそれだけの話である。
「・・・と言うことだ、どうだ? 面白いだろう?」
「本当に好きですねー、オカルトが」
僕は頬杖を付いたまま目を細めて彼を見る。
「なんだつまらなそうな顔して、信じていないのか?」
少し困ったような顔をする札札、こんな表情を見たら普通の純情女子は感嘆のため息が出ることだろう。
「信じてないですよ、僕は一度見ない限り信じない性質ですから、勿論幽霊も信じてない、宇宙人も信じていない、この目で実際その現場で見ないか―――」
「じゃあ聞くが、能力者は信じるか?」
僕の声に重ねるように札札の声が僕の声を掻き消した、少しばかり得意口調であった僕の口はゆっくりとその言葉のせいで閉ざされた。
「・・・まぁ、三分の一ぐらいは」
札札の目を見ないように窓に目をやりながら小声でそっと・・・呟く。
「ほぉ、珍しいこともあるものだ、表裏がオカルトを信じているとは」
ニヤニヤと笑う札札、コイツ・・・読めない奴だ、いや、違う、心に素直になるとすればコイツはすっげームカつく。
「~~~~~っ!」
「おっと、表裏が歯軋りを始めたな・・・」
「うるせー、三分の二はしんじてねーよ」
「わかったわかった、それじゃあ俺はこれで、部活の集会があるからな」
そう言って逃げるように立ち去る札札、いや、逃げたんだな。
札札はバスケット部だ、もう、完璧なのである、色々と。
僕は、何も入っていない、所謂帰宅部とい奴だ、特にやることもなく家に帰るだけのツマラン男だ。
と。
「おーい、雨ちゃんいるー?」
話し相手のいなくなった僕に何か用人が現れた、それに加えこの呼び方といったら。
亜菜々菜月しかいない・・・。
「それで、何の用?」
菜月に呼び出され、多目的室に連れ込まれた僕は彼女に切り出した。
「んーとねー、実はですね~、これなんですよ雨ちゃんさん」
そう言って菜月が指差したのは積み上げられたダンボールの山、要らないものをここに溜め込んだ末、こうなってしまったのだろう。
「あー・・・で? 僕にどうしろと?」
「ちょちょいっと、やってくれはしないかね?」
「何を?」
「これをどかしてくれないか!?」
顔をグイとこちらに近づけおねだりをして来る、妙に甘い香りがするのは女の子特有のものであろう。
「僕を便利屋と勘違いするなよ」
「いーじゃん、便利な物持ってるんだから~!」
駄々をこねる菜月、彼女とは僕の背が半分以下の時からの、近所であり親友であり幼馴染である―高校生活からその環境はがらりとかわったが―親同士も実は小さい時からの親友であり幼馴染でその前の世代も親友とか何とかで・・・つまり、代々続く伝統的な幼馴染だ。
そして、菜月は僕のことをよ~~~~~く知っている、~を五個もつけたんだ、本当に何でも何処まで其処までも隅々とだ。
つまり、僕が誰にも話していない筈のアレを知っているわけで・・・。
「ね? お願いだよ雨ちゃん、ね? ねね?」
上目使いでこちらに擦り寄ってくる菜月、少し先のカールした赤混じりの黒髪が僕の頬を撫でる、可愛いからといってこう言うのを男にやるのは反則であろう。
「・・・わかったよ」
根負けした僕は菜月を目の前からどけると、ダンボールの山の前へと向かう。
「わーいやったー、勝ったー!」
いっそ菜月ごとブン投げてみても良いかもしれないと黒い憎悪が僕の胸のうちに沸き起こるが今はやめておこう。
さて、と。
僕は片手を腰に当てて、ダンボールの山を隅々まで見渡す。
重量、100キログラム、まったくこの量を菜月一人にやらせるっていうのは如何な物か・・・重心、下にあるダンボールの右から四つ目のちょうど中心から三センチ左、か。
まぁ、この程度なら・・・両手でどうにかなるだろう。
「菜月、何処かに紐は無いか?」
「え? えーっと」
暫く適当にあっちらこっちら探していた菜月は。
「あったー! ありましたよ雨ちゃん隊長!」
「よーしよく見つけた、それじゃそれをくれ」
「はいどうぞ」
ぽんと頑丈そうなビニールの紐を受け取ると手早くダンボールが山が崩れないように縛る。
さてと、ここからが本番。
僕はギュウギュウに締め付けられたダンボールの山に触れる。
そして。
なんてことの無い動作で僕はダンボールの山を持ち上げた、重量400キログラムのダンボールの山を僕は抱え込むようにして。
「さっすがー、都市伝説の一人だよねー雨ちゃーん?」
「菜月、それを周りには絶対言うなよ?」
「大丈夫、雨ちゃんの秘密は絶対、守るよ、二人だけの秘密」
ニコリと笑う菜月に僕は笑い返す、そう僕は都市伝説・・・いや、実在する能力者。
脳のDNAが常人とは違う生き物なのだ。
そして僕が掌握したのは皆に平等にかかるG。
即ち重力、グラビトンだ、こんな能力のせいでその物や生物を見たり触るだけで大体の重量を測定できる。
重力は何だと問われて正確には答えられない、簡単に言えば地球と言う星が僕たちを引っ張る、万有引力とも言い換えられる力だ、しかし、僕が操れるのはあくまで重力だけ、慣性の力や物質同士に働く力は操ることが出来ない、それに僕が触れているものしか重力を操れず、物体から手を離して三秒は僕が操った重力の状態を保ち続ける。
加えて地球自体を軽くは出来ないし、僕が操ることの出来る重力の大きさもそのときのコンディションで決まる、まぁ一トン前後なら普通に操ることは可能、僕自身を軽く出来たりもする。
「これで良いか?」
僕は誰にも見つからないように重量100キロ前後あるダンボールをほかの教室にすばやく運び込むと菜月へそう言った。
「うん、すっごく助かっちゃったー」
「そりゃどうも、じゃー僕は帰るぞ、もう授業が始まるからな」
「ねぇ、雨ちゃん、最近の噂聞いた?」
不意に突然声がかかりドアに手を掛けた僕はピクリと動きを止めた。
「何の?」
僕は振り返らずに口を開く。
「能力者クラブだよ、知ってるでしょ?」
「まあ、札札に聞いたよ、それがどうした」
「雨ちゃんの所に来た?」
「来てないけど、なんで」
「じゃあ、さ、そのサイト来たら、教えて」
菜月の声が一瞬低く感じて僕は振り返る、だが、そこにはニコニコとした菜月がいるだけ、僕の勘違いかな?
そして、妙な静寂を切り裂くように昼休み終了のチャイムが鳴り響く。
「あ、行かなきゃ、じゃーな」
「約束だよ、さっきのこと」
「ああ、わかったよ」
僕は振り返りもせずに、手だけを振ってその場を後にした。




