物書きの全力食レポ
こちらの題は「物書きの全力食レポ」です
偉大なる女王陛下が治めるこの王都でも名の知られた作家……のタマゴ……を目指すこの私が書いた本で唯一売れたもの、それが『冒険者向け王都グルメガイド』だ。
ギルドを訪れる多くの冒険者達に売れるよう、ギルド窓口の近くに本を置かせてもらったところ、なかなか好評『だった』ようだ。
だった、という言葉からぜひともお察し頂きたい。
そう、今はさっぱり売れない。
「何でよ、どうして私の本が売れないのよ」
「だってこのグルメガイド、1年前の情報じゃない。無くなった店だって平気で載せてるような本、信頼性落ちて当然じゃない?」
最高評価星5のうち、星3を付けたギルド酒場で、ぬるくて酸っぱいエールを飲む私の正面に座るのは、仲の良いギルド窓口嬢のエレーナ。
エルフ族ならではの美貌と物腰柔らかな対応で、冒険者からの人気はぶっちぎりで星5といったところだ。
「ほらここ、この『満月の狼亭』とか去年潰れちゃったわよ。確か店主が借金踏み倒して逃げたの。それに半年前だっけ? 新しく出来た『杠の館』、肉料理が絶品なのに載ってないじゃない。こういうのって情報の鮮度が命だと思うよ?」
「そうだけどさぁ……取材するのも大変だし、出版するのはもっと大変なのよ。出版なんてコケたら大赤字で借金出来ちゃうんだから」
「それがナナの仕事でしょ。取材して、記事書いて、んで出版するの」
「そうだけど、そうなんだけど……もう怖いのよ、この前出した本なんて全然、もうホント全っ然売れなかったしさ」
「あー、アレ、確か『ナントカ男爵の隠し子な女の子が王宮に奉仕に出されて、宮廷魔道士と騎士団長と宰相の令息と王太子から一斉に愛されて、結局旅の勇者に見初められて結婚する』的なやつだっけ?」
「人の書いた本を超絶ざっくり要約してくれたわね……って読んだの? 買ってくれたの!?」
「買ってない」
「何で!? 買って!?」
たん、とジョッキをテーブルに置いてエレーナは身を乗り出し、私に顔を近づけてきた。
「あのねナナ。この際だからはっきり言うけど、あんたの物語は面白くない」
「え」
この上なく残酷で、冷酷で、そして事実でしかない言葉を火の玉ストレートで投げつけて来やがった。
くそう、気にしてることなのに。
自分では薄々『ひょっとしたらそうなのかも』と思ってはいたが、人から言われると実にダメージがデカい。
どれくらいデカいかというと、今運ばれてきた人気メニュー『木の葉鳥の串焼き』に手を伸ばそうという気も起きないくらいにデカい。
「物語の本筋が始まるまで何ページもめくらないといけないし、延々と山なし谷なしオチなしの説明文が続くし、最後まで読んでも読後感が『それで?』しか出ないのよ」
「……ヒドいけど、最後まで読んでくれたんだ……」
「読んだわよ。苦痛だったけど」
「苦痛て」
「読んでて途中で『え、私何やってるんだろ』って何度も思った。で、その後に『王都グルメガイド』読んだらまぁ読みやすい読みやすい。比較的、だけどね」
「……そうなんだ……私の本って、面白くないんだ……」
うすうす分かってはいた。
書いても見向きもされない。手にとってすらもらえない。
そのうち、『私はこの世で必要とされてないんじゃないか』とすら感じるようになった。
100年前に『印刷術』というものが開発されてから、この世界では本があふれるようになった。
それまでは、本といえば全てが手書きで、物によっては『本1冊で家が1軒建つ』と言われるくらい、高価なものだったそうだ。
印刷術の普及で、本は庶民も気軽に買える娯楽になり、それに伴って私のような物書きはわんさか出てきた。
私のように魔法も剣も使えない、貴族にコネもない者が人生大逆転を狙うには、出版というバクチに出るしかない。
そして、私はそのバクチに負けた。
「ただねナナ? ちょっとほら、この木の葉鳥の串焼き食べて、私にどんな味だったか話して皆よ」
「なによ、エレーナだって食べたことあるじゃん……」
「私を『ド田舎から出てきた世間知らずの腹ペコエルフ娘』だと思って」
「娘って歳じゃなくない? ド田舎出身はそうだけど」
「シバき倒すわよ? ほら、ガタガタ言わないでやってみて」
何だよもう、しょうが無いなぁ。
金属製の串に刺さった木の葉鳥の皮付き肉は、ところどころ焦げ目がついていかにも香ばしそうだ。
強火の遠火で炙られた串焼きの焼き加減は絶妙で、焼きすぎるとすぐパサパサになる木の葉鳥の肉だが、ジューシーさを保ってなおかつちゃんと火が通っている焼き加減で出されるところは、この店が他の店と大きく違うポイントだ。
パリパリに焼かれた皮の歯ごたえ、そして弾力のある肉にかぶりつくと、甘みと旨味に溢れた肉汁が口いっぱいに広がる。
グラスカウの肉々しい、雄々しい味わいとも違う。毛無ボアの独特の癖と臭みのある味とも違う。
口に入れた瞬間はクセのない蛋白な味に感じられるけれど、噛んでいると塩が引き出した独特な甘みが肉の奥から染み出してくる。
味付けは塩と、柑橘の皮に唐辛子を混ぜたクセのある調味料を使っており、ピリッと鋭い辛味が木の葉鳥の旨味を絶妙に引き立てる。
鼻に抜ける柑橘の爽やかな香りと後味は、次の一口を呼んで止まらない。
エールを一口ふくむと、エールの炭酸の刺激と、軽い苦みと酸味が口の中の油を洗い流してくれる。
あぁタマらない。油断をすると串焼きの5本や6本くらい、何も考えずに食べてしまう。
この串焼きは、さしずめエール泥棒だ。ほら、もうジョッキに半分以上残っていたエールが空になった。
「すいませーん、エールおかわり! 2つちょうだい! あと串焼き8本追加で!」
ジョッキを高く掲げてエールを注文したのは、私ではなくエレーナだった。
「ほらナナ、それよそれ! あんたの武器はそれじゃないの!? ナナの今の『木の葉鳥の串焼き』のレポート、凄かったわよ? 私も思わず食べちゃったくらいだもん」
「エレーナもって……あ! ちょっと私の串焼き!? 何勝手に食べてんのよ!?」
「だから追加で頼んだじゃない。ほら、あんたの話聞いてた奴らが一斉に注文始めたの、聞こえるでしょ?」
確かに、そこかしこのテーブルで、『エールと木の葉鳥の串焼き』がまるでセットメニューのように注文されている。
厨房からは『誰か木の葉鳥捌いて来い!』という声まで漏れ聞こえてきた。
「ちょっと提案なんだけどね、ナナ」
柔らかい物腰と人当たりの良さからは想像も出来ないほど、お金にがめついエレーナが再び身を乗り出してくる。
「私はお店を探して取材交渉してくる。グルメガイドに載せる代わりに、推しメニューを提供してもらう。んでナナと私が食べて、ナナが記事を書く。本を出すお金は半分私が出す。売上も半分私がもらう、でどう?」
悔しいけど、エレーナの受付嬢としての情報網は侮れない。
それに、窓口を訪れた冒険者に私の本を推してもらえるかもしれない。パートナーとしては理想的だ。
「分かった……やる。やってみる」
「よし、決まりね。じゃあここはナナの奢りね?」
「え」
相変わらずがめつい女だ。畜生。




