〜ダイヤモンドリリー〜 ネリネ
どんな時も、見守る空は"青"だった。
見上げる空は、誰かの顔色を伺うようで…
「涙の色は、何色?」
幼心にそう問いかけた。
「出逢いはそう。いつもここだった。夜、雲ひとつない空。藍色の空…なんて言うじゃない?私にはね、
鮮やかな青色に見えたの。」
胸に手を当てながら、
彼女は、懐かしむように微笑みながら話す。
「星が綺麗な夜だった。」
彼女はまだ知らない。
僕が僕なのだという事。
全て知っている。見守ってきた。
だからこそ聞きたい。
貴方の"世界"を。
『ここ?』
僕はバルコニーを指差した。
「…そう。ここよ。」
そう言って、彼女はゆっくりと立ち上がる。
杖をつきながら重い足を引きずるように、
一歩、また一歩と歩く。
『大丈夫ですか?』
僕が手を差し伸べると、その手を見て口元が綻ぶ様子を見せた。
「ありがとう」
僕の目を見て満開の笑顔でそう答える彼女に、
"若い時は素直で可愛らしい人だった。"と、聞いた通りの印象を持った。
支えるように手を取りゆっくりと歩く。
バルコニーまで歩くと空を見上げた。
澄み渡る青空に、巻積雲が光から伸びていた。
「…いわし雲だねぇ」
そう言った彼女は、どこか嬉しそうに窓を開けた。
ふと、懐かしい香りがした。
心地のいい風が、金木犀の花の香りを運んできたみたいだ。
「私が子供の頃ね、夕日に向かういわし雲が光り輝く階段に見えたのよ。あれは"天国へ階段だ"って神様に感謝しようって友達と空にありがとー!って叫んだんだよ。
懐かしい…あれは秋だったんだねぇ。」
少し目線を下げながらにこやかに話す彼女は、
一度瞳を閉じると唇に弧を描くように微笑んだ。
『秋がお好きなんですか?』
釣られるように微笑みながら僕は聞いた。
「そうだねぇ、いい事も悪い事も。秋は色んなものを運んできてくれるからねぇ、憎めないねぇ」
振り返り窓を背に歩きだす彼女。
僕はその物言いに少し戸惑った。
(昔は素直だった…か。)
まるで長年寄り添った主人に対する思いを聞いているのかと錯覚しそうな物言いだ。
彼女の右側に周り手を取り、
そして、ゆっくりベットに戻る。
「ありがとう」
また満面の笑みでお礼を言う彼女に、
『いいえ』
僕も釣られて笑みを返した。
ベットに横になった彼女は、
また小さく「ありがとう」と言った。
ダイヤモンドリリー ネリネ
花言葉: 「また会う日を楽しみに」「幸せな思い出」




