8話
土曜日の昼下がり、あかりと藤堂と一緒にこじんまりとした和カフェで、お茶にあうスイーツを楽しむ。
「パンケーキは?」、「クレープパフェとかどう?」と、ともこが食べたいものをあかりにすすめてみたが、洋より和、ジュースより茶、アイスなら抹茶一択のあかりなので、頷いてくれることはなかった。
とはいえ、ともこはあんこが好きなので、特に不満はない。生クリームどら焼きを頬張り、甘過ぎないあんこと生クリームの見事なコラボレーションを味わう。
あかりは抹茶パフェ、藤堂はみたらし団子だ。苦い抹茶を注文するあたり、あかりの趣味は渋めで徹底されている。
「メールと添付データ、読んだよ。あっちは全面的に有責を認めてるわけだし、あれなら代理人を立てずにいけるだろ」
「ありがとう。自分のことだけじゃないと思うと、ちょっと確認してもらいたかったんです。助かりました」
「たかくん、ありがとね」
「おう、気にすんな。あかりのためなら、なんでもしてやるぞ」
「あれ、私は?」
聡と晴香に対する慰謝料請求を、代理人無しですることにした。小百合たちにも慰謝料を相場以上に支払うと明言していたそうだから、最後にそれくらいは信じたくての決定だ。小百合たちも、同意してくれている。
内容証明は難なく作成できたが、念のために藤堂に確認してもらった。知り合いにプライベートな情報が知られるのは避けたいが、藤堂だけはあかりや聡のことをはじめとして何でも相談してきているので、今さら恥ずかしいことはあまりない。
あかりは法律家の先輩として藤堂のことを尊敬していて、藤堂もあかりの勉強をみるなどしてかわいがってくれている。ともこそっちのけで会話が盛り上がることもあるほどだ。
藤堂に相談したことをあかりに話すと、自分からもお礼を言いたいとのことなので、藤堂に時間を作ってもらった。
「それにしても、背が伸びたなぁ。ともこより高いんじゃないか?」
「うん。もう五センチもともちゃんより高いよ」
「ふはっ。ともこ、あと数年したらあかりの妹に間違われるぞ。あかりは大人っぽいから、きれいめ系になる未来が見える」
「やめてっ。最近本気で心配してるんですから。……ちなみに、私は何系?」
藤堂が首をかしげ、たっぷり考えてから口を開く。
「たぬき系」
「なにそれ酷い! そんな系統ないです!」
わざとらしく泣き真似をして、あかりにすがりつく。うん、自覚はある。こういうことをするから、揶揄されるのだろう。
しかし、慰めてくれるあかりが愛しくてたまらないのだ。
「大丈夫。ともちゃんは、フェミニン系だよ。かわいい」
「私にはあかりがいれば、他に何もいらないぃ」
「はいはい」
酔ってもいないのに、いつものお決まり文句を口にしてしまう。
「数年もいらないなぁ。すでにあかりの方が大人だな」
「そんなことない。ともちゃんは、頼りになるお母さん」
「聞きました? ちゃんと耳に焼きつけました!?」
「「はいはい」」
ダブルはいはいが返されてしまった。
「ねえ、たかくん。相談してもいい?」
「ん? どんなこと?」
「わたし、告白されちゃった」
しばらくスイーツを堪能してからあかりが切り出した言葉に、面食らってしまう。
「お、お、お、お母さんに相談しないのかな?」
「ともちゃん、断固反対しか言わないじゃん」
「うぐっ……」
「なるほど。それはともこが悪い」
あかりの鋭い指摘に、思わずたじろぐ。
「相手はどんな人?」
「一七才、高校生。わたしが一六才になったら、結婚しようって言ってる」
「結婚!? 断固反対!」
「ほら出た」
「うっ、むうぅ」
そうは言うが、告白ならまだしも一足とびにプロボーズとは、世の母親ならば見逃せない事案だ。
「仲良いのか?」
「ううん、あんまり。友達の兄の友達。もともとモテる人で、一六才になると同時に二人と結婚したんだって。順調に増やして、今は五人。だから、軽い気持ちだと思う」
法改正が行われてから、現在では男女とも一六才で結婚できる。ともこの事務所にも一八才より若い未成年の依頼人がいるので、特別珍しい話ではない。
しかし、あかりが関係するなら話は別だ。ここは母親として、ビシッと「そうかぁ」……藤堂に遮られた。
「答え、出てるでしょ?」
「……うん。断る」
「そうだと思った」
呆然としている間に、二人の会話が進む。
「その心は?」
「わたしも、そういう対象に見られる年なんだって自覚して、怖くなった」
「あかり……」
「婚約のこと、結婚のこと、知識だけならたくさん知ってる。でも、そういうんじゃなくて……」
「うん」
「少しね、聞いてほしかったの。わたしのこと、そういうふうに見ない、男の人に」
あかりは、怖がっている。女になることを、大人になることを。
「そうだな。俺には、子どもにしか見えないもんなぁ。子どもで、未熟で、ともこの宝物」
「うん」
「巣立つには、あと十年は早いよ? ともこがしがみついて、離さないから」
「しぶといんだからね」
「うんっ……!」
あかりの涙を、四年ぶりに見た。誰よりも早く大人になろうとしている子だと思っていたけど、もしかしたら大人になってともこと離れることを、嫌だと思ってくれているのかもしれない。
たっぷりと二人がかりであかりを甘やかして、そのまま夕食まで付き合ってくれた藤堂に、足を向けて寝ることができないな。
聡と感情面だけではなく、法的にもきっちり終わりを示そう。そして、いずれあかりと一緒に婚姻契約士事務所を開くことを楽しみに、仕事をますます頑張ろう。
ちらっと、頼れる同期のことを見る。聡と決着をつけたら、また金曜日に会ってもらおう。
おいしいお酒と料理を、楽しみにして。




