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シャルの正体 ⑤

「レナさん」


地下室での一件から三日が過ぎた。

今日も軽めの依頼で終わらせようとギルドに顔を出すと、エマさんに呼び止められた。


「ジャスティンさんが、レナさんに用があるそうです」


「……え?」


その名前を聞いた瞬間、背中を冷たい汗がつたった。

普段ならなんとも思わない。でも、今は全然状況が違う。


エマさんの案内で応接室に入ると、中年の男性が一人、椅子に腰かけていた。


「ジャスティンさん、お疲れ様です」


「よう、嬢ちゃん。久しぶりだな」


彼はジャスティン。カルムの町の警察に勤める、現役の警部。

私がこの町に来たときに、いろいろとお世話になった人だ。


「久しぶりって……この前も会ったじゃないですか」


「ははは、そうだったか?」


ジャスティン警部は、普段はちゃんと仕事をしてる……はずなんだけど、なぜかギルドのエントランスでくつろいでる姿をよく見かける。

前に「お仕事は?」と聞いたら、「パトロール中だ」と軽く返された。

一瞬納得しかけたけど、ほんとにそれでいいの?と思った記憶がある。


「それで今日は、何の用ですか?」


「ああ、ちょっと聞きたいことがあってな」


そう言って警部は胸ポケットから写真を一枚取り出し、机の上に置いた。


写っていたのは、一人の少女。

モノクロの写真だったけど、髪型、顔立ち――間違いない。知ってる。シャルだ。


「知ってるか?」


「……いいえ」


動揺を何とか抑えて答えた。でも、頭の中は混乱でいっぱいだった。


「誰なんですか?」


「いや、知らないならいいんだ」


そう言って、ジャスティンは写真をすぐにしまった。それ以上追及する気配はない。

その態度に、逆に不安が広がっていく。


◆ ◆ ◆


「レナさん?」


「エマさん、お疲れ様です」


警部とのやり取りのあと、私はギルドの資料室にいた。


「これは……指名手配者のリストですか?」


私の読んでいる本を見て、エマさんが首をかしげる。


それは手配者リスト。ギルドは民間の組織だけど、魔獣討伐や護衛以外にも、警察と連携して犯人確保に協力することがある。

だからギルドの資料室には、指名手配犯の写真や似顔絵がまとめられて保管されている。


「何か気になることでも?」


「……まあ、ちょっと」


ページをめくる手が止まる。

少なくともこのリストに、シャルに関連しそうな情報は載っていなかった。


ということは、手配されたばかり……? それとも――


「エマさん、最近手配された人で、ウェーブがかかった長髪で、私と同じくらいの背格好の女性っていました?」


「え? いえ、いませんね。先ほどジャスティンさんからもらった最新のリストにもなかったですよ」


――エマさんにも話してない。つまり、シャルは正式には“追われていない”。

でも、警部は彼女の写真を持っていた。ということは……


何か公にできない事情がある


思考を巡らせていると、エマさんの心配そうな声にハッとした。


「あっ……すみません。ちょっと考えごとしてて」


私は無理に笑ってごまかす。けれど、心の奥ではざわつきが止まらなかった。


(ジャスティン……私が何か隠してることに、気づいてる?)


あの写真を私にだけ見せたということ、「知っているか?」という何気ない一言の奥に、何があるのか。


――でも、本気で捕まえるつもりなら、あの場で詰問すればいいはず。

なのに、彼は何も言わず写真を片付けた。その意味は……


まだ判断するには情報が足りない。けれど――その“足りなさ”が、逆に物語っている。


シャルは、確かに追われている。でも、表には出ていない。だけど公の組織である警察はシャルを探している。

つまり、警察すら動かせる力がどこかに存在するということ。


得体のしれない存在がいる。


知らなければよかった――そう思わないわけじゃない。

でも、もう知ってしまった。それは単に事件に巻き込まれたということだけじゃない。

地下室で見た彼女の諦め、私のベッドで穏やかに眠る彼女の寝顔。多難と平穏が表裏一体の状態。どうして彼女がそんな思いをしなけらばならないのか。今、彼女の運命は私が握っている。


なら、私は――


選ばなきゃいけない。


このまま、何も知らないふりをして彼女を切り捨てるのか。

それとも――彼女の手を取るのか。


そんなの、答えは決まってる。

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