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察する瞬間

ガラスの向こう、こちらの出口に向かって歩いてくる二人の姿。

一人はジャスティンさん。そして、もう一人は――


「……え?」


胸の奥が跳ねた。

――まずい。


肩辺りまで伸びた金髪に、整った制服姿。

いつもと変わらない、でも場違いなほど明るい笑顔を浮かべた少女。


「あ、レナさん。見つけましたよ」


とびきりの笑顔で、シャルがこちらに手を振っていた。


私は一瞬、自分の目を疑った。

 そこにいるのは、まさしくシャル。

見間違いであってほしいと何度も目をこすって見直してもその状況は変わらなかった。


 ……いや、ちょっと待って?


「……シャル、どうしてここに……?」


 とりあえずそう訊いてみたけれど、返ってきたのは相変わらずの満面の笑み。だけど――なんだろう、笑ってるのに、笑ってないというか。


 ううん、なんか、笑顔からプレッシャーが出てる気がする……。


「警部、その人、どなたですか?」 


ライトさんは状況がつかめていないようだ。というかシャルのことを知らないのだろうか。


「シャルロット様、第三王女様だよ」


感情を飛ばしたような調子のジャスティンさんの返答にライトさんは一瞬固まってから「お茶をお持ちしますね」という場違いな言葉をつぶやき歩き出した。


その闘争の試みは無表情のジャステンさんに肩を掴まれることによって阻止された。


私もできれば逃げたいところだけどシャルの視線がそれを許さない。


「……ふふ、ちょっとレナさん。最近放課後どこに行ってたのですか?」


「え、いや……」


「私、レナさんが何か事件に巻き込まれていないか心配になって、申し訳ないとは思ったのですが後を追ってみたんですよ?」


 ……? やっぱりまずい? それって完全に――尾行……


「で、そしたらレナさんが警察署に入っていったじゃありませんか。びっくりしましたよ」


 笑顔。だけど語尾の一つ一つに込められる“圧”がすごい。

 どこから突っ込んでいいか分からないけど、とりあえず息を整える。


「そ、それで……シャルは、どうしてジャスティンさんと?」


「ええ、受付で確認しようかと思ったのですが、偶然通りかかったジャスティン警部を見つけまして。以前の件でお世話になったこともあって、応接室をお借りしてお話ししました」


 話し、というより“尋問”だったのでは? と口に出しかけたが、寸前で飲み込む。

 その証拠に、後ろを歩いてくるジャスティンさんの顔が見事に疲弊していた。


「それで、レナさん? 一体どうして、警察に協力して事件に関わっていたんですか?」


 正面に立ったシャルが、にっこりと笑いながら訊ねてくる。

 ああ、なるほど。これはもう“逃げられない”やつだ。


「いや、一応極秘の捜査だっだったし……」


「そうですか、だけどもう私、知っちゃいましたね」


そう言ってシャルは私たち三人を見回し、最後に私の目をじっと見た。


「仕方ありません、私も捜査に協力しましょう」


その宣言に、一瞬その場の空気が凍った。

 次の瞬間、状況を理解したのかジャスティンさんが顔を青くする。


「……いやいやいやいや、待て待て王女殿下、何を仰っているのですか!?」


「何故ですか?」


「いや、何故って……」


 ジャスティンさんが目をぐるぐるさせながらライトさんを見る。

 ライトさんはと言えば、すでにどこか別方向を向いて我関せずという態度だ。逃げたな、また。


「シャル……気持ちはありがたいんだけど……これは、かなり危険な案件で……」


「それを分かっているからこそ、私が関わるべきだと思います。レナさん一人では心配でしょう?」


 きっぱりとした口調。笑顔は崩れていないけど、妙な威圧感はむしろ増していた。


「いや、そもそもですね、今回の捜査から嬢ちゃん、レナさんは外す予定でして……」


「レナさんはそれに従うつもりでしたか?」


シャルが私に問いかける。本当かとジャスティンさんが私に確認する前に私は明後日の方向を向く。


「可能な限り早く解決したいと思っていたのでしょ?」


「……いや、まあ、うん」


私の答えにジャスティンさんは一層に顔を青くする。


「それに、私は王族ですが表に出たことはほとんどありません。なので市中で私に気付く人はほとんどいませんから、捜査もできますリ、いざとなれば魔法も使えるので身を守ることも出来ますよ」


ここが勝負と言わんばかりにシャルはジャスティンさんに畳みかける。


「おい、ライト!」


「……」


シャルと私の説得をあきらめたのかひとまずライトさんを仲間にしようと詰め寄るジャスティンさん。しばらくは空を見上げて何も言わなかったライトさんだけど、胃を決したのかジャスティンさん、そしてシャルの方に顔を向けた。


「私は警察官です。国家、国民のためにこの身をささげます。なので、王女殿下の命令とあらば遂行いたしましょう」


綺麗に敬礼をし直立不動のライトさん。その頭ではきっと何も考えていない。


「おい、ふざけるな、何を考えているんだ!」


結局、しばらく不毛な押し問答が続き最終的にはジャスティンさん、ライトさんがシャルからの密命を飲むことになった。


◆ ◆ ◆


「本気なんですね」


学園へ戻る夕暮れの街路は、昼間の喧騒を飲み込んで淡い橙に沈んでいた。薄闇の中、石畳に二つの影が伸びる。私は左腰に吊ったホルスターを気にしながら歩調を整えた。シャルが隣に並ぶたび、頬にかかる金の髪が風に揺れ、視線がそっと私の腰元に落ちるのが分かる。


「本気なんですね」


 シャルの声は、囁くようなのに妙に胸に響いた。肩越しに視線を向けると、彼女の碧眼は真っ直ぐ拳銃に注がれている。その光に、ただの好奇心ではない強い覚悟が滲んでいた。


「……これは、護身用。万が一のための保険みたいなもので」


 笑ってみせたつもりだった。でも口元がひきつる。シャルはわずかに首を振ると、夜の空気に似合わないほど澄んだ声で続けた。


「保険にしては――重すぎます」


 足が止まる。街灯の灯りが彼女の制服の金ボタンを淡く照らし、きらりと反射した。私は思わずホルスターを手で覆った。そこに触れた革の感触が、逆に銃の重みを際立たせる。


「レナさん、お願いです。危険な真似だけはしないでください」


 静かな言葉なのに、命令より強い。シャルの両手が私の腕をそっと包む。細い指先が震えているのを感じた。彼女は笑顔を作ろうとして、けれど結局できずに唇を噛んだ。


「――もし、あなたがまた無茶をするなら」


 潤んだ瞳がまっすぐ私を射抜く。


「たとえレナさんが『来るな』と言っても、私が助けに行きます。王女としてじゃなくて……友人として。いいえ、それ以上の何かとして」


 その瞬間、胸の奥が強く掻き乱された。王女殿下がこんな夜道で声を震わせてまで私を案じてくれる――その事実に、申し訳なさと嬉しさと恐れが一度に押し寄せる。


「シャル……」


 言葉が喉で絡まった。確かめるように握られた腕は、驚くほど温かい。私はそっと自分の手を重ね、指に力を込めた。


「ありがとう。でも、今回ばかりは引けないの」


 背中の奥で、捜査資料の重さと拳銃の金属の冷たさが同時に私を引き留める。誰かがやらなきゃいけない。私がその“誰か”でありたい――それが、数日前に決めた覚悟だった。


 シャルは目を閉じ、小さく息を吸う。


「分かっています。止められないのなら、せめて――私に隣を歩かせてください」


 彼女の声が、夕闇の向こうでひときわ鮮やかに響く。私は頷き、彼女の手をそっと引いた。揺れる街灯の下、二人の影が重なり、また一つに伸びる。


◆ ◆ ◆


「本気なんですね」


その言葉に足が止まる。学園へ戻る夕暮れの街路は、昼間の喧騒の余韻を残していた。左隣のシャルはこちらをちらちらとみている。


やがてその視線は一点に収束する。腰に巻いたホルスター、そこに入れられた拳銃に。


「うん、これもギルドの役目だしね」


 それが私の答えだ。危険を承知で守りたい――そんなこと言う必要なんてない。


「レナさん」


 呼びかけは穏やかなのに、逃げ場のない真剣さがにじむ。


「私はあなたが危険な状況に飛び込むなんて考えたくありません」


 言いながら、シャルはおそるおそるホルスターへ手を伸ばす。だけど、その動きは途中で止まる。触れることさえ怖いように指先を震わせ、代わりに私の上着の袖をそっとつまむ。


「危険な真似だけはしないで、と言いたい。でも、それが無駄なことなのだとしたら……」


  半歩だけ近づくと、碧眼が私の瞳を捉える。


「私は、最後まであなたと一緒に戦います。やめてと言われても、聞いてあげませんから」


 その言葉を聞いた瞬間、胸に熱いものが込み上げた。

 拳銃と一緒に引き受けた覚悟は、なるほど重い。けれど、その重みを分かち合おうと手を伸ばしてくれる存在がいる――ただ、それだけで息が楽になる。


「……そうだね」


 自分の声がかすれて笑う。シャルは目を瞬かせ、すぐに花が咲くような微笑みを返した。


「約束ですよ?」


「うん、約束」


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