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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

だ れ か が 見 て る 。

作者: 原太

 始まりは、友達と渋谷センター街で、同じ部活のみんなにあげるためのチョコレートを買いに行った帰り道だった。

 モヤイ像の前で待ち合わせて、一緒にスクランブル交差点を渡り、いろんなお店を見て回った。

 そして、それぞれ目当ての商品を買って、待ち合わせた所で別れた。

 ここまではよかった。だが、帰りの途中で、粘り着くような視線に気付いたが、どこから、誰に見られているのかは分からない。

 しかし、次の日の登校時から、絡み付くような視線が追ってきた。教室で授業を受けていても、休み時間に写真集を読んでいても、部活のときもだ。

 私は、取り柄が大きな胸(Eカップ)くらいで、髪型はおさげで、頬にはそばかす、その上アンダーリムの眼鏡をかけた地味な出で立ちなので、そもそも視線に追いかけられることに慣れておらず、いきなりここまで病的な視線は正直、気持ち悪かった。

 両親に相談しようにも、2人とも仕事で忙しく、家にいる時間はほとんどない。

 その日の帰り道、自分の周囲に気を付けていると、とうとうそれらしい、ロングコートを着た、禿頭(はげあたま)の男を見つけた。案の定、翌朝の登校時も姿を見た。もちろん視線は続いた。

 その日の放課後、私は自分が所属している写真部に出向き、バレンタインデーの友チョコ交換会に参加した。

 そして、こっそり部長に「最近、誰かに付けられているので、ボディーガードを頼めないか」と頼んだ。

 すると部長は、「運動部の友達に頼んでみるね」と快く引き受けてくれた。

 やがて下校の時間になり、帰る準備をしていると、部長の友達と思わしき女子が2人やって来た。見たところ、2人とも身長も体格もしっかりしているので、安心した。

 帰り道、男は私たちの5メートル後ろから付けている。

 ふと、運動部女子の1人が、男を指差して「もしかして、付けているのってあいつ?」と聞いてきた。私は静かに頷く。

 すると、2人は男のもとへ向かっていき、目の前まで近づくと、強めの語気で何かを言っていた。

 およそ10秒後、男は路地裏に入っていった。2人も追いかける。

 私が『チャンス』と言わんばかりに走り出そうとしたその時、甲高い悲鳴が路地裏から聞こえた。

 途端に嫌な予感がした。そして、恐る恐る路地裏に足を踏み入れると、不安は的中した。

 部長の友達の1人が、胸部から血を流しながら倒れていた。もう1人は恐怖の表情で腰を抜かしている。

 そして、男の右手には、刃が血で真っ赤に濡れた鋏があった。

 私は『逃げなきゃ』と思っていたが、恐ろしさのあまり足がすくんで動けなかった。

 男はそのまま私に近づいて、肩に手を置いてにこりと笑った。

 私はここで、もうどうしようもないことを悟った。

 私は男に連れられるしかなかった。

 連れ去られた先は、古いアパートの1室だった。そこは暗くて寒かった。

 さらに背筋を凍らせたのは、部屋の壁一面中に私の写真が貼られていたことだ。

 紺色のセーラーワンピース姿の写真に緑色のジャージ姿の写真。どれも最近撮られたものだろう。

「ようこそ我が家へ、九条笑(くじょうえみ)ちゃん。君は今、帝都女子大学附属高等学校2年普通科の生徒で窓際の席、写真部所属で趣味は写真撮影、自宅はマンションの1室

「なんでそんなこと知ってるの……?」

「付けてたからね」

 恐怖のあまり吐き気を覚えた。

 男は笑顔でコートを脱ぎながらゆっくりとこちらに近づいてきた。右手に鋏を持ったまま。

 コートの中は全裸だった。

「きゃっ!」

 私は顔を背けたが、男はひた、ひたと1歩づつやってくる。

 私は意を決して、カーテンを開け、窓を開けようとした。が、開かない。よく見ると、サッシの真ん中に釘が打ち込んである。どうりで開かないわけだ。

「笑ちゃん、可愛がってあげるからこっちにおい

 その時、電話が鳴った。と言っても、私のスマホではなく、この部屋の固定電話だ。

「なんだよ、いいところだったのに……」

 男は忌々しげに私から背を向けた。そして受話器を手に取った。

「もしもし?母さん、何か用?」

 私は『今の内に逃げよう』と考えた。

 だが、バレたらお終いだ。何か抵抗できるものが欲しい。

 ふと、部屋の隅に立てかけてある木刀が目に映った。私はそれを手に持った。

 男は未だ電話中だ。私は気付かれないように忍び足で近づく。

 そして、木刀の物打が男の頭上に来たところで、大きく後ろへ振りかぶり、脳天目掛けて得物を振り下ろした。

「がっ⁉︎」

 男は木刀を頭にもろに食らい、前に倒れた。

 しかし、私は恐怖に駆られていたので、一切手を緩めなかった。殴って、殴って、殴り続ける内に男は動かなくなった。

 ようやく殴るのを止めた私は安心と虚脱感でその場にへたり込んだ。だが、倒れている男を見た瞬間、『やってしまった』と激しく後悔した。

 いくら悪人とはいえ、ストーカーとはいえ、犯罪者とはいえ、これでは自分も同じではないかと思ってしまった。

 その後、警察がやって来て、私は保護された。その間、男が動くことはなかった。

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