8.桃色の光と桃色の花と…
「では、私から説明をさせていただきます。今回こちらに出向いたのは、最近王都で人間に有害な『魅了のバラ』が流通するようになったからになります。」
魅了のバラ。その名の通り、その香りには人を強く魅了する力がある。
ただ魅了するだけなら、魅了のバラをとにかく追い求める人が生まれるだけなのだが、その花びらを煎じて飲むと、惚れ薬のような効果を持つようになるのだ。
「魅了のバラですか。その出所を探して欲しいということでよろしいですか? それとも、私を疑っているということでしょうか。」
魅了のバラは、人間には作ることができない。
魅了のバラは、この世界のほぼ全てのものに存在する魔素という物質が通常より多く含まれることで生まれる。
魔法は、この魔素に精霊を通して干渉することで使えるのだ。
しかし、魔素を意図的に増加することは高位な精霊、または増加する対象に普段から魔法を使い慣れている精霊くらいにしかできないため、ロゼッタが疑われたのだろう。
「このブルーメ山脈は、私の好きな花をたくさん育てているのです。優しく暖かいブルーメ山脈にふさわしくないため、私は豪華な花は趣味ではありません。バラの魔素を増幅させることは、私にはできませんわ。」
「しかし、上位精霊であるロゼッタ様にできないのなら、一体どうやって…?」
ジェイクとノアが揃って顔を俯かせる。
(悩む姿も目の保養! お二人ともお顔が良すぎるわ…!)
「出回ってる魅了のバラって、何色? 込められた魔素の色でわかるかも」
「魔素の、色、ですか?」
「そっ」
壁から顔だけを覗かせ、まるで処刑台に登ったかのような縁起の悪い体勢でレイが言う。
…まだ壁に埋まっていたなんて、気に入ったのかしら。
レイなら体を小さくするなんて、なんてことないはずなのだけれど…
「本来魔素ってのは、白いものだ。でも、精霊たちが常に干渉しているから、魔素は様々な色と修正を持ち、こんなふうに色として眼に見えるようになる。」
そう言ってレイは、近くにある桃色の花をプツンとちぎり、何やら手をかざす。
(あぁぁ…! ロゼッタさんの無表情に少し怒りが見えた気が…!)
レイが手をかざした花は萎れ、桃色の光が溢れ出す。
「ほら、これが魔素。この世の全てに含まれる魔素を俺の力で一時的に見えるようにした。花は灰色になって萎れ、桃色の光が溢れ出す。そして時間が経てば…ほら。」
レイが口をニヤリと開けてこちらをみた。
「桃色の花とおなじ色だった魔素が、本来の白色に戻る。」
私もノア様もジェイクさんも、ロゼッタさんまで目を見開く。
私たちは今、誰も知らなかった魔素の秘密を聞かされているのかもしれない…!
「そして魔素の色は、環境や、それを管理する精霊の見た目に影響することが多い。ブルーメ山脈の花が、ロゼッタの髪と同じ桃色のものが多いのはそれが理由さ。」
「えっと、つまり…?」
「もし魅了のバラが意図的に作られたのなら、その精霊の特徴を。意図的でないなら、育った環境を見つけるヒントになる。」
「…!」
魔素の色、そしてその意味。
(こんなに魔法を学んで、まだ知らないことに溢れていただなんて…! 早くレイにもっと詳しく教えてもらわなくては!)
「ジェイク。今すぐに魅了のバラを手配しろ。裏のルートを使っても構わない。」
「承知いたしました。」
ジェイクが何やら書き込みをしながら、転移魔法を発動する。
ジェイクの周りを囲む鮮やかなワインレッド色の光は、ジェイクの髪色と同じだった。
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