17.婚約披露会
私は心を躍らせながら、姿見の前に立つ。
婚約披露会のためにノア様が用意してくださったドレスは、白銀のキラキラと光る絹のドレスに、ジェイブルーのローブを羽織ったようなデザインだ。
ロングスリーブのAラインのドレスは、自分でも自信を持って似合っていると思える。
涼やかなイメージもありながらレースやフリルが惜しげなく使用され、華やかな仕上がりとなっている。
シースルーの素材で形作られたバラの花が、ジェイブルーの生地の淵に敷き詰められ、縫い付けられた小粒のダイヤモンドは、光に照らされる度朝露のような輝きを見せる。
大きな宝石を使わずして豪華で上品なドレスを纏うと、その色もありノア様の存在を感じ恥ずかしくなる。
「私、本当にノア様の婚約者になったのですね……」
「はい。本当に美しいですね」
「えへへ。ありがとうキーラ」
「レイ様、もう出てきて大丈夫ですよ〜」
「はーい! ……え、だれ?」
「誰ってことはないでしょう。ルーナよ、ルーナ・シャーロット・グラウプナー。レイの主人」
「まじで…? 別人なんだけど」
「ねえ、失礼なことを言っている自覚はある?」
カラカラと笑うレイを横目で見ながら、キーラに『好きなだけレイを着飾って良いわよ。私が許すわ』と伝える。
レイは一応護衛として登録されているため、今日の婚約披露会にも出席する必要があるが、それに護衛としての意味はほとんどない。
歴代の婚約者の令嬢がしてきたように、『わたくしの護衛はこんなにも美しいのよーん!』と自慢するための道具になってもらう。
ごめんね、レイ。
本当だったらキーラに『最低限で大丈夫よ』と言ってあげる予定だったけれど、もはやいつも通りと言える失言をお祝いに貰ってしまったため、お礼の言葉が必要でしょう?
本当に聖女か? という言葉は受け付けないわ!
「ちょっ! 待てキーラ! 話せば分かる! キーラアアァァァアアアア!」
レイの可愛らしい少年ボイスが、大きく響き渡る。
まあ、せっかくの美貌を目立たせないのは、レイの顔にも失礼ですからね!
私の判断はきっと正しいことでしょう。
緊張もすごいし、目立ちすぎたくないという気持ちが強いから、護衛に目立って貰って私の存在を霞ませよう大作戦!
ついでにちょっとレイには発光してもらう? いや、人間に見えるようにしておいた方が視線を集められますか。
あの美貌は、たとえ平民だとしても欲しがる貴族のご令嬢はいるはずでしょう?
─────その正体は五大精霊の一柱だから、ものすごい玉の輿に……はならないか。
仮に結婚できたとして、精霊界に行けるわけではないもの。
そんなことは置いといて……
私は、先ほどから待たせてしまっているノア様のいる部屋に向かう。
「ノア様、お待たせしました。とても素敵なドレスをありがとうございます!」
「とってもお似合いです。最後までベルラインやプリンセスラインと悩んだのですが、Aラインを選んでよかったです。ルーナの大人な見た目によく合いますね」
「そう言ってもらえて本当に嬉しいです! ノア様こそとっても素敵です」
「ありがとうございます」
私たちは完全なる政略結婚、というよりも契約結婚だけれど、それなりに仲良くやって行けそうです。
「ルーナアァァア! 俺を売ったくせにイチャイチャしてーー!」
「あらレイ。その服とても似合っているわね」
もちろん嫌味である。
誰が性格まで聖女だといいましたか?—————私はただの聖女の力を持った令嬢です!
「似合ってるわけあるかあ! こんな堅苦しい服俺じゃない!」
「とても似合っていて良いと思いますよ」
「王子様まで!」
レイは普段だったら絶対に着ないであろう、漆黒の生地に金の装飾がよく映える騎士服を着させられていた。
「そんなに嫌なら、逃げればよかったじゃない」
「脅されたんだよ! ルーナはまだキーラの恐ろしさをぜんっぜん知らないでしょ!」
「へぇ~ 大変だったね」
私は、過去にレイに『笑顔と魔法だけはめっちゃ聖女』と呼ばれた微笑みをプレゼントする。
これだけ美しく整えられていたら、会場の皆様の視線もいい感じに誘導されることでしょう。
囮役、よろしくお願いします!
◇◇◇
「ルーナ、そういえば事前に伝えておかねばならないことがありまして」
「はい」
私は少し顔を顰めるノア様を見る。
ノア様は基本的には笑顔で、それが寧ろ怖いこともあるのだけれど、この顔は珍しい。
「ベッキー・ローラット公爵令嬢と、ジュリアン・パース侯爵令嬢。デイモン・シアーズ侯爵令息にはお気をつけください」
「理由を伺ってもよろしいでしょうか」
「見れば分かると思います。関わらないのが一番なのですが…… 我々は主催者ですから、そんなわけにもいきませんし」
「わかりました。話は必要最低限に済ませることにします」
「そうしていただけると嬉しいです。後々面倒なことになりますので」
ノア様にここまで嫌な顔をさせるなんて、どんな危険人物なのでしょうか?
賑やかになり始めた会場へ目を向けながら、私はキュッと口を結んだ。
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