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008:金満ゴーレムはウラーナの素を見た。:

「ええっ!? 霊銀鉱って甘いんですか!?」

 

「うん。ちょっとで激甘だったよ。この飴よりよっぽどね」


 今わたしは泉の畔で甘味として出された飴を食べながらウラーナが料理するのを見ている。

 その場での話題で霊銀鉱をかじった時の話をした訳だ。


「そんな!? お砂糖の変わりになるものがこんな所で採れるなんて大発見ですよ!?」


 まぁ人族が食べて大丈夫かはわからないけれどね?


〈基本的に人型ゴーレム種族の味覚や内臓強度は人族と変わらないようですから問題無いとは思いますよ?〉


 おお、大丈夫らしい。


「通りでドワーフが秘匿する訳です。あいつらの所でも霊銀鉱は取れますが、ミスリル鋼はドワーフしか扱えないとか言って霊銀鉱からして出回らないんですよ! これは戦争ですね。聖戦です! 奴等から人の権利を取り戻さなくてはなりません!」

「人の権利とな?」

「そう、お砂糖は尊いのです! 尊さの塊! それがお砂糖!」


〈甘い物はここまで人を狂わせるのですね〉


「ま、まぁここで採れるようだし何も戦争までして採りに行く必要なくない?」

「そうですね! 王国に情報を持ち帰るのが先か、勇者様の救出か‥‥‥。ぐむむ、これは悩みます」


 ゆ、勇者の命が軽い‥‥‥。ちょっと不憫に思えてしまう。


 しかしそんなやり取りをしていてもウラーナの調理は見事である。


 先の無い幅広長方形の包丁で見事に素材の骨を断ち砕き、肉を刻み、綺麗なひき肉が作られた。

 砕いた骨からは良い出汁が出るのだと言って鍋に放り込み水と共にコンロに掛ける。

 白い実――ニンニク――を包丁の腹で割り、そのまま鍋に放り込む。

 また鍋が沸く前に緑と白の身をした細長い――ネギ――の緑の部分を折って鍋に入れる。

 白い部分は包丁を縦にザクザクといれてから横から刻むと均等なみじん切りとなった。

 それをひき肉と混ぜて塩と白い粉と黒い粒々――馬鈴薯粉と胡椒――を混ぜて捏ね捏ねして肉種を作る。

 沸いた鍋の上澄みにある灰汁をチョイチョイと掬って除く。

 十分に煮込まれた骨とネギの緑身を取り除き、肉種を適当な大きさに纏め鍋に放り込む。

 最後に追い塩で味を整えて完成だそうな。


「これは我が王国の伝統料理でして、野戦地でも十分な栄養と心が満たされるような幸福感を得られる他国の方にもお勧めできる品でございます」


 ウラーナが途中途中で素材の名称を言いながら料理の手順をわたしに見せてくれる。

 なかなか堂に入った見事な手際でした。


〈ゴミをほとんど出さずに片付けもしやすいように良く考えられていますね。できる娘です〉


 とても美味しそうで鋼鉄で出来ているわたしの腹もグゥゥと音を鳴らす。


「さぁどうぞ召し上がれ」


 ウラーナがそう言って碗に肉団子とスープを取り分けて渡してくれる。

 食べ方が分からないのでスープをそのまま啜ろうとするとラーラレーアが注意してくれる。


〈そのままでは熱いですよ。フーフーしてから食べるのです。ゴクリ〉


「ふうふう、あ、美味しい。こっちの肉団子も、あ、やわふわぁぁ、はふはふ、うわーなにこれ美味しいぃぃ!」

 

 美味しい。美味しいしか出てこない。食レポとしては失格だけれど、これは笑顔しか出せないよ。


「はぁぁぁ、お砂糖が笑った。尊い」


 とか言いつつ推定鼻を抑えるウラーナ。

 

 そう、まだ彼女は兜を脱いでいない。

 手甲は脱いだのだがまだフルプレートメイルをガチャガチャ鳴らしながら料理していたのである。


 脱がないのだろうか? 脱げない理由でもあるのだろうか?

 等と考えていた事が伝わったのだろう。


「わたしは鼻――汗を掻いてかなり見苦しい状態ですので。食事前に水浴びしてきちゃいますね」


 というとフルプレートメイルのまま泉にザブザブ入っていく。

 おいおい。


「‥‥‥絶対そっち見ないから脱いで入ったら? もし気になるならわたしは幌ソリの中に行くよ?」


〈ラーラレーアという者が居ながらラッキースケベ狙いですか、はぁ。これだから〉


 とかなんとかラーラレーアが言っているが断じてそんな気持ちは無い。


「あー、お気遣い有難うございます。ではそうしていただけますか?」


 わたしは了解と返して、おかわりのスープと肉団子を碗によそい幌ソリの中に入る。

 解っているよ?

 正直わたしの性別など自分ですらわからないし見たい欲なども無いのだが、彼女はわたしを男性と認識しているであろう事は解る。

 故に、たとえ悲鳴が上がろうとも、火矢を射かけられようとも、モンスターにこの幌ソリが破壊されようともこの幌ソリから出ればそこは、死地だ。

 デッド、オア、アライブである。

 守護れるか守護れなかったか。そこには0か1しかない。そんなハードボイルドな世界が広がっているのである。

 幾多の英雄。いや、この場合愚者か。どれほどの愚者がこの罠の犠牲になったか想像に難くない。

 

 そう、わたしは愚者ではない。

 そう、わたしは守護しきり英雄となるのだ!


「タオルと着替えを持っていくのをうっかり忘れちゃいましたー。あと鎧は洗って汗流しましたのでもう戻って貰って大丈夫ですよ」


 とダバダバ水に濡れながら素の彼女が幌ソリの中に入ってきてタオルと着替えを持っていった。


〈愚者――――となりましたね〉


 わたしは口をパカーンと開いたまま固まっている事しかできなかった。

 あぼーんって奴である。

 魂が半分飛び出てしまったようで、自分の顔を外から見る。

 あ、これは確かに愚者の顔してるわ。



 ――300くらい数えてから外に出てみるとウラーナは既に着替えて鍋を食べ始めていた。

 フルプレートメイルを脱いだ彼女は髪をクルクルシュっと纏めてうなじを出したアップスタイルの美人さんであった。

 髪の色は、ケオーネラビリンスを出た時にみたのと同じ天色だ。

 ラーラレーアがイメージを焦げ付くほど焼き付けてきたが、わたしの主観ではそれしか表現ができなかった。

 またラーラレーアさん曰く、顔は酢顔で透明感があり女子受けしそうとの事です。

 

「あ、これ酢と”素”で掛けてあるね! わたし気付いちゃった!」

〈まっこと愚かな〉


 体型はシュッ、スラッとしたスレンダーな感じ。

 騎士をしているためか引き締まった腹筋にぐっとくる男性陣は多いのではないかというのはラーラレーアさんの言である。


 しかしあのフルプレートメイルを着てこの体型の人が動けるだろうか?

 あの鎧の中に秘密があるに違いない。

 そう思って干してあるフルプレートメイルの中を見ようとするとウラーナが行く手を遮る。


「これより先は乙女の領域です。絶対覗いてはなりません。覗けば私を娶っていただくほか無くなってしまいます」


 素は見られてもいいのに外装の内は見せられぬとはこれ如何に?

 とは思いつつもわたしは紳士なので諦めた。


〈まっこと愚か。鎧の中の汗の臭いを嗅がれるなど嫌に決まっているじゃないですか〉


 いや、臭いを嗅ぐつもりはさらさらないけれどさ。

 こういうのが解らないわたしは結局、男性側なのだろう。

 うん。わたしもう男性でいいや。

 乙女は理解不能。ラーラレーアに任せます。



 そんなこんなでウラーナに幌ソリで仮眠をとって貰って(わたしは気絶してたし問題無いから断った)出発だ。

 っとその前に。

 泉を隠すようにある岩の前に立ちぱーんち!

 ボゴン! という音を立てて岩の一部砕けて割れる。

 それをさらに人の頭くらいの大きさになるよう整える。を繰り返す。

 よしよし、これでよい。

 

 これらを箱に入れ幌ソリの骨組みに設置すれば完了だ。


 いちいち数多い敵を相手にするのは面倒で飽きるので「元を絶て作戦」を実行だ。


「せい」

 ピュン! ドォォォン!



「とうりゃ」

 ピュン! ドォォォン!



「よいしょおぉ」

 ピュン! ドォォォン!



 蟻や蜂が出てこない遠距離から蟻塚や蜂巣を砲撃していく。

 

「はい蟻塚見えました。岩用意。セット、レディ、ゴー! そいやさぁ!」


 ピュン! ドォォォン!


 岩を両手で持ちスローイングの要領で砲弾を投げ出す。

 その際に活躍するのは球体関節の魔力噴射機能である。

 腰、胸、背中、肩、肘、手首、指の各関節から流れるように、円運動を直線運動に換えて背中に構えた岩を打ち出せばあら不思議。

 直径30mはあろうかという蟻塚も途中からポッキリ折って崩しちゃう威力が出せます。

 ついでに魔力回生機能で球体関節を保護しながら消費した魔力の余剰分が戻ってきてウマウマだ。

 

 崩れた巣穴からモンスターが出てくるまで間にシュバルツバルドクルーゼンと幌ソリはスィィィィと過ぎ去っていく。


「アハ、アハハハハ。えぐいですねぇ‥‥‥」


 結局このサンドアントやサンドビーのエリアは2000も数える間には通過できたのであった。



 ピロン♪

 :金満ゴーレムのオーリオールは「蟻塚の破壊者」の称号を手に入れた。:

 ピロン♪

 :金満ゴーレムのオーリオールは「蜂巣の破壊者」の称号を手に入れた。:

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