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007:金満ゴーレムは「絶望」した。:

 わたしは見てしまった。

 奴を。

 「絶望」という名が相応しいあいつを‥‥‥。

 見てしまったのだ。あの黒光した深淵に通じる目を。死神の鎌のようなあのピョンピョンを!

 聞いてしまったのだ。あの恐怖を体現したかのようなシャカシャカ音を!

 嗅いでしまったのだ。あのなんとも言えない酸っぱい感じの臭いを!


「アッハ~アッハッハ~! この「シュバルツバルドクルーゼン」に掛かれば奴等など塵芥なのです! ヒャッハーッ!」


 グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ


 ヒ、ヒィィィィィィィィィ!

 や、奴等の潰れる音が!?

 これが「絶望」。「絶望」だ。神は死んだ、ここには「絶望」しかない!

 ラ、ラーラレーア、どうしよう怖い、怖いよ! ラーラレーア?

 どうした!? なぜ応答しない! なぜだラーラレーアァァァ!!


 ――――ピーこの回線は使われておりません。発信音の後に――――


 と、閉じやがった!? 思考を閉じやがったなラーラレーアの奴!?


「あ~、心配して損しました。 勇者リュウセー様が「絶望」しかないとか言うから全くどんな場所かと身構えておりましたが、プスー。とんだ御冗談に引っ掛かってしまったようです。センス抜群でありますね!」


 グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ


 行きは全く気配を感じなかったんだ。

 恐ろしい。

 来なきゃ良かったこんなところ。

 奴等まじで、わたしはおろかラーラレーアにまで察知されないとかなんて能力なんだ。

 無理だ。あんな奴等に人類が勝てるわけない。

 奴等の潜伏している箇所を鼻歌混りで歩いていたなんてわたしはなんて愚かだったんだ。

 頭のネジが吹っ飛んでいたとしか思えない。

 

 そ、そうか。何も感じ無くなればいいんだ。

 心頭滅却すれば火もまた涼しってラーラレーアも言ってたじゃないか! 


 くっ、しかしこんな状況で落ち着いて瞑想なんかしてられるか!

 いや、出来る出来無いじゃない! やるんだ!

 出来る! わたしなら出来る!

 せい! 「瞑想」!!!


 ピチャ。


 ん? 何かネチョっとしたのが頬に掛かったような?

 は!? い、いやだ見たくない、きっとこれはあれだ!

 目を開けさせようとする奴等の罠だ。

 いや、夢。そう夢なんだよ!

 こんな所にいる事は夢だ。夢の中だ。今のわたしはきっとあの宝箱のあったあの部屋で夢を見ているに違いない。

 そうだよあの宝箱から出てきた煙。あれで昏睡してしまったんだ。

 そう絶望なんて無かった。

 ふう良かった。


 ユサユサユサ


 ちょっと寝すぎちゃったのかな。

 誰かに揺すられてる。

 そろそろ起きないとなのか。

 じゃあスッキリ起きてあの勇者リュウセー君を迎え撃たなきゃね。

 

「ふぁー、良く寝た。おはよう」 


「あ、おはようございます。オーリオール殿。幌ソリから落ちてくるとは思いませんでしたよ? 寝てしまうほどお暇でございましたか? ああ、いえ文句を言っているのではありません。豪胆だなと感心していたのです」


 目をパチリと開けるとそこには推定ニッコリした笑顔で見てくるウラーナの顔があった。

 幌ソリから落ちたわたしを抱きとめていたらしい。

 そして理解はしたく無いが「絶望」は続いていた。


 グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ


 ペチャ。

 

「おうのう」


 ガク。

 再びわたしの頬に付いた何かに拠ってわたしは運良く気絶する事が出来た。


 ――

 ――――

 ――――――設定距離の移動を確認。再起動処理終了。「ハロー、ワールド」――――――


〈ん? 何を気絶しているのですかオーリオール起きてください〉


 バチン!?


 何かが頭の中で弾けるようにしてわたしを強制的に目覚めさせる。

 い、嫌だ。目覚めたくない。

 


〈大丈夫です。ここは出口よりおよそ28km。階層でいうと3層。サンドアントやサンドビーが居た所です。奴等は見えません。姿の他、臭い、糞、振動に至る最大限の警戒を行いましたが在りませんでしたよ〉


 え!? 本当? 嘘だったら「おまえのかーちゃんでーべそっ!」って言うからな?


〈それだったら針千本飲ますかと思いますが? 本当ですよ。奴等が居る所では即再起動処理する設定ですから〉


 やっぱり自分からシャットダウンしてたんじゃねーか!? 卑怯者! 少しは労え!


〈ふん。なんと言われようと結構です。ヨクガンバリマシタネーホメテアゲマスヨシヨシ〉


 こ、こいつ!


「あ、あの、大丈夫ですか? オーリオール殿もやはりあそこは苦手だったのでしょうか? 気が付かず申し訳ございません」

 

 推定心配顔でわたしの顔を覗き込み、頬を拭ってくれたのだろうハンカチを握っているのはウラーナであった。

 ええ娘や!

 この娘だけは守る!

 何があってもわたしが守っちゃる!


〈あーこれがNTRですかー。切なー〉


「だ、大丈夫。情けない所見せちゃったね? 頬拭ってくれてありがとう」

「いえ、オーリオール殿の綺麗なお顔に触れていいのか迷ったものの、気絶する程お嫌いなものをお顔に付けたままにするなど出来なかっただけでございます。むしろ役得でした。鼻血が出そうです」


 助けてくれない身内より助けてくれる他人様である。

 なんか腐臭を感じなくも無いが絶対こっちの方がマシである。

 いやむしろ「あれ」と果敢に戦ってくれる頼れるなんて最高。

 最高の主人公様である。


「ところでここはどのあたりだろう?」

「メーターを見るに大体出口から28kmといった所です。サンドクローチがいなくなって遠目に蟻塚が見えましたので、向こうに入る前にキャンプをと思い止まりました」


 答えは分っていたがあえて確認しておく。

 ウラーナが腕に付けた物体――時計というらしい――を見て意見を補強する。


「ここまで想定よりかなり早くこれたのですが攻略開始から3時間、ええっと10000を数えたくらいです。ここから先は用も足せないほど短い間隔でモンスターがやってくると聞いております。オーリオール殿は慣れていて平気でしょうが情けない事にわたしの体力と魔力が持たない為、一度ここでキャンプを張らせていただきたいのです」


「うん。救援者が体力万全で無いと二重遭難したら目も当てられないしね。わたしも賛成だよ」


〈そういえばこの辺りに岩場と泉がありましたね〉


 ああ、あったね。そういえば。


「このあたりにキャンプしやすそうな岩場と泉があったっけ」


 さも自分が思い付いた風に言ってみた。


〈――これが捕らえた魚に水はやらないって事ですか〉


 ありがとぉラーラレーア! いつも感謝しております!

 あ、危ない。また離婚、慰謝料騒ぎに発展する所だ。


「それは嬉しいですね。ソリの中に水樽もありますが水は貴重ですから」

「もしかしたら勇者達が作ったのかもしれないね。ちょっと不自然だったし」

「それは有り得ますね。王国から優秀な魔道士が派遣されたとも聞いてますし」


 などと会話しながら辺りを探索するとやはりあった。

 岩が蟻塚から泉を隠すように列柱している。

 そんな場所だ。

 

 泉のすぐそばにバイクとソリを駐めるとウラーナはソリの中から四角い箱を持ってきた。

 四角い箱は「コンロ」というそう。

 前面にあるボタンに少量の魔力を通すと上面から炎が出る仕組みの調理用具とのことだ。

 焚き火と違い煙がほとんど出ないので敵に察知されづらいのだという。


 すごい!


 コンロの設置が終わると今度はソリの中から食材を持ってきた。

 ダンジョンの中は日射が無いとはいえ、カラッとした暑さがあるのに、ウラーナが持ってきた食材は少しひんやりしている。ソリの中には冷蔵庫という食料を冷たく保存しておける箱やクーラーという幌の中を冷やしておける箱もあるらしい。

 いや、すごいな人族!

 特にクーラーいいな。

 わたし熱さは全然平気なんだけれど暑さにはちょっと弱いみたいだし。

 なんとかわたしにも作ってはもらえないだろうか?

 

 羨ましそうに見ているわたしに気が付いたのだろうか。

 

「私の相棒シュバルツバルドクルーゼンやこの腕時計なども全て勇者リュウセ―様のギフト『書斎』より齎された異世界の技術、知識より作られているそうですよ」


 と、ウラーナは気前よく教えてくれる。


「――この他にも本を大量に印刷する活版印刷や湯に浸かって体を癒す湯場など、他国には無い便利な道具がたくさん在ります。どうです? オーリオール殿。興味があるなら一緒に来てみますか?」


「う、うん。是非見てみたいな。ウラーナの国。面白そう」


 すっかりわたしは異世界の技術、知識に魅了されてしまうのだった。


〈予想はできていましたが、あの勇者リュウセーとやらはやはり異世界人でしたか〉


ピロン♪

:金満ゴーレムのオーリオ―ルは「魅了」された。:


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