006:金満ゴーレムはダンジョン「ケオーネラビリンス」の攻略を開始した。:
ダンジョン「ケオーネラビリンス」の泉までは50kmほどの道のりだ。
気軽に外に行こうと考えて、実際出てきた訳だがその道のりは結構遠かった。
途中ちょいちょい諦めようと思った事もあるのだけれど、泉からずっと尖頭交差ヴォールト状の天井が続いていたのでなんとなく止め時が無かったというかね。
とにかく50kmだ。
どれだけ長大な建築物だというのか。
〈正確には気が付かないくらいの勾配とカーブが付いており螺旋状に降りていく形状の直径4kmほどの多層構造の地下建築物ですね〉
「はぁ、さいですか」
「はいっ! ですから私の「シュバルツバルドクルーゼン」であれば勇者様達の所に行けさえすれば安心快適にお連れすることが可能になるわけですはいーっ!」
適当にラーラレーアの発言に相槌を打ったら、どっかのやすい子みたいなノリが返ってきた。
返してきたのは先ほど仲間になったウラーナ・エーマラマちゃん。
フルプレートメイルを纏い顔すら出さない為、表情は見えないはずだが妙に推測しやすい(恐らく)バイク教を信仰しバイクに取り憑かれた女性である。
適当に相槌を打っていたら1000を数えても足りない程バイクについて語っていたので間違いなかろう。
空を存分に堪能できたよ。
まぁそんな彼女もようやく落ち着いたのか推測「まだ行かないの?」的な目でこちらを見つめてきた。
それはこっちのセリフ?だよ!?
しかし、誕生してからまだ日にちの浅いわたしではあるがスルー力については相当高いと自負している。
そんなの突っ込むわけないじゃん? まぁ結構鍛えられてるからね。何にとは言わないが。
〈そうやって嫁ディスするような姿勢が破滅を生み出すのですよ?〉
「え? え? え?」
〈離婚ということであれば慰謝料は何が良いですかねぇ? オリハルコンの指輪? 豪邸? あの凄そうな「シュバルツバルトクルーゼン」でも良いですよ?〉
「た、大変申し訳ございません。当方には資産と呼べるようなモノは何も持っておらず‥‥‥」
〈あんたのそのお綺麗な顔がありゃあすぐよ。さ、行こか〉
「ひぃ5910だ!?」
というお遊びを脳内で行っていたがなんとか表情には出さないようにしてウラーナに促す。
「じゃあとりあえず出発しようか」
「はい、ではいきます! 発進! 「シュバルツバルドクルーゼン」!!」
ブルルンとバイクから応答があり、タイヤが砂を蹴りこんでソリを牽いているのにスムーズに動き出す。
結構なトルクだ。さすがなんちゃらタイヤ仕様である。
ちなみにわたしはソリの幌の上で周囲を警戒できるよう座っている事にした。
スピードは結構早く、顔面を叩く風がふよふよスライムを顔に押し付けれらているような感じだ。
「アバッ、アバババババッ」
口を開くと勝手にアバアバ声が出てしまう。
だからどうしたという事も無いが、この調子であれば10000も数える頃には着くのじゃなかろうか?
わたし要る?
だが、難関はいきなりやってきた。
入口を入ってすぐは階段なのである。
蹴上30cm、踏み面40cmといった歩きであれば緩い勾配なのだが。
この幌ソリの上から望むと絶壁に見える。
「怖っわ! 怖いよウラーナさん!?」
こちらには応えずそのままの勢いで階段に突っ込むウラーナ。
「いやちょまて!?」
ドガガガガガガガガガというソリの振動により頭の魔力がブルンブルン暴れまわる。
口から飛び出そうだ。
「アガガガガガッ!?」
あまりの衝撃に声が出せない。
「アハっ! アハハハハッ!! やはり貴方すごいわシュバルツバルドクルーゼン!! 私たち風になれる!」
一方なんちゃらサスペンションのお陰なのかウラーナの方はほとんど頭が上下してない。
腰を上げた姿勢で膝で調整しているのもあると思うけれど。
そっち乗せてくれませんかね?
〈心頭滅却するのです〉
「あ、あがががが、し、心頭滅却とは?」
〈雑念を排して集中すれば火の中でも涼しく感じるという事らしいです。あ、ラーラレーア自体が雑念じゃね?って思いましたね。この際排しちゃおうって事ですか? はい離婚です慰謝料の追加請求です〉
「言ってねぇぇぇしぃぃぃぃぃぃ!?」
などとやっている内に上下差100m程ある階段を降りる事ができた。
わたしの三半規管はぶっ壊れました。あと慰謝料は資産が無いので払えません。離婚もしません。結婚してないし。
遊ばれたなんだと頭の中で喚いているのがいるがカットしております。
もう、なんていうかしんどい。
しかしウラーナ、ここから上がる事考えてるのかね?
さすがにこの勾配バイクやソリ上げるの無理じゃない?
「このシュバルツバルドクルーゼンのツインドライブのトルクであれば問題ございません!」
らしいです。シュバルツバルドクルーゼン先生が全てを解決してくれそうです。
やっぱりわたし要らなくね?
まぁいいか。
もう疲れたよ。
でもウラーナが言うには本当の難関はここかららしい。
出口に向かって行く時にはこちらを見てくるだけで何もしてこなかったモンスター達が襲い掛かってきたのだ。
「ここのモンスター達の特徴なのですが攻略しようと思って進むと襲ってくるのですが、攻略を諦めてここで得た全てを捨てて帰ろうとすると襲ってこなくなるのです。ただ攻撃してしまったり、宝箱の中身等を持っていると何故か察知してきて襲われます。まぁそんなことは泉まで行ってらっしゃるオーリオール殿には既知の事でしょうが」
はい。知りませんでした。
やっぱりあの霊銀鉱捨ててきて正解だったんだね。
ただね――
「ひょあぁぁぁぁぁぁ!?」
「せい」
ドカーン!
「みゃぁぁぁぁぁぁ!?」
「とうりゃ」
ドカーン!
「うっひょぉぉぉ!?」
「よいしょおぉ」
ドカーン!
うん。わたし思っていたより強いらしい。
ここにいるのは出口に近いからだと思うけれどたぶん泉の方にいたモンスターに比べて弱い。
ゴーレムでも無い。
ゆえに適当に殴っているだけで大体一撃でぶっ飛んでいきます。
ぬるいね。
なんちゃら騎士団の騎士であるウラーナの妙な悲鳴を聞いて幌ソリからぴょんと飛び降りぱーんち!で終わりである。
殺しちゃうのは悪い気がするのでぶっ飛ばすだけだけれど。
ここのモンスター達は砂漠に住む虫が魔力を蓄えてか大型化したものが多い。
種類としてはサンドワーム、サンドスパイダー、サンドスコーピオン、サンドマンティス等といった所だ。
「す、凄まじい。ここのモンスターは1体でも精鋭騎士が小隊を組んで討伐するくらいなのに。オーリオール殿、貴方一体何者ですか‥‥‥」
とは最初にサンドワームをぶっ飛ばした際のウラーナの言である。
え? よくそれで怪しい奴1人をお供に救出に行こうと考えたねウラーナさん。とな?
わたしもそう思った。だから聞いた。そしたら彼女こう言ったよ。
「顔ですね! 顔を見て『あ、この人なら大丈夫』と直感しました!」
HAHAHA! 笑っちゃうだろ? ファニー、フフン? って奴である。
思わずこう返したね。
「ユーアークレイジー! ハハハハ、ハ‥‥‥?」
きょとんとした彼女の顔が印象的であった。
〈唐突な言動、情動の変化はキモイですよ?〉
「げふっっっっ!」
ウラーナの推定円らな瞳とラーラレーアさんの言葉がわたしの肝臓に突き刺さる。
砲弾が当たったかのような一撃にもはや肝臓はボロ雑巾である。
肝臓無いけれど。
え? あるの?
どうでもいいか。
フィィィィィンとバイクはサクサク進む。ときどき止まってはパーンチを繰り返す。
ラーラレーアの言葉が正しくこのダンジョンが外周直径4kmの螺旋だとして1層分、およそ13kmを進むとウラーナが声を掛けてきた。
「恐らくこの辺からが本当に本当の難関となります! 勇者リュウセー様が最も「絶望」したと言っておられました場所になりますゆえ!」
はぁ、あとどれだけ「本当」が続くのだかね?
「あ! 見てください、オーリオール殿! あれが「絶望」です!」
あぁはん? どれどれ、え?
ピロン♪
:金満ゴーレムのオーリオールは「絶望」を見た。: