005:金満ゴーレムは天色を見つめた。:
「空ひっろっ!? 青っっお!?」
〈これはまた見事な天色の空ですね〉
初めて見た空はとんでもなく綺麗だった。
スカァァァと晴れ渡っていて、どこからともなく燦々と音が降っている。
青い空がジリジリとわたしの肌を刺すが、どこか安心するような良い匂いがする。
心が吸い込まれるんじゃないかって思ってしまうような空。
思わず口がぱかーんと開いて勝手に言葉が飛び出てしまっていた。
こんな綺麗なもの見たら仕様がないよね?
視線をまた少し上げると白金に光り輝く丸い玉が空に浮かんでいた。
「あれは何? あれ? い、痛ぁ! め、目が焼けるっ!?」
〈太陽は直接見ちゃいけませんよ?〉
「遅いよ!? もうすでに前が真っ白で見えません! やばくないこれ!?」
〈大丈夫ですよ。すぐ戻ります。それより、そういう時はこう言うのです。――目がぁぁ、目がぁぁぁっ、あぁあぁぁぁぁっ! と〉
「なんだかすごく迫真に迫っているけれどその声のアップダウンはなんだろね!?」
あ、直った。
目をゴシゴシ擦っているとなんとか目が見えるようになった。
あれは危険だ。二度とやめておこう。
とりあえず周りはどうなってるかな?
「一面の砂漠か。果てが見えないや」
見渡す限り、砂、砂、砂であった。
後ろの出口(今は入口と言った方がいいか?)を見るとそこは立派な神殿のような巨大な建物が建っていた。
〈前門は尖頭連続アーチドーム。イーワーンを想起させるますね。植物紋様の精緻な彫刻がとても綺麗です〉
「あれ? あそこ、文字が書かれていないかい?」
綺麗な尖頭アーチの前門を支える柱と柱の空間に光で編まれているような文字が宙に浮いていた。
厳かな雰囲気がヒシヒシとするような圧迫感を感じる文字のような気がする。
なんて書いてあるんだろう? ごくり。
〈最凶最悪絶対無敵勇者絶対滅殺ダンジョン『ケオーネラビリンス』と書いてありますね〉
「う、うーん、なんて回答したらいいかわからいけれど、とてもなんていうかそこはかとなく青臭いような酸っぱい感じが口の中に広がりました」
あの厳かな雰囲気の文字にしては不釣り合いなあんまりな名称に思わず食レポってしまった。
いや、本当まじであれを平然と書いておけるのか?
「ん? 今、微かに足下から怒気のようなモノが?」
〈オーリオ―ル。死ぬなら一人で死んでください〉
「な、何々? わたしまたなんかやっちゃいました?」
〈いや、それは使用方法が違います。とりあえずそれはいいから!〉
「だって絶対を2回使うとかもうさ、あた――」
〈シャァラァーーーップ! だまれ! 口を閉じろ!〉
な、なんだっていうんだ。
ラーラレーアが何故荒ぶってらっしゃるのか意味がわからず困惑していたその時。
いつの間に近づいてきていたのか、何かがわたしの背に声を掛けてきた。
「あの、もしかして勇者リュウセ-様のお仲間でございますか?」
「ん?」
わたしが振り向くとそこにはこの砂漠には不釣り合いなほどゴテゴテのフルプレートメイルを身に着けた人型。
――推定人族が立っていた。
「いや、違いますけど?」
人族は恐らくわたしがゴーレムだと気が付いてないのだろう。
まぁ向こうの方も顔も見えない全身フルプレートメイルだから、自分と同類だとでも思って気が付かないって事もあるよね?
あるよね?
〈1か0かで言ったら1で「あり得る」とは思いますが、1から9段階で言ったら9「無い」と思いますが〉
「では、あなたもこの最凶最悪絶対無敵勇者絶対滅殺ダンジョン『ケオーネラビリンス』の攻略目的者なんですか?」
はい、1「ある」勝ち取りました!
いや、しかしさらっと最強無敵なんちゃらを言い切るのはある意味すごいね。
ま、そんなのおくびに出さず聞きますけどね?
あなた「も」とかあからさまに聞いてくださいな雰囲気でてますし?
わたし、空気ちゃんと読んでますよ。
「あ、そうですね。大体似たようなものかと。あなたもですか?」
「いえ、私は勇者リュウセー様のバックアップを命じられた、何かあった時の救出や万が一の装備の回収係といいますか‥‥‥」
「あー、じゃあ早めに救出に向かってあげた方がいいかも知れませんね。奥の泉でそのリュウセーという勇者?様が謎の魔法陣の中に入っていったのは見たので」
「えっ!? あなた泉まで行けるんですか!? ソロで!?」
「え、ええ。そちらから出てきたくらいですし」
わたしを襲うモンスターもいなかったしね?
本来あそこまで行くのは厳しいのだろうか?
「であれば、お願いがあります。私を泉の所まで連れて行ってはいただけませんか? 勇者リュウセー様を救援に行きたいのは山々ですが、私一人ではあんな所までとても行けませんので!」
突然フルプレートごとズシャァッと砂に突っ伏して五体投地気味で這いつくばりそんなお願いをされる。
ちょっと怖い。いきなりここまで詰められるのは恐怖である。
「いや、まぁいいですけど。わたしの事怪しくないんですか? ソロで泉まで行ける証明など何もないのですよ?」
思わず聞いてしまった。
「よし! 言質とりました! ぜひお願いいたします!!」
ガバリと顔を上げパラパラと兜についた砂が落ちる中、推定笑顔でそんな事を言うフルプレート。
おい怪しさ無視かよ? 大丈夫? 目で訴えかけてみる。
すると、こちらの困惑顔を汲み取ってくれたのかフルプレートは推定口角泡を飛ばして屹然と答えた。
「あなたのそのキラキラと輝く金色の分厚い鎧! 細身なれど滲み出る強者の武の気配! この場においてまるで気負いのない姿勢! お砂糖のような甘いマスクに妖しい魅惑的な金色の瞳を持つそのお顔! どれをとっても一級品のあなたを見ればその可能性は十分かと!」
推定キラキラした瞳でそう宣うフルプレート。
おおう、ちゃんと考えていたのね?
そして怪しさは否定しないと?
え? 「怪しい」じゃなく「妖しい」だったと?
いや、顔関係なくね?
無いよね?
〈この人族わかっていますね。いいでしょう。連れて行ってあげましょう。オーリオール〉
とラーラレーアさんまで何故か乗り気である。
何か共感性を刺激されちゃったのかもしれません。
知らんけど。
「あ、ああ。じゃあよろしくね。わたしはオーリオール。あなたは?」
「はいっ! 私はラーハーイ王国第5騎士団「黒鋼」所属の騎士ウラーナ・エーマラマであります! 気軽にウラーナとお呼びください!」
「お呼びください」でサラっと綺麗なカーテシーを行う、ウラーナ。
お、おお、なんかカッコイイ。
後で教えてもらえないだろうか?
え? 性別? カーテシーは女性の挨拶なの?
ううん、わたしはどっちなんだろうね?
あ、ウラーナさんの方? 多分女性でしょ? 声高いし。
ちなみに裏でラーラレーアが超色々カーテシーの何たるかを説明しているんだけれど良く分からなくってさ。
そこは省いてますのでご承知ください。
「ああ、ではよろしく。ウラーナ。――早速行きますか?」
「はいっ! あ、いえ! では少々お待ちください! 私の相棒を連れて参ります!」
そう言ってバビューンという効果音を鳴らしながら建物の隅へ走っていくウラーナ。
バヒューンって音するんだね?
「あれ? 一人って言ってなかったっけ?」
というわたしの疑問はすぐに解消された。
砂の上をスルスルと滑る大型のソリとそれを牽く車輪が前後に二つ付いた黒鉄の塊にウラーナが跨って来たからだ。
〈は? バイク??〉
「ん? バイクって何?」
「おや、バイクを知っておりましたか? 確かにこれはすでにラーハーイ王国では商人も手に入れている者もおりますので隣国にもすでに知っているところはあるでしょうが、流石ですな」
推定ニヤリと笑いながらウラーナがポンとバイクに手を置く。
「しかし私の相棒。この『シュヴァルツバルドクルーゼン』はそんじょそこらのバイクとは一線を画すナイスガイであります。なんと言ってもこいつの足元は我が父の開発したダブルゼクトタイヤに相性抜群のスーパーミスリルホイールと魔鋼バネを仕込んだサスペンションに魔圧式超強化ダンパーを備え驚くほどの操作性とグリップに衝撃吸収性能を発揮し、さらにさらにこいつの心臓にはツインドライブエンジンに6速トランスミッションを―――」
めちゃめちゃ早口でわけのわからない事をしゃべっているウラーナ。
あーこれ止まらない奴だ。勇者リュウセー君はいいのかな?
なんかちょいちょいここのダンジョン前説名称みたいな臭いがするのだけはわかった。
とりあえず句読点がありそうな所で適当にうんうん頷いておくことにする。
この点は結構鍛えられたからね。
まだ行かなそうだなとか思ってまた空を見上げてみる。
うん。これは綺麗な天色だ。
ピロン♪
:金満ゴーレムのオーリオールは人族のウラーナ・エーマラマとパーティを組んだ。: