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003:金満ゴーレムは人族を発見した。:

 わたしは金満ゴーレムのオーリオールだ。

 わたしの知識たる相棒の名はラーラレーアという。

 少し天然な所があるお茶目でちょっぴり腹黒さが垣間見える愉しい奴だ。


〈キモ〉


「そ、そういう言葉、本当に心にグサッとくるんだからね!」


 知識のはずなのに最早わたしの中のもう一人の住人となっているラーラレーアにキモい認定されるのは心外だ。

 ラーラレーアに抗議をしつつわたしは今階段を昇っている。

 いまだ人族の影も形も見えない。

 人族が逃げていったこの道はずっと1本道だった。

 途中にあった開口は全て中を覗いてきたからすれ違ってはいないと思う。

 もちろん全部の部屋を隅々まで探した訳では無いし、隠し部屋等があればその限りでは無いけれど。


 あ、隠し部屋って言えば。


「ねぇ、ラーラレーア。わたしがいた部屋は隠し部屋だったのかな?」


〈ご自分を特別視したいお年頃って奴ですかぁ?〉


「いや、ちがうし!? 宝箱ある部屋はあそこだけだったからさ!」


〈その早口が余計怪しさ加速してますよぉ?〉


 うざ!? なんかうざキャラになってない?

 ラーラレーアの方がなにやら病を患っている気がする。ある時期特有の奴。


〈キモ〉


「キモって言っておけば優位性を保てると思ったら大間違いなんだからな!」


〈とはいえ実際ちょっと特殊であるのは確かです。今はそれでいいでしょう?〉


「すごいぶった切りなんだけれど!?」


〈(チッ、早く進めよ)〉


なんか舌打ちされて有無を言わさず進行を促されている気がするのだけれど、ぐっと堪えて。疑問点を明らかにしておこう。


「最初は何もなかった部屋にわたしが出て戻ったら宝箱がある。これは不可解じゃないかい? ラーラレーア」



〈アーハイハイ。ワトソン君? 今泉君? おっちゃん?〉


「いやなに? ワトソン君? おっちゃん???」


〈ひとつひとつボケどころを用意しないでいただけます?〉


「用意して無いよ!? どこに掛かってるのかもわかってないよ!?」


 心外だ。どういう事か聞きただしてやろう。


〈不可解か不可解で無いかと言えば決して不可解では無いと思いますが〉



 キリキリキリ。

 おかしいな?なんか奥歯がキリキリ鳴っている。

 あごが痛い気がするが無視して進めよう。



「その心は?」


〈あそこまで他種族が侵入してきたのは初めての事だと「星の核」は言っていたそうです〉



「はい? 星の核? 誰?」



〈はい。「星の核」からの要請だと「源流」からの情報を得ています。オーリオールを緊急にレベルアップさせたのも「星の核」の要請のようですね〉


「は、はぁ? ちょっと話が飛躍し過ぎててわけわからないんだけれど。」


 いや、重要そうな事項をいきなりぶっこまないでいただけますかね?


〈まぁこれ以上は裁量権を超えちゃうのでテヘペロで許してください。テヘペロ〉


「ラーラレーアさん、ちょいまって。もう少しわかりやすく‥‥‥」


〈テヘペロだって言ってるじゃないですか、おわり。ごーごーごー〉




 なんとも強引に話を終わらせられた。

 仕方がないか。

 裁量権とか言ってたのでラーラレーアは何かに縛られているのかもしれない。

 それを超えちゃって罰があったりしたら可哀想だ。

 いま聞かせる話じゃないって事だろうし、この話はここまでにしておこうか。



 わたしが蹴上20cm、踏面30cmの比較的緩い勾配の階段を昇って踊り場に出ると、向こう側が見えた。


「ふわぁ、たかぁ」


 開口をくぐった先は今までと雰囲気ががらりと変わっていた。


〈高さは20メートルと言ったところでしょうか〉


 さっきまでと比べるとかなり広い空間になっている。

 左右を見ても壁が見えない。

 いきなり広い空間に出たためすこし薄ら寒い感じがした。

 目を細めて先を見つめると天井を支える太い柱が等間隔に立っているのが見える。

 ずっと遠くまでそれが続いているので先がどのくらいあるのかさっぱりわからない。


 また床や壁の素材も変わっていた。

 さっきいた階は壁は煉瓦で床は砂で覆われた空間だったが、ここは岩と砂の空間だ。

 床が砂で覆われてるのは一緒だが、その砂の質と色が異なっている。

 ここの床は一面、粒度がものすごく細かい白い砂で覆われていた。

 しかもさっきまでは煉瓦の上に砂が薄く覆っていたのに対して、ここの砂の層はものすごく厚い。

 厚い上に粒度が細かいのでジッとしているとそのまま埋まってしまいそうだ。


 柱は白く大きな岩が整然と積み上げられ天井に向かって緩やかにアーチを描き、やがて天井を支える梁になっていた。


〈尖頭交差アーチ・ヴォールトの連続空間。まるで神殿か教会のようですね〉


 とても綺麗な場所だ。真っ白な空間で静謐な空気に満たされている。

 ヴォールトとヴォールトで分割された空間に色ガラスが取り付けられ、様々な色が天井から降る様は、確かに荘厳とか神々しいとかそういう雰囲気を醸し出していた。

 なんというかラストダンジョン的な?


「あの天窓から光が見えるって事はあれの外は空があるのかな?」



〈いえ、あれはどうも色ガラスの外側になんらかの光源があるだけのようですね。ここはまだ地上とは言えないようです〉


「ふーん。偽物の空って事ね」


 しばらく偽物の空を下を進む。

 ザリザリと砂を踏みしめる音だけが響いてる。

 ふと気が付くと水の匂いがふわりと鼻孔を掠めた。

 近くに水場があるのだろうか?

 そこから少し進むとそこだけぽっかりと窪んで見下ろせる広い無柱の空間があった。

 天井はいくつものヴォールトが取り付いてリング状をなしていて、ひと際強い光をその下に降ろしていた。


「わー、すごーい。」


 見下ろすと光の下には青く輝く水を湛えた泉があった。

 まるで妖精でもでてきそうだ。

 特別な場所なのかな?


 

 ゴン―― ギィィン―――


 何かを打ち合うような音が、かすかに聞こえた。



「ん?」

〈泉の先に何かいますね〉


 さっきの人族かな?


「あれ? そういえばさっきのラーラレーアが言い方だと、もしかしてさっきの人族追い返すのわたしの役目?」

〈そういった役目を期待されていた節はありますね。オーダーはジェノサイドでしたが〉


「わぁお、苛烈ぅ」


 知らなければよかった。まぁ役目を知ってたところでジェノサイドしたとは思わないけれど。

 だからラーラレーアもわざわざ言わなかったのだろうしね。

 

 

 眉の上に手を翳してもっと遠くが見えるよう目を凝す。

 すると戦闘音と共に、徐々にこちらにやってきている集団が見えた。


「先頭にはさっきの人族が居るね」


〈人族は5名。後ろにはモンスターが20体ほどいるようです〉


 彼等は飛び降りるように窪みに降りて泉へ向かって走っている。

 目的地は泉なんだろうか?


 わたしは見つかったら不味いかと考えてしゃがみ込む。


 殿を務めているのはフサフサ毛の巨体で同様のフサフサした耳を持つ人型の獣だ。

 つまり獣人なのかな?

 わたしが見つめる先で殿を努めているその獣人が叫んだ。


「リュウセェェ、早く行って『あれ』開けやがれッにゃあぁぁぁ!」


 同時にその手に持った巨大なハンマーを振り回す。

 すると3体のモンスターがその攻撃で弾き飛ばされる。

 すごい膂力だ。


 さらにもう一人、とんがり帽子をかぶった如何にも魔術師風のローブを羽織った人族がロッドを突き出し魔法を放つ。


「『メーア、プーヒ、ポーメガラン・フーラ:火焔榴乱舞:』」


 瞬間いくつもの火の塊が生まれモンスターに激突するとドゴォーンという爆発音と共にまたモンスターを吹き飛ばす。

 すごい爆発で何体ものモンスターが吹き飛んでいった。


 その隙にリュウセ? リュウセーか?

 リュウセーと呼ばれたさっきの人族が更に速度を上げて泉に駆けていく。

 また残り二人の人族もそれに追随する。


「‥‥‥にゃあって。」


 巨体の獣人から聞こえた野太い「にゃあ」の衝撃に意識が持っていかれたが、何かをするのはきっとリュウセーと呼ばれた人族の方だ。

 今度はちゃんとリュウセーに注視しよう。


 するとリュウセーは泉の元へ辿り着き手を突き出して呪文を唱えていた。


「『今あるままの姿を書き留めよ。:セーブ:』」


 そうリュウセーが呪を唱えるとリュウセーから魔力の塊が飛び出た。

 飛び出た魔力はピシリと形を整え立方体の魔法陣が浮かび上がらせる。

 更にリュウセーから追加の魔力が浮かびだし、魔法陣に吸い込まれた。

 吸い込まれた魔力が立方体の魔法陣の表面を這うと、表面に変化が現れる。

 魔法陣に浮かび上がっていた文字が消えたり、また新たな文字が浮かび上がりと高速でガリガリと魔法陣を書き換えているようだ。

 100を数えるほどの間それが続くと、書き換えが終了したのかプシューという音と共にリュウセーの目の前の面が扉の絵柄に変わる。

リュウセーはその扉の絵柄に手を添えてさらに呪文を唱える。


「『開け。:『書斎』:』」


 魔力が手をつたって移動して扉の絵柄が泉の色とよく似た水色の開口に変わる。

 リュウセーはそこにチャプと半身をいれると二人の人族の手を取り水色の開口の中へ入れていく。

 二人の人族は水の中に入るようにトプンと波紋を残しながら水色の開口に吸い込まれていった。


「もういいぞ! プルトン! アルトアレル!」


リュウセーの叫びに二人が応え、ひと際大きな攻撃でモンスターを蹴散らすと泉に向かって駆け出した。


「たぁすかったにゃぁぁ!」

「ふぅ」


 二人が無事に泉の元へたどり着くとリュウセーは二人の手を取り一気に引き入れた。

 全員を引き入れ終わったのを確認したリュウセーの半身も水色の開口の向こうに消えていく。


 そこへ後ろから追いついてきたモンスター達が水色の開口の向こうへ行かんとなだれ込む。

 ――グシャ、メキョッ、グシャ!

 水色の開口はまるで壁になったようにモンスター達の侵入を阻み、後ろからなだれ込んで来たモンスターに圧され前面にいたモンスターを轢き潰す。


 理解不能、不可解な出来事に言葉がでてこない。


〈ギフト‥‥‥〉


 ラーラレーアのそんな呟きが聞こえてきた。



 ピロン♪

 :金満ゴーレムのオーリオールは人族のリュウセーを取り逃がした。:

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