038:異世界勇者は:レプリカ:を使用した。:
俺の魔力が体から抜け出て空中に空色の魔法陣を描き出す。
その魔法陣はやがてバラバラと分解されて立体的な線を空中に引いていく。
線はバイクの部品一つ一つを丁寧に描いていき、バイクの心臓部たる魔力式エンジンが立体線で浮かび上がる。
魔力式エンジンの部品数はそれほど多くなく実に単純だ。
魔力を通すだけでミスリル棒を軸にモーメント力が発生する仕組みをタイヤに組み込んでいる。それだけだ。
そして線は次々とダンパーやタイヤ、サスペンションを描いていく。
完全にバイクとしての形が線で構成されると今度は線を起点にベタを塗るように面が作られていく。
そこまで行くとあっという間にバイクが姿を現した。
この辺もさっき空中に出た魔法陣と似ているな。
本当はこれをたくさん量産できればもっと多くの人間に使わせることも出来るんだがレプリカは3日毎に作れる数に制限がある。
部品数の多いバイクみたいなのは1体でカウントされず数十個の部品として扱われるようで、作れても3日に1体が限界なんだ。
まぁその辺の事情は誰にも話していない。
俺の弱みにも繋がるからな。
「ほらよ。バイクだ。分解したって何したって良いがすぐ次ぎは作らないからな。ちゃんとよく見て勉強するんだぞ」
一応そういっておく。
プルトンやアルトアレル、それにオーリオールには伝えても良いんだが長年のくせでつい隠してしまう。
こんな卑屈な野郎が勇者っていうんだから笑っちゃうよな?
それはまぁいい。
俺は今度こそこの天空城から出られる手段を見つけた。
マスドライバーだ。
飛空艇とマスドライバーであればきっと龍だろうがなんだろうが追いつけないスピードで切り抜けられるに違いない。
・・・・・・本当にそうだろうか?
相手は自由落下した飛空艇すら補足するんだろ?
自由落下ではいいとこ400km/hくらい。
風魔法の推力を追加したとして600km/hくらいだったはずだ。
マスドライバーを使ってどのくらいになるだろうか?
そもそも大気圏内の物の輸送に使う物だ。
音速を超えるとは考えづらい。
また初速は有利でもその後の風の抵抗でどんどんスピードは減速してしまうだろう。
であるならばだ。飛空艇をもっと速くできる発想は無いだろうか?
ジェットなんて俺も理屈を知らないし。これは無理。
以前にも考えたことがあるしな。
風魔法+プロペラなんてどうだ?
たしか向こうの世界のプロペラ機の最高時速は850km/hとか950km/hだったなんて言われていたはずだ。
風魔法でシールドや加速が出来る分こちらの世界の方が速くできるんじゃ無いか?
それにプロペラならバイクのエンジン機構を利用できるしな。
前は素材の都合でプロペラ機すら作れなかったが飛空艇の素材ならばこれも可能だろう。
いいぞ。これはいけるだろう。
俺達はまずは飛空艇の素材を探した。
それはすぐ発見できた。
鍛冶工房より奥にある扉を開けると感じとしては石切り場のような広い空間が広がっていた。
そしてアイアンゴーレム達が以前使ったと思わしき切り出し用の鋸が石に刺さっている状態で見つかった。
これで石が切れるのだろうか?
お、これサクサク切れる。
まるで発泡スチロールみたいな柔らかさだ。
おかしいな? アイアンゴーレム達が作った飛空艇はもっと鉄みたいな固さをしていた。
これはわからないな。
仕様が無い。アイアンゴーレム達に聞いてみるか。
すると答えは簡単だった。
この素材、20cmほどの厚さのものをハンマーで叩いて叩いて板状にするとある鉄のような固さを持つらしい。しかも可塑性に優れ、金属の延性を持ちつつ、熱を加えればFRPという強化プラスチックに近い硬質な剛性体となるため用途に拠って使い分けられる万能素材っぷりだ。
ファンタジーだな。
この性質を利用すれば以前アイアンゴーレム達が作った型に向かってハンマーで叩き込んでいくだけでドンドン部品を作ることが出来た。
図面も新たに引きなおした。
基幹は元の図面を維持しながら2基のプロペラを付けるための翼を設けることにした。
また思い切って風を受けていた3方向の帆を背びれと尾翼に集約することで丸い船体から平たい感じになった。
鯨からエイになったような感じだな。
名前は何が良いだろうな?
『ホゥエンツォレルヒンメル号』とでもしようか。
ふん、なかなか良い名前だと思わないか?
大体2週間くらいで完成することができた。
その間オーリオールも何度か来て出来上がっていくホゥエンツォレルヒンメル号を見て、感心したりニヤニヤしてたりした。
おい、その勝ち誇った顔は何だ。
またマスドライバーについてはまだ実験が終わっていないとのこと。
発動手段が解らないらしい。
俺のギフトの為、何度か実験に参加したがウンともスンとも言わなかった。
何か条件があるのだろうか?
マスドライバーは無くとも新型飛空艇は出来た。
飛行テストをしよう。
今回は雲海の中には絶対入らないことを誓わされる。
しかも破ったら罰が下るように、オーリオールが奴隷契約魔法から奴隷部分を取っ払った契約魔法を交わす羽目になった。
罰は『女の子になる』だそうだ。
いや、こぇぇよ。
何されるんだ。
大丈夫、俺は息子を守る! 必ずだ!
そうして俺は再び空へ飛んだ。
相変わらず眼下には積雲が見渡す限り広がっている。
因みにどこまで飛空艇で積雲の外に出ようとしても出れなかった。
気が付くと360°廻っていて天空城が見えてくるといった具合だ。
龍がそうしているのか天空城の仕様なのかはわからないが、なんか封印でもされている気分だ。
とある石で封印とかないと出られないとかそういうオチじゃ無いよな?
若干不安になる。
とりあえずまずはテストに集中しよう。
まずは水平飛行からだ。
飛空艇は板と板の間に魔力を流すとそれだけで浮くので意外と水平を保つのが難しい。
魔力を注ぎ続けるのは訳ないのだが、糸のように細い魔力を少しずつかつ途切れないように一定にだすのは集中力が必要だ。
ちなみに今はプロペラをまだ起動していない。
風魔法の力だけでどの程度速度が出るのかを試しているのだ。
結果は約350km/h。前の飛空艇では自由落下前に計測した所約400km/hだった。これは帆の面積が小さくなったことで結果的に遅くなったのだろう。
次にプロペラを起動してみる。
2基のプロペラが旋回を始め風を掴み出すと急激に速度が上がる。
その勢いはかなりの物だ。
「お、メッセージ。『速度650km/h』!? いいぞ。速度はまだまだ上げられる!」
まだまだ魔力を少し込めただけだ。
もっと魔力の回転を強めてみよう。
「ぐおぉ。Gがきつく。『850km/h』」
状態異常の回復薬が効くか?
ぎりっと奥歯を擦ると奥歯に仕込んだ状態回復薬が胃に落ちる。
バァっと若干体が光ると急に体が楽になる。
あ、効いた。
本当こういうとこファンタジーだよな。
Gはこれで大丈夫になったので少し調子に乗ってアクロバットも試してみる。
尾翼のラダーを倒してグルグルグル。
翼のエルロンを上げ下げしてグルグルグル。
うは、急激なストップ&ゴーで顔とかめっちゃ変形してるの分かる。
胸も圧迫されたりしてるけれど、状態回復薬が効いてるお陰か全く苦しくない。
不思議な感じだ。
っとぉ、やばいやばい。
調子に乗って雲海に近いところまで高度が下がってた。
少し高度をあげ――
「なっ!?」
高度を上げようとした所で前方に雲海の中から大きな塊が飛び出してきた。
咄嗟にエレベーターとフラップを操って急激なブレーキと共に強力な揚力を。更に機体にも魔力を大量に流し込み反重力も加えて機体を撥ね上げる。
躱し様に雲海から見えた物、それは怒りの形相で俺を睨む龍だった。
ピロン♪
:異世界勇者リュウセーは奇襲を受けた。:
ピロン♪
:異世界勇者リュウセーは戦闘を開始した。:




