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002:アイアンゴーレムは戦闘を開始した。:

 わたしはアイアンゴーレムのオーリオールだ。

 先ほど金満装甲(知識談)を身につけたので金満装甲ゴーレム、

 長いから金満ゴーレムと改名してもいいかも知れないね。


〈自らディスっていくスタイルですか。それは茨の道ですよ?〉


 となにか悲しみを込めて視線を送ってくる(気配を醸し出している)のはわたしの「知識」だ。

 わたし同様、大きな川のような流れからこぼれ落ちてきて、この金満ゴーレムの一部となった存在だ。

 わたしも知識もつい先ほど誕生したばかりなのだけれどいつの間にか気安い関係になっていた。

 少し説明不足気味だったり隠し事したり皮肉を言ったりするがなんとなく憎めない奴だ。


 あれ?


 いつの間にか知識を独立した人格のように扱っている事に気が付く。


 まぁこいつとのやり取りは愉しいしこの際だ、認めてしまおう。

 善は急げだ。知識に名前を付けよう。

 なぁ知識、ラーラレーアでどうだ?


〈‥‥‥悪くないですね。ラーラレーアはオーリオールと何時如何なる時も共に居る事を誓いましょう〉


 よろしく、ラーラレーア。



〈なんてやり取りしてる場合じゃないと思うのですが?〉



 そう、冒頭からここまで1を数えるほどの僅かな時間だが、実はわたし達は切羽詰まった状況だったのだ。


 なぜなら。



「うおおおぉぉぉぉ!」

 

 と叫んでこちらに向かってくる人族がすでに剣を振りかぶっていて、もうすぐ降り下ろすであろう距離まで来ていたからである。

 現実逃避していたともいう。

 うん、やばい。



「見敵必殺!」


 けんてきひっさつ?


〈見敵必殺と書くのでしょう〉


 おおお、物騒すぎじゃない?


 人族が剣を降り下ろす。

 その剣筋はわたしの首を一撃で刎ねようと弧を描いてしっかりと切り落とすように迫っていた。

 

〈だがしかしその剣は銅の剣であった〉


「いや先にネタバレするなし」



 パキィィーーーン! ―――ッキンッ!


 人族の剣は正確にわたしの首に当たったが、澄んだ音を立てて刎ねたのは銅の剣の方だったようだ。

 そりゃ鉄の方が堅いもの。残念だったね。


「バカな!?」


 人族は目を見開き口をあんぐりと開けた驚愕の表情で、刎ねられた剣先の行方を追っている。


〈隙だらけですね〉


「うんうん、隙だらけだね。掴みたい放題だ」


 ラーラレーアに言われるまでも無くわたしは隙だらけの人族の胸当てをむんずと掴む。

 胸当ても何らかの金属で出来ているのだが相当薄いのか簡単にクシャリと変形した。


 そのまま、わたしの体を軸にぐるりと回転し――


「とうりゃ」


 人族がやって来た方向に放り投げてやった。


 シュン!


 人族は風を切るような音と共に入り口を飛び越え10メートル程宙を舞ってから見事に顔から地面に突っ込んでいった。そのままズシャー、ゴロゴロゴロと転がっていく。


「‥‥‥あれ? ちょっと勢い良く投げすぎたかな?」


 初戦闘で加減がわからなかった為、適当に放り投げたのだが予想より大幅に飛んで行ってしまった。

 わたし、なかなか力が強いようだ。

 向こうもいきなりわたしを殺そうとしてきたし、因果応報という事でひとつ穏便に済ましていただけると有難い。


〈ナームー〉


「いやなに? ナームーて?」


 と問いかけてもラーラレーアは答えなかった。

 スルースキルがカンストしているようである。


「‥‥‥様子を見ようか」


 ゴロゴロと更に20メートル程転がった人族がそのままピクリともしないので本気で心配になってきた。

 いや本当に殺る気は無かったんです。


〈つもりは無くても殺人は殺人ですよ〉


「おうのう」


 わたしは絶望のあまり両膝から崩れ落ちこうべを垂れて、OTZの姿勢をとる。


「誕生間もないのに、わたしは罪を犯してしまいました。この上は一生牢獄で罪を償い懺悔して過ごす所存でございます。一生を共にすると誓ってくれたラーラレーアには不憫な思いをさせます。ラーラレーアのお父さん、お母さん。大変申し訳ございません」


〈そんな一人漫才はどうでもいいです〉


 切って捨てられたよ。


「仕方ない。頬っぺた叩けば目が覚めるかな?」


 しかし、わたしが近寄る前に目が覚めたのか人族はガバリと起き上がった。


〈チッ〉


 こら。舌打ちしないの。ダメだよそういうの。

 ファーストコンタクトはスレ違いにより悲しい結果となってしまったが、まだ挽回は可能なはずだ。

 近寄るわたしの気配に気が付いたのか人族がこちらを向いた。

 

 挨拶は基本だよね。手を上げてみる。


「すごい距離飛ばしちゃいましたけれど体、大丈夫でしたか?」


 しかし人族はこちらを確認すると顔を青ざめさせ「ヒィィィィ!?」と顔を悲鳴を上げて脱兎のごとく逃げて行ってしまった。

 逃げ足早いな。

 結局あの人族はなんだったのか。


〈折角の経験値が逃げてしまいましたね〉

「経験値って何?」

〈こういう世界設定だと経験値とか有りそうだと思いまして〉

「いまいちラーラレーアの言ってることがわたしにはわからないよ」


〈向こうもゴールデンメタル見っけとか思ったのかも知れませんね〉


 たまにわけのわからない事を仰るラーラレーアさんである。




「向こうの言葉はわかったし、もう少しお話できたら良かったのに」


 上げた手を空しく降ろす。


〈銅の剣の方が折れてはいましたが首は大丈夫ですか?〉

「ああ、そういえば確認してなかったね。」


 剣の当たったところを撫でてみるもツルっとしていて傷は確認できなかった。

 このアイアンボディは相当頑丈なようである。


「衝撃も大した事なかったし問題なさそうだ。」


 わたしは結構強いのかな?

 それともあの人族が大した事なかっただけか。


〈その油断が命取りとなったのです〉


「なった!? 結果!?」


〈案外ボケとツッコミを逆にしても行けそうですかね?〉


「いや、いつもボケてる訳では無いんだよ?」


 ガックリと首を垂れる。

 テンションの乱高下にちょっと疲れてきた。


「あの人族どこからやってきたのかな?」


 あの人族がわたし達のようにここで生まれた存在だとは思えない。

 きっとどこか別の所からやってきたのだろう。

 できればコミュニケーションが取りたかった。

 じゃあ投げるなよって話ではあるけれど。


〈ここはゴーレムが住まうダンジョンですからね。人族はダンジョンの外からやってきたのでしょう〉

「ダンジョンの外ね。じゃあもしかしてあの人族に着いていけば外の世界も見れるかな?」


 ここのダンジョンとやらのこともまだ全然分かってないけれど、ラーラレーアがちょっと前に見せてくれたスライムなんかも外にはいるんだよね?

 可能ならわたしは色々な物を見てみたい。

 外にも行けたら行きたいな。


「そういえばこの部屋と少し奥の部屋しか行ってなかったね」


 この部屋の宝箱は開けちゃったし、他ゴーレムの様子とか逃げていった人族の様子を見て回ってみようか。


「できればもう一度会って、今度こそ話ししてみよう」


 わたしは人族が逃げて行った方に歩き出した。

 


 コツコツと踵を響かせながら30m程通路を進むと左手側にわたしの居た部屋や3体のアイアンゴーレムの部屋と同じ開口があった。


「おっとここにも3体か」


 開口から部屋を覗いてみるとそこには先ほど会った「アルファ」「ベータ」「チャーリー」と顔タイプや体型や背格好もほぼ同じゴーレムが3体立っていた。

 さらに30メートル程歩いて、次の開口に。

 そこにもやはり3体同じようなゴーレムが立っている。

 さらに、さらに、さらにと開口毎に覗き込んでも3体1グループで部屋に佇んでいた。

 角も曲がりつつ、結局30程の開口を調べてみた。


「はい、ラーラレーア。結果発表。」


〈はい。アルファ型は全体的に芋顔。ベータ型は醤油顔。チャーリー型はソース顔でした。――この際、「芋」「醤油」「ソース」でもいいかも知れませんね?〉

「いやそれは最初に付けたアルファ、ベータ、チャーリーで良くなくない?」

〈いや、あえて「芋」「醤油」「ソース」とした方がより個性が際立つかと〉

「なぜ個性?」

〈他にもケチャップやマヨネーズ等の種類分けのラインナップもございますので是非に〉


 個性についての問い合わせは抹殺されてしまったようだ。


「ケチャップとかマヨネーズって?」

〈そういえば砂糖顔はオーリオール以外は見かけませんでしたね?〉


 わたしの疑問は無視かい!


「うん。2体とか、1体とか金満装甲のとかはいなかったね?」


 ここまでで見たタイプはわたしを別にすれば3タイプだけだった。

 わたしの部屋より奥も同じような感じなのだろうか?

 この通路がどのくらいあるのかわからないけれど、少なくとも合計100体以上はいるのは確認できた。

 この3タイプばかり何体もいるとするとちょっと不気味である。

 本当、ここのダンジョンには何体のゴーレムが住んでいるんだろうね?

 ラーラレーアからこの件に対しての回答は無かった。


 それでももう少し確かめてみようと歩き続けると――


「お? 階段だ」




ピロン♪

:金満ゴーレムのオーリオールは表層に移動した。:


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