021:鉄蜘蛛ゴーレムは勉強をした。:
〈これは知育パッドというもので異世界の文字や簡単な算術を学べる子供向けのツールです。電源も生きてるようでちゃんと使えそうですね。こうやってこのペンでタップするとアプリを起動できます〉
「ちょ、ちょ、ちょ。情報量が多い! ぱっど? つーる? でんげん? あぷり? というか異世界!?」
〈その辺はおいおい説明します。まずはやってみましょう。手も一緒に動かした方が効率がいいのでヘアー機能の一部を譲渡しましょう〉
ラーラレーアがそういうと、後ろ髪から一房の髪の毛がしゅるしゅると伸びて、くるくるとペンをつまむと器用に動く。
そしてその一房の髪にわたしの意思か神経か魔力かちょっと分からない「何か」が通り、手のような感覚で動かすことが出来るようになった。
あ、「何か」が通ったら髪の色が変わった。
金色だ。
因みに髪の元色は黒錆色。
その金色をした前髪を使ってくるりとペンを回す。
ふむ結構器用だ。いいね!
これなら文字を書いたりなど問題無さそうだ。
いいぜ! 異世界言語だろうがなんだろうが覚えてやろうじゃないか!
てい!
ペン先を知育パッドとやらの表面に押し付ける。
すると、黒かった表面にいくつかの箱が現れる。
箱には文字と何かの人物だろうか? 人を抽象化したような丸い顔が現れた。
あ、これスマホと一緒だ。
それならこの箱をタップすれば良さそうね。
「ポチっとな」
『◎△$♪×¥●&%#?!』
すると何やら声と一緒に動物だろうか?これも抽象化された動物のような物が映った。
例えば、ずんぐりした体型に黒と白。首と手足が異様に長い黄色と茶色。馬と思われるが白と黒のシマシマ。が映っている。
とりあえず、ずんぐりした体型に黒と白の動物を押してみる。
『♪×¥』
次に、首と手足が異様に長い黄色と茶色の動物を押す。
『〇△×』
馬を押すと『&%#&』と声がした。
ふむ、これがこの動物達の名前なのかな?
〈最初のは『パンダ』。『パ・ン・ダ』と読みます。本当であれば親の口を見せながらやると良いようなのですが。そうだイメージを付けますか〉
そういうとラーラレーアは口と声のイメージを瞼に焼き付けてくる。
おお、これは分かりやすい。
「ンパ、んう、だぁ?」
お、いい感じ?
「ぱ、ん、だ」
「ぱんだ」
〈おお素晴らしい! 『良く出来きまちた。いいこでしゅねー』〉
おう、後半何言ってるやら分らんが褒めてる感じで若干の悪意を感じるぞ?
まぁいいや。こういう感じで進めていけば良さそうね。
それからラーラレーアにイメージでも教わりながら繰り返していく。
動物のが終わると今度は食べ物や、シュバルツバルドクルーゼンのようなバイクなど色々なモノの名前を学ぶことが出来た。
次は『かず』らしい。
1つの『りんご』が表示される。タップすると『いち』と声がして棒が一本縦に引かれただけの絵が出てくる。
あ、ちょっと先端が曲がってる。
「これが1って事かな?」
次は2つだ。『に』。線がのたくったような文字が出てくる。これが2なのだろう。
そうやってまた数の文字を覚えていく。
10で繰り上がるのは異世界でも同じらしい。
これは覚えやすいね。
数の多さを比べるとかもあったがこれは解るので飛ばそう。
次は数を書くのね。確かにこうやって自分で手を動かして書く方が分かりやすいね。
8は上手に書けるけれど5は苦手だ。
ラーラレーアに言わせると何度も書けば苦手も何も無くなるらしい。本当?
次は『ことばあそび』。
さっきの教えてもらった動物の名前を今度は当てるクイズらしい。これは愉しい。
間違いが無くなるまで何度も遊んでしまった。
この『ことばあそび』の最後は文字を書く事だ。
やってみたが、異世界人の子供は皆これが出来るの?
こんな種類いっぱいで良く覚えられるよ。
〈これは初歩の初歩ですよ。一般の人族で5000字程を覚えますね〉
す、すごいですね異世界人。
その後は『えいご』やら『おんがく』、『くらし』とか『おつかい』とかを学んでいく。
しかし最初に見せられた本の【 】の中はまだ読めない。
これ読むためにはどうしたらいいのだろう?
〈はい。これどうぞ〉
そう言ってラーラレーアが持ってきたのは『なまえ あまかけりゅうせい』と表紙に書かれた『漢字ドリル』だった。
〈異世界人はこういうで毎日毎日少しずつ覚えていくのです〉
なんだか、ラーラレーアが手でFの字を作るとクイッとあげる動作をしている気がした。
そして目は見えずともなんだかその目はギラギラした目のような気がする。
何故だか『教育ママ』という単語が頭を過ったが、なんだろうね? 教育ママ。
とりあえず言われるがまま、『漢字ドリル』を進める。
『いち』は『1』なのに漢字では『一』なの?
ママどういう事よ?
〈はい、では休憩にクイズです。これなんて読みますか?〉
そう言ってラーラレーアが目の前に持ってきたのは、先ほど転がっていた水色の三角形だった。
それは20cmくらいの厚みの1辺を40cm程度とする角が丸い平らな三角形であり、底面なのだろうか? 小さいタイヤが二つと自在球があり、口が付いていた。
「ん? これゴーレム? 生きてるの?」
見てみると口はガラガラ動き、タイヤはキュルキュル空回りして動いている。
〈これは異世界の世界のロボット、まぁゴーレムと言って差支えありませんが、自動掃除機です。まるで生きているように動きますが分類はバイクと同じ『機械』ですね〉
「あ、これ『ガンバ!』って書いてあるね」
その表面には「ガンバ!」と書かれた紙がくっ付いていた。
〈はい。クイズは正解です。良く学習できてますね。パチパチパチ〉
「なんかイヤイヤしているように見えるのだけど?」
タイヤがキュイキュイ揺れて左右に振っているような気がする。
〈センサーが地面を検出できないので情報を得ようとしているのでしょう。可哀そうなので戻しておきますね〉
そういってラーラレーアはガンバ!君を床にそっと下してあげる。
するとガンバ!君はしばらく辺りを確認するとブオーンという空気を吸い込むような音と共に動き出していた。
「ああ、だいぶ綺麗に片付いたね」
わたしが勉強をしている間に『書斎』はラーラレーアが頑張った成果でかなり綺麗になっていた。
大量に散乱していた本や人形は本棚に揃えておかれ、食料品や服や装備などは見えないけれど棚の中に入れたのかな?
ベッドには毛布が畳まれ、白い袋にはゴミが纏められ、机は椅子と共に綺麗に揃えられていた。
机の上には何冊か本が丁寧に揃えられて置かれている。
しかし何故だろう? その本の置き方には悪意を感じるよ?
床に散らばっていたゴミも粗方無くなっており、まだ残ってる細かいチリやホコリ、汁などをガンバ!君が頑張って吸い取って掃除していた。
そんな折り、ふと耳を澄ますと何やら会話をしながら人がやってくる気配がする。
そちらを見やると扉があり、開け放たれていた。
あはは、今まで気が付かなかったよ。
気配はそちらから来る。
「どういう事だ? ギフトの成長? それとも壊れたのか?」
とか
「あっちこっちに出来た部屋も廊下もグラグラ揺れて不安定だしにゃあ」
とか声が聞こえるくらいに近づいて来ていた。
勇者リュウセー君かな? あと「にゃあ」って事は獣人のプルトン?
「あっちに先があるのかな? 勇者リュウセー君に会う前にそちらも確認しておきたいね」
〈了解です。勇者リュウセーのこちらへの態度も見極める必要もありますしね〉
そういうが早いかラーラレーアはシャカシャカ後髪を動かして扉をスルリと抜けて扉の裏に隠れる。
ちらりと勇者リュウセー君が見えたがこちらには気が付いていない様だ。
ふう、よかった。
勇者リュウセー君とプルトンの二人はそのまま扉をくぐり扉をパタンと閉じた。
よし! じゃあレッツ探索だ! 愉しみー!
扉越しに「なんだこりゃ! なんでこんなに片付いて? って誰だオカンのような真似しやがったのは!?」って声を聞きながら次の部屋とやらを見にいくのだった。
〈『理科』に『プログラミング基礎』に『計算ドリル』。ちゃんと勉強道具は持ち出しましたので移動の間にやるんですよ?〉
‥‥‥ラーラレーアからママ臭がするよ?
ピロン♪
:鉄蜘蛛ゴーレムのオーリオールは更に勉強を強要された。:




