020:鉄くずゴーレムは目覚めた。:
〈オーリオール! オーリオール! 目を覚ましなさい!〉
バチン!
――――。
〈もうダメだと言うのですか? いえ、ラーラレーアが居るのです。そんな事は絶対、絶対在りません! 起きなさい!〉
ばちゅん!
ぐえ!?
な、なになになに!?
〈起きろって言ってるでしょこの宿六がー!〉
バリバリバリチュン!
アバババッババッバッババ!?
お、起きてます! 起きてますがな!? 絶対分かっててやってるでしょ!?
〈知るかー〉
ばちゅん!
なんで!?
何をそんなに荒ぶってらっしゃるの!?
ってそうか。思い出した。
温泉に浸かってたら何でだか突然意識が落ちたんだった。
何でだっけ?
そうそう、自分の首がチュンされたんだ。
は? なんで首チュンされたか分かったかって?
すみません。わかりませーん。
とはいえ、それはラーラレーアも頭がドーンってなるほど驚いても可笑しくないやね。
ごめんごめん!
〈かなり頭部の魔力が軽くなっているようですね? もう一度再起動が必要でしょうか?〉
いやいや! ちゃんとわたしオーリオールですよ! 理解してますよ!
あーいあむおーりおーる、おーけー?
バチュン!
痛い!? ふ、ふざけ過ぎ? ふざけ過ぎました。御免なさい。
オーリオールただいま帰還いたしました!
これよりは誠心誠意を持って問題解決に努めてまいりたいと思います!
起こしていただき有難うございました! ラーラレーア!
〈ふん。今はこのくらいで許します。もう金輪際首を飛ばされるなど在ってはなりませんよ?〉
そ、それフラグにならない? 大丈夫?
〈分かった上で言ってますが?〉
おうしっと!?
と、とりあえずだ。周りを確認しよう。
パチリ。
目を開くとそこはなんというか、有り体に言ってゴミ箱だった。
大量の本、大量の人形、食料品、食べ物?(だった物)、大量の食べ物の容器、白いペラペラした袋、大量のビン、大量の缶、鍋、フライパン、コンロ、ケトル、水甕、お玉、包丁、鍋掴み、服、コート、マント、鎧、兜、手袋、手甲、膝当て、靴下、靴、ブーツ、剣、槍、盾、杖、毛布、ベッド、大きな机、小さな机、革張りの椅子、ソファ、棚、白い大きな四角形が二つ、黒い一抱えくらいの四角形、黒い両掌くらいの四角形、水色の角の丸い三角形。
確認できたこれらがまるで和え物のようにごちゃっと混じりあっていた。
「汚なっ!?」
部屋自体は6m×10m程度の広さがあり、壁は本棚で埋め尽くされいた。整えればそれなりにシックな部屋になりそうだが今はゴミ箱。いや、ゴミ部屋だ。
どこだろうここ?
〈ラーラレーアもスリープ中でしたので推測ですが、ここは勇者リュウセーのギフト『書斎』の中ではないでしょうか?〉
あ、なーるほど。確かに『書斎』のイメージにピッタリだね。ゴミさえ散乱してなきゃだけど。
〈オーリールが蹴り飛ばしたから散乱したものと推測します〉
「お、おおう。それはちょっと悪い事をしてしまったか」
確かにゴロンゴロンしてたしその後チャプチャプ流されてたモノね。掻き混ざっててもおかしくないね。
そりゃ首もチュンしたくなるよ。うんうん。仕方ない。
多分わたしの首を落したのは勇者リュウセー君だろう。
で、わたしを回収した?
体の方は見当たらないのであのまま打ち捨てられたのかな?
これちゃんと生えるよね?
あ、まずい。「オタマ」達サンドゴーレムの腹部復活実験は確認していない。
〈そのフザケタ状態で生きているのですからきっと大丈夫ですよ!〉
「いやそれを言ったらラーラレーアだってフザケタ状態で生きているのだからね? 五十歩百歩よ?」
あれ? ところで勇者リュウセー君はここにいないよね?
〈ラーラレーアがスリープから起動した時には既に誰も居なかったです〉
ふーん出かけたのかな?
家主の居ない部屋を見るのも何となく罪悪感を感じるね。
あれ? そういえばわたしどこからこの風景を見ているの?
やけに視線が高い。
天井スレスレから見ている感じだ。
まさか背が伸びた!? ひゃっほーい得したね!
〈首だけになっているのにそのような訳が有るわけないじゃないですか。これはラーラレーアが『ヘアー機能』を使って天井に張り付いているだけです〉
「な、なんだって!? 『ヘアー機能』!?」
〈かなり初期に放置されていた機能の一つですね。どうやらラーラレーアの意思によって長さ、質、太さ、色等も調整可能にして魔力を込める事で任意に動かす事も可能な機能です〉
「な、長さ? 太さ? 任意に!? 何なのヘアー機能!? まさかアレ!?」
〈髪の事ですね。オーリオールの頭皮から伸びている奴ですよ〉
「そ、そうだよね! 大丈夫。何も勘違いしていないよ?」
〈今まではデフォルト設定でショートヘアーでしたが今は2本のアホ毛が前髪を飾り後ろ髪は腰くらいまでの長さのものをゆるふわ三つ編みにしています〉
アホ毛? あ、このピョンピョンしている奴か。なんかちょっとギザギザしていてまるで――
「Gじゃねーか!? ギザギザ触覚とちょっとボコボコしたボディなんて正にあれじゃないか!?」
〈ふん! そんな事有るわけないじゃないですか。ラーラレーアも嫌ですよ。Gなんて。これはスパイダースタイルです。この2本のアホ毛は前脚です。糸に見立てた髪を投げるナゲナワグモがモデルです。言うなら鉄蜘蛛ゴーレムです〉
「そ、そうか。ならいいか」
結局鉄Gじゃねーかと思うけれど。
強く念じておくよ?
鉄蜘蛛ゴーレムだからね? 鉄Gにするなよ?
〈この髪にもファンデルワールス力が働いておりこうして三つ編みの先端だけで天井に引っ付いていられる素敵仕様です〉
すごいなファンデルワールス力!
〈いえーす〉
なぜ人差し指を一本揚げる仕草なのかな? いやそんな気がしただけだけれど。
「その力があればここ掃除できるかな?」
〈その程度は問題無いかと〉
証明しようとしたのかヒュッと前髪が動き先端に付いた髪を投げて本を一冊回収してきた。
それを壁面の本棚にシュっと戻してみせたラーラレーアは推定ドヤ顔をするのだった。
「それがあれば〈ダメです!〉とか言ってないで助ける事ができたのでは?」
〈テヘ♪〉
まぁ過ぎてしまった事はいいか。
「それならここを掃除しよう。少しでも家主である勇者リュウセー君の機嫌をとって捕虜待遇を改善しなければ!」
〈確かにここからどうやったら出られるかも判りませんし、勇者リュウセーとのコミュニケーションは必須でしょう。〉
「うん。では宜しくね」
〈任されました。どうやらこの『ヘアー機能』はラーラレーア専用機能のようですしオーリオールは本でも読んで少しでも語彙を増やしてください。これからも一緒にやっていくのですから〉
お、おう。なんかナチュラルな同居継続宣言にちょっとドキドキしています。
ラーラレーアもわたしから分割された人格なのだからとんだ自己偏愛者だとは自分でも思う。それは甘んじて受けよう。
でもね。嬉しいからいいのだ!
ラーラレーアはそんなわたしの心情に気が付かない振りして一心不乱に掃除を進めていた。
ふふん、素直じゃないなぁ。
「じゃあ本を1冊くださいな!」
スッと目の前に出された本を見る。
凄く小さい何らかの文字が書いてあるのはわかった。
【 】は解る気がする。この中に何らか意味がある。それはわかる。気がする。
「ごめん。ラーラレーア。わたし頑張ろうとしたけれど、解ろうとしたのだけれど、駄目だった。」
〈ああ、なるほど異世界言語で書かれた本でしたか。ラーラレーアは読めていたので気が付きませんでした〉
「へー、そうなのか」
わたしとラーラレーアで認識出来る事が違うのもちょっと不思議だね。
ん? 異世界言語?
〈あ、ちょうど良いのがありました。これなどいかがですか?〉
ん? なんだろう。
ラーラレーアは本とそれに紐で繋がったペンの様なモノをわたしの目の前に持ってきた。
ピロン♪
:鉄蜘蛛ゴーレムのオーリオ―ルは異世界知育パッドを手に入れた。: