019:鉄くずゴーレムは目的を達成した。:
「ィダァァァァァァキィィィィィック!!」
〈それもダメなやつぅぅ!〉
というラーラレーアのダメダメ攻撃に負けずに撃ったラストアタック。
肉団子鍋パワァのバフを受けた一撃は筆舌しがたい音をまき散らしながら、勇者リュウセー君の立方体型魔法陣を見事蹴り飛ばす事に成功した。
おおーゴロンゴロン転がってるよ。水の中を。
ん? もう水が結構―――
「どわわわわわわわわわわわわわ!? ガボガボガボ!?」
栓が抜けた中層を水と共に流される。
あ、アイアンゴーレム百足も巻き込まれてる。
やっほ!
でもあいつらずっちぃな!?
いっぱいの手足で踏ん張ってらっしゃる!
手も足も無くて流されるままのわたしの口にはドンドン水が入ってくる。
あ、そうかこんな時に使わないと!
「こんな所じゃ息苦しくってパクパクパク!」
〈今は使い時ではありません。随分余裕ですね? 任務失敗自爆ドカーンって奴ですか?〉
「おおう、まさしくそんな感じ」
結局勇者リュウセー君の目的通りになっちゃったしね。
やっぱりわたしには王様の素質は無いね。こんな王様皆も嫌だろうしね。
でも次点はクリアしたのだからわたしの目的達成でもいいよね!
〈はい。その通りかと。お疲れ様です〉
うん。そうだよね。頑張ったよねわたし!
あれ? そういえば他のアイアンゴーレムは?
おおお!? なんかいっぱいあった開口がシュコシュコ閉じてるのですが!?
あ、まどか様かな?
いい仕事してますな! わたしも助けて!
あ、そこの「芋」! ヘルプミー!
「てめぇ! 「芋」バイバイじゃねー!」
ちょ! まじで誰か手を差し伸べてくれたっていいじゃない!?
なんなの? 嫌われ者なの!? 王様よ? 素質無いけど。
いやまさか臭いの? 「芋」より臭いの?
クンクン、いや臭く無いよー?
〈まぁ。誰しも自分の臭いには気付かないものですから〉
「げ、げふ。今日一効く一撃が来たぜ。白い砂になりそう〉
くそう「芋」の野郎絶対許さないからな! あの顔は覚えた。絶対復讐してやる。
〈恨むならその体を用意したまどか様ですけどね〉
「おぅまいごっと! いやこの場合、おぅまいまざぁ! かな?」
〈どれだけ余裕なのですか‥‥‥〉
「まぁほらこういう時はあれよ! ピンチの時には颯爽と主人公が、ウラーナが助けてくれるよ!」
お約束でそ?
「へいかむ! 我が主人公よ! ぷりーずへるぷみー!」
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私はウラーナ・エーマラマ。ラーハーイ王国の騎士団の騎士だ。
しかし、今の私は天職「運び屋」でもある。天の神より与えたもうたギフト『バイク』を駆る騎士であり「運び屋」が私だ。
いや、最早騎士は辞める。
私はこれからお嫁さんになるのだ! チリトリに乗った魔女のような「運び屋」の!
はぁ。天職「運び屋」にしてお嫁さん。なんて甘美な響きか。
そう、あれは堕ちた。
確実に「掴んだ」。オーリオール殿の胃袋を!
あの感触は間違いない。本能がそういっている。
やりました! やりましたよお母様! ウラーナは確実に堕としました!
お母様に仕込んでもらったあの肉団子鍋はやはり最強でした!
ええ、ええ。ちゃんと隠し味に自前の卵を入れましたとも!
「卵の入らぬ肉団子鍋は肉団子鍋に在らず」ですものね。
我が家の秘伝「肉団子鍋(肝堕:かんおち:)」は卵を入れてこそ2廻り3廻りも『格』が違う!
その格差による谷山こそ二段飛翔の為の翼!
天高く存在する上昇気流を掴むが如き絶峰たらしめる秘伝の技!
お母様もそれでお父様を掌握したと仰ってましたものね。
半信半疑でしたが効果はバツグンでした。
コロコロっといっていましたとも!
そうあんな魔王のような勇者なんぞを擁立する王家に忠誠なぞ誓える物か!
三行半付けて返上である。
しかしその為にはリュウセーの策である水攻めを留めなければならぬ。
早急に!
愛するマイスイートハニー、オーリオール殿とのイチャイチャライフの為にあの「霊銀鉱無限牧場」は必須だ。
あそこに入って霊銀鉱を持ち帰えるには表層を行って帰ってなければならない。
しかし、今の私であればこの世界とは一枚別の世界を走る事で敵に出会う事がない。易々と持ち帰ることが出来るし、もしオーリオール殿が「ケオーネラビリンス」に居つきたいと仰られても私ならば地上との行き来も問題無い。
そうか今気が付いた。これが、これこそが天の神よりいただいたギフト『バイク』の真の使い道だったのだ!
天の神が私とオーリオール殿のイチャイチャライフを祝福してくれているのだ!
まさにギフト! 素晴らしい!
そうと理解したならば早急に事を終わらせ、オーリオール殿の元に帰るのだ!
帰ったらあのお砂糖のような甘いお顔に沢山むしゃぶりつく。
クッ、くふ、くふふふふ。
腹からくる喜びに笑みが我慢できん。
さぁ待っててください! オーリオール殿! 貴方のエンジェルがすぐに貴方を迎えに行きます!
っ! 見えた! 入口!
ん? なんだ? あれは近衛騎士の装備? 何故こんなにも近衛騎士が沢山?
む、そういえば先ほどから水が出ていない。
近衛騎士達が来てあの水を止めたのだろうか?
やはりあのリュウセーは無理を押し通して今回の事を起こしたらしい。
全く迷惑な話だ。
とはいえ、状況は確認せねばなるまい。
王を守る近衛騎士がこのような所に来ているのは何故だ?
そう問うつもりで私は能力を解く。
別空間から突然現れた私に近衛騎士達は騒然となる。
「何者! いやそのフルプレートメイルは「黒鋼」の者か!? 誰だ! 名を名乗れ!」
そう誰何するのは近衛騎士団長様だ。あの人は私を知っている。
はずだ。
ここに来るよう任命したのはこの近衛騎士団長様なのだから。
「は! 第5騎士団「黒鋼」所属の騎士ウラーナ・エーマラマであります!」
「あ、お、おお! エーマラマ卿であったか。何故其方がダンジョンより? いやそれよりも先ほどの魔法は?」
ふん、フルプレートを着ている程度で口説いた女がわからぬとはな。
わたしの本能が拒否しただけの事はある。
「は! 勇者リュウセー様の万が一の救出を命じられておりました! 勇者殿がダンジョン奥にて遭難されているとの事でしたので向かっておりました! しかしながら救出中に勇者様に裏切られ、我が相棒の「バイク」を奪われました! 帰るに帰れず絶体絶命の折り、天職「運び屋」とギフトを与えられこうして戻ってきた次第です!」
「な、なんと!? ギフトを得たと申すのか! いや確かにその「バイク」の存在感はただの乗り物とは思えない‥‥‥」
勇者の事は全く無視とか。大丈夫であろうか?
まぁしかし近衛騎士団長が驚くのも無理はないだろう。
ギフトを得るという事はそういう事だ。
その時、近衛騎士を掻き分けて、王が来た。
騎士はもう辞めるつもりではあるが、従来よりの癖もあり腕を折り、首を差し出す臣下の礼をとると、王が語りだす。
「異世界勇者リュウセーに裏切られたこの絶望の時に何たる僥倖。何たる廻り合わせ!」
王がバッと振り返り配下に対して言う。
「勇者じゃ。ついに、ついに我が国にギフトを与えられた者が。真の「現地勇者」が誕生した! なんと喜ばしき事!」
あれぇ? 私お嫁さんになるんだけれど?
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流れ~流れて~どこへ行くのか~?
答えは「深層」。
うーん。主人公の迎えが無い。どうしたことだろう?
まぁしかし水の流れによって「深層」にピューっと排出されたわたしと勇者リュウセー君の立方体型魔法陣は、勇者リュウセー君の作戦通りに溶岩と水が合わさって、ちょっとものすごく熱い温泉くらいの所へバチャンと無事出る事ができた。
ふう、このボロボロの体で溶岩の中へ落ちたらちょっとヤバかったかも知れないからね。
一安心である。
いやーいい湯だなー極楽だなー。
湯気が天井からポタリと垂れて背中についた。お、冷たい!
ん? 何故かわたし鉄なのに浮いているんですよ。不思議だね!
背中が上だからガボガボしてるけれど。
〈ダメです! オーリオール! 早く逃げて!〉
突然のラーラレーアの声に驚いた瞬間。
わたしの首は断たれていた。
ピロン♪
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