009:金満ゴーレムは心を奪われた。:
出口からおよそ40km地点まで攻略してきた。
ここからはゴーレムが相手になってくるはずだ。
わたしもゴーレムなので見逃してくれるかも知れないけれど人族のウラーナを連れているので難しかろう。
わざわざ戦いたくはないがウラーナに多少情が湧いてしまった為、わたしの今の立ち位置はウラーナ側にあると言える。
だからできる限りウラーナの希望を叶えてあげたいと思う。
勇者を救出したい。
その願いを。
そのためには同族といえど殺める事も覚悟しなければなるまい。
悲壮な覚悟を密かに決めているとラーラレーアが平坦な声でこう言ってきた。
〈ゴーレムは基本的に頭にある魔力さえ無事であればまた素材を集めて復活できるそうです。なので頭に攻撃を加えなければ十中八九殺めることはなさそうですよ?〉
「わぁお、なんてご都合主義な種族」
「え? どうされました?」
思わず呟いた声をウラーナに聞かれてしまった。
やばいやばい。ここまで来てゴーレムでしたがバレたらやばいよやばいよぉ。
〈語彙が無さ過ぎて本当のやばさが伝わってきますね〉
うるさいよ!
まぁ、実際はもうすぐバレるだろうけれどさ。
とりあえず全力で誤魔化そう。
「そういえばここのサンドスパイダーゴーレムの腹から霊銀鉱が出て来たなと思い出してね。ゴーレムは頭部の魔力さえ壊さなきゃ復活するし霊銀鉱の無限生産をするなら殺さない方が良さそうだと思ってさ」
「ええ!? そうなんですか? そんな話聞いたこと無いですよ」
「おや? そっちの国では知られてないのかな?」
「ええ、ゴーレム自体が珍しいですし情報が少ないのです」
「なるほどね。折角だし色々調べてみるかい? 霊銀鉱が本当に甘いか試してもみたいでしょ?」
「それは是非! あ、ただ勇者様の救出も急がなければ。――いやそれよりも甘味が大事ですね。色々試してみましょう!」
〈おう大爆死、と思いきや流れるような思考誘導さすがです〉
うん、自分でもちょっとドキドキしてるさ。
それにしても相変わらず勇者の命軽いなぁ。
あれ? ウラーナの願い勇者の救出で本当にいいんだよね?
んんん? 大丈夫?
そんな意味を込めてウラーナを見つめてみるもこてんと首を傾げられるだけだった。
まぁいいか。
と言うわけでやってきました。
目の前にはサンドマンティス(ゴーレム。多分)。
すでにシャーシャー言って威嚇態勢とっています。
うん。襲ってくる気まんまんだ。
相手はわたしの倍、3m超の体高。
腕部も含めると2mはある細かい刃物が沢山付いた2本の鎌。
凶悪なお顔なのに意外にキュートな目。
でっぷりとした腹部と割とシャープな下胸部には翅もある。
こいつ、飛ぶのか!?
「わ、右ですオーリオール殿っ!」
突然のウラーナの呼びかけに右の方に視線を移すとそこにはサンドスパイダー(ゴーレム。多分)が音も無く迫ってきていた。
「あ、ひ―」
左を見るとそこには巨大な――ヒュゴッ! チュドーン!
わたしは反射的に全力で岩を放っていた。
一応同じダンジョン内で生まれたゴーレム達なので頭や頭胸部と腹部を切り離す程度にしようと思ってた。
しかし奴は知らん。見つけ次第殺である。あ、これが見敵必殺ってことなのね?
そうかー、わたし奴と同じ扱いだったんだ‥‥‥おのれ勇者。
その有り様に慄いたのかサンドマンティスもサンドスパイダーも背を見せて逃げ出そうとする。
「お腹は置いていってね!」
と割と残虐な事を吐きつつサンドマンティスの胸部と腹部の間に超速の足刀を差し込む。
ジュイン! と赤い線の残滓が宙に描かれゴトリと断面が溶解したように赤熱した腹部が落ちる。
ついでに本当に復活するのかを実験する為に首輪を付けてから放した。
首輪の材料はウラーナから貰った廃棄予定の歪んだお玉を輪っか状にしたものである。
あいつの実験体名は「オタマ」で決定だな。
あとは「オナベ」と「オカン」がある。
サンドスパイダーも同様に処理してこいつに首は無いから腕章のようにして缶の底を切り抜いたものを前足の付け根に付けた。
こいつは「オカン」である。
母親と勘違いしそうだがまぁいいだろう。
「「オナベ」は何が付ける事になるかな?」
〈後ここにいる種はあれを除けばサンドスコーピオンだけですね〉
「サンドスコーピオン! 君に決めた!」
〈なかなか強そうですね。タイプは毒。むし。と言ったところでしょうか?〉
などというやり取りを経て、結局サンドスコーピオンを見つけ出して同処理。
ちなみにこいつの切り離し先は尾節だけにしておいた。
鍋をくくり付けておく所が無いので頭に生えてた角をチュインして切り飛ばし、その溶けた断面に溶接してやる。
そうすれば見事な鍋の王冠をつけた「オナベ」の完成です。
そうしてからバイバーイと追い返す。
「さて、では戦利品の確認のお時間です」
「てってれてれれれてってってーん、てってれてれれれてってってーん、てけてけてんてんてん」
とウラーナの独特な催促にしたがって集めた腹部(すでに岩の表面のようになっている)を割っていく。
「おおー、これが霊銀鉱なんですね、綺麗です!」
「どの腹部、尾節からも霊銀鉱が出てくるね。それも結構な数だ」
それぞれ感想を言い合い腹の中からポロポロ出していく。
「さて、問題はこれが本当に甘いかだ」
手に持った白銀色の鉱石をポリンと欠いてみせる。
「ご、ごくり」
「あ、ウラーナが食べてみる?」
「は、はわわわわ、いいんですか?」
〈一応、実験結果を伝えますとその鉱石は胃や腸で分解されて、ほぼ100%魔力に変換されるようです。良かったですね。糞詰まりに等ならなくて〉
以前ラーラレーアからそのような御墨付きも得ていたので安心して提供できるのだった。
うん、と頷いてウラーナに霊銀鉱の欠片を渡すと、彼女は疑いもせずに面頬を少し上げて口に運んだ。
「は? はふぅ、とけ、うわ、え、な、な、あ、ああ、ああああぁぁぁぁぁあ、こ、これはなんて甘さの宝石箱やぁぁぁぁぁぁぁ!」
なんで彦(パクパクパク)。あれ? 心の声が出ない?
〈ふう、ここは宇宙と書いてソラじゃないんですよ? 「こんな世界じゃ息苦しくって」なんて軽々しく使えないんです。気を付けてください〉
うん。意味不明。
「どう? お眼鏡に叶うかな? わたしにはちょっと甘すぎて食べられなかったのだけどさ」
ウラーナの推定どこかに逝ってしまった顔を見れば一目瞭然であったが一応、確認は必要だ。
「はっ! あ、いや、これは本当にお砂糖ですよ。いや、以前私が食べたお砂糖菓子でもここまでの甘さはありませんでした。これを秘匿していたとしたら本当に間違いなく戦争ですよ。奴等にお砂糖を我慢するのがどんなものか思い知らしてやるですよ」
おお、ドワーフさんピンチである。
まぁ、頑張ってほしい。
「一番の問題はここまで来て持ち帰れる実力のある人が我が国にはほとんどいないという事ですね。勇者様もこういった事はしないでしょうし」
チラチラと視線を感じるが流石になんちゃら王国に何の情も湧かないのでやりはしない。
そんな推定上目遣いしたってダメ。無理。うー‥‥‥ちょっとならいいかな?
〈チョロイン過ぎません?〉
「あ、兜取り忘れてました。ジー」
カパリ。ジーと兜をとった酢顔で追い打ちをかけてくるウラーナに若干やられつつ、こればっかりはダメとしっかり覚悟完了する。
よし。言うぞ。わたしは断る。絶対だ。だってここ往復してもう飽きてるし。
「うーん。これはダメそう。諦めます」
はや!?
はやくないですか? え? え? え?
もうちょっとでコローっと落ちてましたよ?
え、ちょっと待って。なにこの気持ち。胸がドキュンドキュンしてるんだけど?
〈あの女やりおるわ。もう掌の上のお猿さんですわ〉
ピロン♪
:金満ゴーレムのオーリオールは人族のウラーナに心を奪われた。: