辺境領地の次男坊と女王
僕は王国の辺境にある田舎子爵の次男坊。
領地は長男が継ぐ事が確定している。そんな僕の将来はこの国の騎士になるか、自由を求めて冒険者になるかのどちらかぐらいしかない。僕は自由を求めて冒険者になるつもりだ。
そして、僕は今馬車に揺られて王都を目指している。この国には貴族籍を持つ子供が12才を迎えた時に一堂に会して、盛大な舞踏会を行う習慣があるからだ。
王都までの退屈な馬車の旅をようやく終え、舞踏会の日を迎えた。辺境に領地を持つ小さな子爵家のそれも次男坊に話しかけてくる酔狂な人は居ない。
豪華な食事も目には入らず一人寂しく壁に背を預けて所在無しに、きらびやかな衣装で舞う同い年の子達を眺めていた時、不意に声を掛けられた。
「よかったら私と踊りませんか?」
そう声を掛けてきた少女は夕映えの空のような何とも言えない深い赤みを帯びた髪を持つ美しい少女だった。
焦りながらも何とか体裁を保ち、彼女をエスコートして躍りの舞台へと歩き出す。2曲ほどだろうか…踊った後に彼女は、それはそれは見事なカテーシーをして僕から離れて行った。
僕は彼女の後ろ姿をいつまでもいつまでも眺めている事しか出来なかった。
その後、父から彼女がこの国の王子の婚約者である事を聞かされた。
次の女王となるべき人、片や田舎の領地の次男坊。所詮は報われぬ恋だと、早く彼女の事を諦めようと努力した……
ある日、父からこんな事を言われた。
「騎士にそれも王族を守る近衛騎士になれば、お前の恋が実る事は無いにしても、彼女を側で守る事は出来るだろう」
その日から僕は、毎日朝早くに起きて剣を持ち出し、夜の帳が降りるまで剣を降り続けた。ただ一心に彼女の事を守る未来を夢見て。
それから、2年が経った……僕は運良く近衛騎士団に入団する事が決まった。
入団式の時に、彼女が僕の愛用している剣を、僕の肩に乗せ。
「騎士ナゴーヤンよ、そなたの剣は私を守る為に振るわれると誓いますか?」
そう問うてきた。僕は、はっきりと謁見の間の隅々まで聞こえるような声で答える。
「貴女様にどのような災いが降りかかろうとも、私の持つこの盾で必ず貴女様を守りましょう。貴女様を傷付けようとする全ての事から、私の持つ剣で貴女様に災いが及ばないようにいたしましょう」
「王女コナ様、私は貴女様の盾であり剣でございます。私のこの命が燃え尽きるその時まで、貴女様のお側を離れる事など決して無いと誓いましょう」
こうして、辺境の領地の子爵家の次男坊は、初めて会った時に芽生えた恋心を、彼なりに成就する事に成功したのでした。
彼は、その命の灯が消えるその時まで、結婚もせずにひたすらに女王となられたコナ様の盾であり剣であり続けたのでした。