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異世界風土記〜諸国漫遊が仕事です〜  作者: 木桶 晴
1章 見知らぬ国と人々について
9/11

7. 小さい王様

 こんちわー。木桶になります。今日は投稿するのを忘れていまして、昼を過ぎてしまいました。仕方ないですね。ごめんなさい。

 最初が肝心である、と誰かが言った。あるいは、誰もが言った。俺もそう思う。最初がうまくいくと、そのモチベーションを保ったままある程度まで進めるから。最初の失敗を乗り切れないと、初歩的な事柄を修めたその後、その先に発生する発展的な事案で、失敗がフラッシュバックするからだ。

 つまり、成功体験というものは重要であり、初歩で躓くダメージもまた計り知れないということ。これを分かっていたとしても、『絶対にそうはなるまい』と思うほどに緊張し、思考や作業や学習の効率が低下する。しかし、その体験が未知である以上、どこかのタイミングでの失敗は免れない。それではどうするか。失敗する度に考え、成功したときとの差異を認識し、()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えることによって失敗と断定しないこと、好奇心を忘れないこと。

 結局、プラス思考は何にも勝るというわけだ。ただし、失敗がそのまま脱落や没落に直結するのであれば、それは叶わない。


 つまり!


 王様と会うの嫌です。失敗=死(とかそれに類する何か)じゃねーですか。手汗がヤバいし、いやに冷や汗が。あとトイレはどこですか。食後だし汲み取り式は嫌だけど、この世界絶対水洗式ないだろ。

 帰りたくはないけど帰りたい。神様……は頼りにできなさそうです。助けて仏様。




 困ったときの神頼みなど実は効果ありません。知ってた。神様はまだいいのだが、仏様もどうにかしてくれそうにないようだ。いや、まあ死んでも輪廻に還るだけだし、そんなに気にしないものなのかも知れない。そんなに仏教の知識があるわけではないからこう思うだけで、もしや助けてくれることもあるのかも知れないが。少なくとも今回はその限りではないらしい。

 さあどうしましょう。いやどうしようもないんだけど。もうスキルなんかなくても俺の扱いが酷いことは普通にわかってしまう。そうじゃなきゃ両脇に衛兵さんがいるわけないのです。左右の少し後ろに威圧感たっぷりの騎士様がいるようなこんな光景、漫画でしか見たことありませんよ。本当にやるんだなこういうの。


「して、何の用だ?」


 床よりも数段高い位置にある、背もたれの高い玉座。後光が差すような装飾と、滑らかな紫の布で装飾がされている。

 そこに座る少年と、それを少し遠まきに囲む衛兵たちと重役らしい人が数人。その全てから視線を向けらているのは、もちろん俺――ではなく、俺の数メートルまえに(ひざまず)いている大司祭、テレウスだった。


「……おそれながら(わたくし)は、」


「冗談だ。なにか面白いことが起こったのだろう? 詳しく聞かせよ」


 中学生……くらいだろうか。正確な年齢はわからないが、小学生くらいの年には見えない。

 線が細いのもあるが、見慣れない服装というだけで補正がかかり、見た目だけで年齢を推測するのが思ったより難しい。整った顔立ちだけど、元気そうなというか我の強そうなというか。そんな顔をしていた。


「はい。まず今日この日におきましては――」




「ほう、紫」


 時間はそこまでかからずに、この老人は説明を終えた。世界語(素晴らしいスキル)のおかげで、ある程度知っている概念は言葉を上手く変換されて認識できた。


「さらに彫刻(スキル)か」


 王様をあまりチラチラ見ると衛兵さんに大事な首を盗られても不思議ではなかったので、上目遣いに盗み見ていた。そこで何が怖かったって、王様とめちゃくちゃ目が合うのだ。超目が合う。いや、最初もなんかこいつだけ俺見てる気がするとは思ったけど、大司祭様が話してるときですらこっち見てる。それってどうなの?


「ご苦労だった。役目に戻るがよい」


「御意に」


 終わったぁー。やっと帰れる……いや、帰るとこなんてないわけだけど。



「そこな異人は残れ」


「はぃ……承知しました」


 まっすぐ帰れることなんてありませんでした。まあ、あれだけ見られててこれで返されたら拍子抜けどころか不気味なわけだが。

 普通に返事しそうになり、咄嗟に少し丁寧な言葉に言い直した。が、言い直してしまったのはもしや無礼に当たってしまうのだろうか。


「して、貴様はどこから来た」


「あー……ええと……」


 どーーーーしましょう。困った。困った……。絶対これからいくつか質問されるよなあ。

 とはいえ普通に考えれば、さっきの大司祭と情報共有されたときに齟齬がないように、同じことを喋る方がいいだろう。

 この質問についても、あんまり嘘ついても意味がないように思う。上手に嘘をつくよりも上手に誤魔化すほうが、予想外のことが起きたときにトラブルが避けられる……のではなかろうか。知らんけど。


「魔法のない世界の、日本という島国からきました」


 思ってみれば、この世界の人たちはどうやって魔法と自然科学を分けているのだろうか。結局自然科学の一つの分野になるのかな。


「ほう、魔術がない世界、と」


「はい、その通りでございます」


 こういう敬語に慣れていないせいか、なんだか少しだけ気恥ずかしい。喋っている自分に違和感しか感じない。あーあ、早く抜け出したいなあ。


「……んー……」


 なんだろう。せっかく答えたのだが。まあテンション爆上げされても困るけど、これはこれで拍子抜けというか。


「……」


「……」


 どうしよう。


「貴様本当に異界の…………いや、よい。これより度々、我がもとに来るが良い」


「王よ、それは……!」


 後ろにいる重臣らしき還暦おじさんが不満の声を挙げた。そのちょっとした反抗は、小さな王の一言によって、いとも容易くかき消された。


「五月蝿いぞ黙っておれ」


 可哀想なことに、王は聞く耳持たんといったご様子で跳ね除ける。個人的にはおじさんにはもう少し頑張ってほしかったのだが、まあ王政の官僚なんてそんなもんだろう。パワハラ反対。


「終わりだ。行くがよい」


 もっと続くと思っていた質問が、思っていたよりも早く集結して呆然としてしているところを、後ろの衛兵さんたちから熱視線をいただいたので、さっさと出ていくことにした。


 王のいる広間を出ると、後ろから今後あいつをどうするのか、あんなのと近くで話すなど危険だ、とかあまり都合の良くない話が聞こえてきた。ま、これが普通だろうな。王と大司祭が落ち着きすぎているくらいだ。さすがは上に立つ者。

 それはそうと、どうしてこんな子供が王なんだろうか。院政みたいなことがあるのか? この世界の退位した王はどういった扱いなのか。まだまだわからないことだらけだ。

 どうせまたそのうち質問攻めにされるんだし、こっちもいくつか聞いたって問題はないだろう。そのときに少しずつ聞いてみるとしよう。




 しばらく衛兵に連れられて中庭と思しきとてつもなく広い庭園を歩いていると、その途中には太った老人・テレウスが立っていた。


「お約束どおり、城内をご案内いたします」

 いかがでしたでしょうか? 三目くん、なんだか正体不明のロボットみたいな扱いをされてる気がしますねえ。警戒心を隠そうともしないその姿勢、今に見てろよ……! と言いたいけど、どうなんでしょうね。では〜。

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