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異世界風土記〜諸国漫遊が仕事です〜  作者: 木桶 晴
1章 見知らぬ国と人々について
3/11

2. ガイダンス(資料配布もあるよ)

 こんちゃー木桶です。連続投稿2話目。なんかサクッと転移できると思ったら、主人公が慎重すぎて案外長くなりました。ざざっと読んで下され。以上なのです。では!

 ほーう、異世界……却下。アニメやらラノベで見たこと聞いたことはあるけど、そもそもその通りの異世界とは限らないわけだしリスキー過ぎ。それに今いる世界での扱いはどうなる。帰ってきたら自分の葬式やってるとか目も当てられない。

 とはいえ、断るのは少し聞いてからでもまだ遅くはない。なんなら覗くだけってのができるならそうさせてもらいたいくらいだし、土産に一つ異世界を覗かせてもらおうか。

 ……そういや、「行ってもらう」って、決定事項みたいな言い方されたが、男の子なら食いつくとでも思ったんだろうか。


「嫌です」


「ごめん、もう名前縛っちゃった」


 名前縛るっどういう……民俗学とかの本とかサイトを色々見てたし、名前が存在そのものを表す超大事な因子なのはわかる。呪術とかにも使われて……もしかして。


「帰してください」


「無理です☆」


 茶目っ気たっぷりにコイツは答えやがる。

 やっっっっっっぱり。横暴理不尽ひとでなし! 神なんてどいつもこいつもきっとこんなんばっかだ。きっとたまたまブチギレさせて殺されたりするんだ。……考えたくないけど、こいつ唯一神だったりするのかんだろうか。ほんと勘弁してください。


「ふざけんなよぉ……」


 もーやだよ。そもそも事前になんか言ってよ。あったらそれなりに、物理的にも心理的にも準備とかできたのに。ていうか自己紹介。あれがなければ名前縛られることもなく、こんなロクでもないことにならずに済んだのでは?


「え……そんなうずくまるほど嫌だった……? 男の子はみんなこういうの好きなもんかと」


 いやまあ非日常を求めてはいたけどさ、あのさ、そういうのじゃないんだよなあー……違うんだよなあ。もっと一か八かの大勝負とかが良かった。『俺は音楽で食っていく!』みたいな、そういう情熱的でランダム性の高い非日常に憧れてたんだけど。てかそれですら抵抗はあったんだけど。


「……まあもう諦めますけど」


 想像のつく範囲で何が起こるかわからない非日常が良かった。法則の外から来んなよ。カウンターどころかとんだラビットパンチじゃねえか。フィクション特有のものがリアルに起こると混乱すんだこっちは。


「お、諦めがいいねえー。まあ元気出せよ(しょう)


「お前が言うか」


 さっきの申し訳なさそうな態度から一転、そう雑に励ますと、ノルズルとやらは貴族が優雅にお辞儀をするかのように手を差し伸べてきた。この神様、救済とか審判とかそういうの全然向いてなさそう。……神様相手でも、こいつ相手なら思ったことをそのままぶつけてもいいような気がする。


「お兄さんが優しくエスコートしてあげるから」


「誘拐まがいじゃないですか」


 エスコートとか期待してませんので。お前のエスコートって強引に手引っ張って連れ回すだけだろ。……いやまあ一応神様だし、今はおどけてるだけだよねきっと。


「まーた減らず口を。ま、座ったまんまじゃなんだから」


「見聞きだけなら座ったままで構いませんか?」


「すっかり馴染んじゃって。いいよ。楽にしてよ。寝そべっても構わない」


 そこまでのつもりはないけど。まあ適当にあぐらでもかくか。この神様に礼節をどうこうする気になれない。もちろんある程度は常識的に接するつもりだけど、そんなに考えなくてもよさそうだ。


「ありがとうございます。失礼」


 さっきの緊張はどこへやら。というのも、正直もうわけわからないし多分帰れないのはどうしようもないから、脳みそが危機管理を放棄しているんだろう。頑張れ俺の扁桃体、と言いたところだが、頑張ってどうにかなりそうな問題でもないので、よく頑張った俺の扁桃体。


「はい、ではエスコートいたしまーーす。さっそくだけど聞きたいことある?」


 今度は『どう?』とでも言うように、右手のひらを上に向ける。下は海外の上品な家のあいさつみたいな、逆の方向の足を半歩後退させるポーズに変わりはない。

 この神様はどこまでこっちの……いや、もう俺の世界ではないのか。日本のことを知ってるんだろうか。ていうか、エスコート宣言の後に質問タイムって。エスコートってリクエスト制でしたっけ。


「人間っていますか? というか意思疎通が可能な生物というか」


「いるいる。端的に『人間』って言うとちょっと難しいけど、会話可能な人型動物はいるよ。他には?」


 なんだその反応。ノーマル『人』はいないのだろうか。それとも向こうの人は厳密には人間じゃないみたいな。想像の範疇だが。

 人型と言っても、もし異形だったら慣れるのに時間がかかりそうだ。っていうのもそうだし、個体差とかがあると猛獣と人間の区別がつかないみたいになったりしそうだから嬉しくはない。観察するのも面白いかもだけど、それは安全が保証されてからの話だ。


「なるほど…………概要を知らないと質問するのもあれなんで、なんとなく説明が欲しいです」


「うーーん要領を得ないなあ。どういうことを中心に……ってそれも概要知らないからきついかあ。じゃ、こっちで勝手に要点まとめるよ」


「お願いします」


 これからの自分の動きに関わってくる。しっかり聞いておこう……とは思うところだが、自分の主義として、誰かの話は半信半疑で聞くということにしている。大人な大人というのは案外少ないらしく、吟味してその通りにして、答え合わせもしたら中身が空とわかる、なんてことがある。

 たしかに正しい意見もあるが、それは大体『正しい場合がある』であって普遍的ではない。何考えているのか、大事な場合分けは説明せず、端的な言葉だけを伝えたりする。なんでそういうことするかな。いちいちやってられんていうのもわかるけど、子供にはそれなりの説明がほしいもんだ。


「ではまず、わかりやすいところからー。この世の中には主に4柱の神がいて、それぞれが4つの自由意志を持つ種族に対応しています。種族には人、獣人、エルフ、竜がいて、竜以外の三つの種族を総称して『人間』と言います。自由意志とかのことを話すと一応例外で魔人と神獣がいるけど、あいつらは少し事情が違うからここでは置いときます。祖先が違うと思っといて。ここまでで質問は?」


 そこから話し始めるのか。なるほど、根本から知れるのはいい。あんまり知らないと傍目(はため)から怪しいし。


「はい」


「はい! 三目くん!」


 教師然として振る舞おうとしているのか、特に意味のない挙手にいいリアクションをしてくる。これは教師と言うより、教師の真似をしておどけている同級生みたいだ。


「あなたはなんの神様なんですか?」


 いい質問だ、とばかりにウキウキで答える神様。


「私は人族の神様だよ。実は結構信仰厚かったりしちゃう」


 最後んとこはどうでも……良くないか。ちゃんと自分の行くところの民の、その思想の根幹を成している部分のことは知らないといけない。宗教なんてその最たるものだ。生活習慣から善悪まで、かなり広く関わっていく。


「教義とかあるんですか?」


 どうあっても、外様(とざま)の人間が受け入れられるのなんて時間がかかるに決まってる。ならばせめて郷に従うのは客人の義務ではないだろうか。自分が楽しむために、その環境を壊していいものじゃない。というか、壊したら自分にどんな報復が来るのやら。


「細かいとこはよく知らん。まあ大概は常識的さ。常に自問し、その心根は清くあれ、みたいな」


 顔の左で人差し指をくるくる回して答える。話すときに動き回るのは癖みたいなものなのだろうか。神様にもそういうのあるんだなあ。

 てかよく知らんってなんじゃ。おおかた常識的なのは大体の宗教だってそんな感じだ。もっとこっちの、というか日本の常識と大きく違う部分とかそういうのが知りたい。

 とはいえ、自分の世界の常識も微妙に知らない人にそんなこと聞いても比較できるわけないか。ではもっと大雑把な質問で。


「それぞれの種族特性とかってあるんですか? なんというか、体質みたいな。文化的にも身体的にも」


 せめてこれくらいは。それぞれの種族と関わるときに気を付けておかないといけないことというのはあるはずで、命に関わることもある。宗教国家なんかで異端扱いされたら死ねる。てか殺される、かも。

 まあ元の世界の歴史を見てても、悪目立ちするエピソードに宗教絡みの話は多い。全てがそうとは言わないが、やっぱり宗教というのは異端を認められないものなんだろう。少なくとも、勝手がわからないうちは警戒しとくに越したことはないか。


「何から説明したもんか……人は種族として結構ニュートラルなところにいるから一旦置いといて、獣人はなんというか、アメリカンって言葉がよく似合う。めっちゃ距離近い。あと賑やか。めっちゃ身体能力がやばい。ちなみにあそこの神はこえーぞー。

 エルフは基本見下してくる。直接そういう態度はとらんけど。あくまで村単位で生活してるからいつまでも他人行儀な奴ら。複雑な魔法が得意なのと宗教の話は厳禁。

 神獣は個体差があるから現地人に聞いて。竜と魔人は関わるな。以上!」


 最後に関わるなときたか。エルフも獣人もまあ想像してた通りな感じ。ただ、エルフは自分の知ってるあまり良くない側面がよく出ているように感じる。あと神獣。内情がわからないのが一番怖い。話を聞くまでは避けておこう。

 そして竜と魔人。そんなにやばいんだろうか。どちらも結構恐ろしい存在として描かれることも多いし、それに加えて、神様はそれらを人間と呼ばなかった。やはり根本的になにか違うのだろう。

 一息で大概言おうとしたことを言い終えたのか、腰に手を当て、いやに真面目な顔で周囲を見回している。なんかあるんだろ。俺には分からなくても。


「ありがとうございます」


 礼を言うと、ハッとした様子でこちらに目線を戻した。


「あーうん。あ、そうだ。配布資料があります」


 配布資料とは。それはそれは嬉しい。大変参考になる。これしきの情報量だと右も左もわからないところだった。


「でも忘れました!」



 ……やっぱコイツは当てにならん。

 いかがでしたでしょうか? 改題ですね。「2. ガイダンス(配布資料ないです)」。うむ、じゃあ言うなよ。まあこの神様だしこんなもんでしょう。それはそうと、少しでも面白いと思ってくれたなら評価とかブクマ、「面白かった!」みたいなコメントいただけると励みになります。具体的には投稿頻度が上がります。ではまた!

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