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19 幕間 - 代々木にて

この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・宗教・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


 



 高い壁に囲まれた代々木の封鎖区域。

 敷地の中央からやや西寄りに存在するのは、かまぼこ型の体育館を思わせる大きな建物。

 内部には監視所を始め、武器保管室や防疫設備、シャワー室など。

 さらに中はごちゃごちゃとモニターや計測機器などが至るところに設えられている。そして、そのごちゃごちゃとした機械装置の一つ──『(ゲート)』の向こうに、幅40メートルほどの穴がぽっかりと口を開けていた。緩やかに地下に向かう勾配。左右に連なる照明が奥へ奥へと誘っているかのようだった。


    ◆


 ゲート横のカウンターに並べられた日本刀を、集まっていた13人のうち10人が受け取り、各々スラリと抜き放った。

「すごい! 抜いたら軽くなりましたよ!」

 若い自衛官が驚きを素直に口にした。

「新潟ー長野間の[異境]から持ち帰った素材を配合した新しい合金らしい。実際のところ重量は変わっていないということだが⋯⋯明らかに剣速も上がっているし、どうなってるんだろうな」

 上段に構えた刀を腰を落とすと同時に、えいやと振り下ろしつつ、別の自衛官が答える。

 速さと重さを両立させた刀は定寸(じょうすん)──二尺三寸五分(約71cm)だが、重ねが非常に厚く、根元部分で四分(約1.1cm)もある。「鎧通し(づくり)」と呼ばれる短刀並の厚みがあった。

「よっし! いいか」

 全体の様子を見ていた自衛官が、手を二度打って注目を集める。

「今回、この臨時編成部隊二班(ふたはん)の指揮を取る戸舘(とだて)だ。よろしく」

 見た目の印象に反して明るい口調でそう挨拶する戸舘に軽い笑いが起こった。

「みんな知ってますよ、戸舘二尉。何度目ですかその自己紹介。というか僕たちはどう反応するのが正解なんです?」

 困ったように眉を下げてそう言う若者に、戸舘は「名前を忘れられないためにはこまめな挨拶は基本です」などと笑顔を見せた。

 この若者をはじめ、自衛隊所属ではない人員に対する戸舘の気遣いでもあった。

「今日これより迷宮第二層にて新装備と連携の確認。問題がなければ明日(あす)、三層から四層に出没する〈不明生物〉の討伐に参加する。中隊規模での合同ミッションになる、今日は確認だけとはいえ、各自気を抜かぬように」

 臨時編成部隊二班、12名の中には自衛官のほかに、神道流の剣術家2名と、僧侶が2名、それから神主が1名組み込まれている。(はた)から見たら奇妙な部隊だろう。

 順にゲートを潜り、迷宮の奥へと進発する彼らを、軽く手を挙げて見送った犬養猿彦(いぬかいさるひこ)は、胸ポケットに引っ掛けたサングラスを取り出しつつ踵を返した。


    ▼


 外へ出る前にサングラスをかける。五十絡みの、派手なシャツとスーツを着た犬養は、どこぞの組長と言われても違和感ない。が一応、彼も坊さんのひとりだった。

 侵入口詰所(ゲートハウス)を出ると、犬養はサングラスの奥から辺りを忙しなく窺った。一つ鼻を鳴らすと歩き出しつつ上空を見上げる。

 さっき確かに結界が揺れた。

 (かす)かな干渉の波を感じた。

 この封鎖区域にいるどれだけの人間が感じ取れただろうか。

 犬養は歩を進め、営庭に佇む法衣姿の男に近づいた。剃髪の丸い後頭部に声をかける。

「視られていたか?」

「そのようで」

「人か?」

「そのようで」

 法衣の男は犬養より二十近く若く見えるが、二人の関係が気安いものであることが見て取れた。

「どっからかわかったか?」

「あの飛んでおる鉄の箱のどれかでしょう」

「お前の【菩薩眼】でも相手を見透すことはできんかったか」

「すぐに向こうも気付いて視るのをやめたようですしね⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯待て」

「お? 何かわかったかっ」

「いや違う、なんですか【菩薩眼】て」

「ああ? なんでも見透す菩薩の眼。お前のチカラのことだろうがよ」

「昨日までは千里眼だったと思いましたが?」

「なんだ聞いてねえのか? 術の編纂を進めてるお前んとこの若い奴らがそんな記述を見つけたらしい。名前だけで詳しいことは何も分からねえってんで、じゃあお前のチカラの名称にしちまおうってな。要するに菩薩眼の方がカッコイイってことでよ」

「⋯⋯かっこいい⋯⋯って、そんな理由ですか」

「後に続く者らの目標や憧れになるヤツが今は一人でも多く必要なのさ、司箭(しせん)

「非常識も甚だしいのが二人もいるでしょう」

「足りねぇなァ。ぜんぜん足りねえ」

「私にもなれと?」

「神職、僧職など、この国の仏教、密教、神道、修験道、陰陽道、道教、忍術、呪術もろもろの信仰、知識を継いだ者たち合わせて現在およそ30万人。そのうち最初から術の行使が可能な者がたったの30人にも満たず、教え込めば術を行使し得ると思われる霊力を備えた者が3000人あまり。[異境]が広がり続けている今、人材の育成は急務。えーと、あとなんだっけか、政府の役人が言ってた、あー⋯⋯んー?」

「もういいです」

「ちょっとでも育成が捗るならなんでもやるってこった。カッコイイ名前だって付ける。実際それで士気は上がってるしなァ。意外なことに若い奴らだけでもねえ。お前がアイツらを引き上げるキッカケになるのなら、それは良いことだ」

「はいはいわかった、わかってます」

「わかりゃいい。⋯⋯⋯⋯視てたのはどんなヤツかなァ」

「私と類する力を感じましたが⋯⋯⋯⋯」

「やっぱ即戦力を見っけるんなら市井(しせい)からってことかねえ」

「さて?」

 二人並んだまま改めて空を見上げた。

「私は術の編纂作業に戻ります。あなたは?」

「おう、俺はこれから内調のお手伝いで日直(ひじか)の野郎にくっついて九州だ」

「チカラを犯罪に利用する者も増えていると聞きます。くれぐれも気をつけて」

「おう、お前がこないだ見つけた〈孔雀咒(くじゃくしゅ)〉の具合も確かめられっかもなァ」

「あまり調子に乗らないようお願いしますよ」

「お前は俺のカミさんか」

「おぞましいこと言わないで下さい。あ、吐きそう」

「ぶっとばすぞ」






GLOSSARY

 -用語集-


● 試作超新刀・(ツバメ)  武器

  含有率9%未満の灰銀(ミスリル)合金製。


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