表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/63

01 哀歌

注 これは青春小説です。

Q 青春小説ってなーに?

A 恋や友情、出会いと別れ。仲間と共に困難に立ち向かい、壁にぶつかり、問題を乗り越え、そしてやたら映画や音楽や名言を引用し絡めてポエミーに語られる(偏見!)アレである。

これもそのアレな感じでがんばります。(もちろん歌詞は載せません)

この物語はフィクションです。







 アイツが消えた。

 自らそれを選んだらしい。

 アイツが死んだ。

 ヒドイありさま、だったらしい。

 なんでだよ、あんのバカやろう。


    ◆


 ――時々思うのさ、何のために生きるのか?

 ぼそり呟いたアイツを想った。

 何のために。

 生きる意味。

 そんなフレーズを最近よく聞く。ドラマや小説、流行りの曲なんかで、目にし、耳にする。それは思わぬ形でアイツから問題提起され、俺の意識が変わったせいなのだろうか。それとも、世間がそうなった(・・・)のか。そうだった(・・・)のか。

 アイツの呟きは、俺にそれなりの衝撃を与えていたのかもしれない。いや、それを聞いた当時、俺は何も思わなかったはずだ。たぶん、アイツの死という衝撃と一緒にやってきたんだ。

 これまで見ることのなかった、疑問にも思わなかった事柄が、アイツが消えると同時に目の前に現れた。

 何のために生きている?

 生きる意味ってなんだ?

 周りの人にも聞いてみた。

「男の悪い癖ね。そんなことウジウジ考えて」

「そう? 女は違う?」

「そうね。女は、子供を産むから。いずれ意味を見出すわ。でも男は……いつまでも子供だっていうしね。まあそこが可愛いんだけど」

 彼女の言葉はそれなりの説得力があったんじゃないかと思う。ただし、泥棒ヒゲで筋肉のえぐい、マジなのかファッションなのか不明のオネエさんじゃなければだけど。

 駅前商店街にある古本屋の頑固店主に聞いた時はこうだった。

「ああ? 生きる意味ぃ? 何のためにだぁ? 馬鹿かおめぇは。そんなもん生きるために生きるに決まってる」

 大丈夫かコイツ、という目で見られながら、間違ってはいないのだろうと思った。

 でも……。

 何のために、や、生きる意味、そういったワードを頻繁に目にするようになったのは、自身が過敏になっているせいもあるんだろうが、でも実際そうして発信している人たちはいる。誰もが自然におっさんの言葉が正しいと、疑いなく理解してるなら、アイツは死んだりしなかった。

 おっさんは長く物のない場所を放浪していたというから、そんな経験に基づいての言葉なのかもしれない。

 ただ、今の時代、この国にはどうか。不景気に喘ぎながら、飽食の時代といわれる今に即しているのか。

 結局、俺には答えがわからない。

「まさかおめぇ、そんなこと聞いて回ってんのか? 恥ずかしいからほどほどにしておけよ」

 恥ずかしいことらしい。それで誰かに訊くのはやめた。

 でも、それから常に疑問は心の(うち)にわだかまり続けてる。忘れることもできやしない。以前の自分には戻れない。

 なんだかやけに……息苦しくて、生き苦しい。


    ◆


 アイツが死んだ。

 自らそれを、選んだらしい。

 なんでだよ、あんのアホタレが。


 なんで、何も話してくれなかったんだろう。

 話したところで理解できないと思われていたのか。

 お前の世界は、そんなに生き辛いものだったのか?

 誰だって何かを抱えてる。

 俺だって生き溺れ続けてる。

 お前の世界は、それほど価値のないものだったか?

 あっさりと捨て去ってしまえるほどに。


 アイツが死んだ。

 それからもう何年が経った?

 未だ思わずにはいられない。

 ばかやろう……なんで……。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ