表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

ゴシップと王女

よろしくお願いします。

相も変わらず設定緩いです。ご了承下さい。

 



 読み物も、作劇も、恋愛物の数は多いですわ。

 この国ピッツアードでもありきたりな恋愛ものが流行っています。それは今も続いているロングセラー。


 とある男爵令嬢が王子様と運命的な出会いをして、逆風に吹かれながらも王子への愛を貫き王妃になるという物語。


 わたくしの両親の話ですわ。

 国内にある学園で出逢った二人は、周りに祝福されながら(の反対を押しきり)、婚約者は進んで辞退し(を蹴落とし)愛の結晶が生まれ(婚前交渉で諦めさせ)結婚に至りました。

 ちなみにこの話を他国ですると『そんなことあり得ないでしょ』と返されますの。



 なぜですって?()()()男爵令嬢が王子様と結婚できないからですわ。

 どんなに低くても伯爵位までという習わしですし、もし仮に、まかり間違って下位貴族の場合は見合う爵位の貴族へ養女となるのが通例ですから。


 王妃になる令嬢の家の爵位が低いと後ろ盾がつきづらく、派閥としても色々と支障が出やすいのです。

 だというのに両親は真実の愛に酔いしれ、男爵令嬢のまま結婚しました。


 市民はまるでお伽噺のようだとさえずり『素敵な恋愛をした二人』として噂を広めました。

 その途中、どこかで噂がねじ曲がったようで男爵令嬢は元平民ないし平民のような男爵令嬢となっていました。


 平民に恋をする王子、という噂は瞬く間に広がりました。貴族の間では醜聞だと騒がれましたが、そんな王子に民衆は憧れ、誉めそやしました。


 治世を維持するために王である祖父は、両親の結婚は〝噂込み〟で王家も大々的に認めると公布したのです。そのお陰で王家は民衆の支持を増やしました。


 本や劇が長年続けられるのも王家からの出資もあったからと噂されているくらいです。


 そして生まれた子供は民と貴族を繋ぐ象徴だと喜ばれ、後継者の王子が生まれればきっと両親のような素晴らしい恋愛を経て国をもっと豊かにしてくれるだろう、と尊ばれました。


 それはとても幸せな家族の形でした。




 ◇◇◇




「あらあら。何やってるのかしら。あの方々ったら」


 眺めていた書類を見てわたくしドロシーは死んだような目で失笑しました。その瞬間を侍女は見ていましたが素知らぬ顔をして立っています。


 今読んでいるのは母国ピッツァードのゴシップ紙。

 本来ならこんなものを手にしただけでお叱りを受けますが、現在お小言を言う者はいないのでゆっくりと読んでいるところです。


 ゴシップが書ける国はそれなりに裕福な者と刺激を求めている者が居なくては成立しません。わたくしは情報収集兼ねてですが後者と言って良いでしょう。

 貴族では知らないことや珍しいことが面白おかしく書かれているのでいけないと思っても読んでしまうのです。


 今日もウキウキと読んでいたら我が王家の話が最初に目に入って思わず声をあげてしまいました。

 ゴシップというと大抵は悪い噂が書かれています。わたくしもよく書かれていましたわ。


『あんな素晴らしい国王夫妻(両親)がいるのに恋愛がわからず、婚約者に捨てられた可哀想な王女様』


『悉く婚約が破談になり国内で結婚するのは絶望的。行き遅れになる前に誰か王女様に恋愛を教えてあげて!』


『王女様、とうとう国外へ。留学と言われているがきっと結婚相手探しでしょうね。適齢期の間にお相手が見つかることを祈りましょう』


 同情と揶揄をない交ぜにした下品なゴシップ紙はそれなりに売れたそうです。ですがわたくしは前座でしかありません。

 誰もが気になる本命は王妃である母と、王子妃なのですから。


『創作のような恋愛劇は嘘?!王家は民衆が羨む幸せ家族どころかドロドロ不倫劇だった?!』


 というタイトルで始まった文章を王家の人達(家族)はどう思っているのでしょうね。



 大恋愛で結婚した両親はわたくしドロシーを産んだ後、弟オーウェンを産みました。

 戦争も天災もなかったお陰でわたくし達はすくすく育ち、弟はすんなり王太子となり、最近結婚しました。ええ、わたくしよりも早く。


 弟も大恋愛の果ての(ということになっている)結婚で、続編として書かれた本や劇は売り出すのを今か今かと待っている状態らしいです。

 噂ではシンデレラストーリーを二代続けて成し遂げた王妃と王子妃の絵姿の商品も記念にいくつか販売されるとのこと。


 普通は王と王妃、王子と王子妃の絵姿を売るのでしょうが、王妃たっての希望で実現したそうです。

 なんでも友達のように仲のよい義娘と記念に形になるものを残して後世に伝えたいのだとか。


 重複しますがシンデレラストーリーは義妹である王子妃『も』でした。

 彼女は元子爵令嬢です。王妃母よりは一つ上ですが王家と結婚するにはやはり爵位が足りません。


 しかし相変わらず市民受けはいいと聞きます。

 貴族には受けが悪くとも市民にとっては自分達の心がわかる王妃様、王子妃様。

 貴族の中でもっとも慕われている二人は、下手をすると国王よりも名を知られているかもしれません。


 そうして公式の場では四人仲良く並んでお披露目をされているそうです。二組の夫婦は幸せそのもので、誰もが羨むほど仲睦まじいものに見えたと思います。



 さて、これのどこに不倫があるのか。ゴシップではこう書き記してあります。


『王子妃は王妃を嫌っていて、表立って苛められないから国王にすり寄りあることないことをベッドの中で囁いている』


『王妃は心を痛め毎日泣いている。王子妃が子供が流れたのはお前のせいだと詰ったのだ。大切な息子と義娘の子供を流させるなんてありえない!王子妃の狂言か?』


『どうやら国王は王妃を疎んでいて、後宮に女達を侍らせ市民に愛された王妃を悲しませている。その愛人の中には王子妃の姿も』


 あらあら。これはまた品のない内容ですこと。大抵は検閲するでしょうに誰も止めなかったのかしら?

 わたくしのはわざと流されたけれど、王妃と王子妃はさすがに面子が潰れるのでは?

 きっと完売御礼でしょうし回収は無理でしょうね。そう考えますと側近達は大変ねぇ。首が飛ばなければ良いのだけど。


 今回は王子のものはありませんでしたが以前あったのは同性愛者だとか暴力夫だといった心無いものでした。勿論事実ではありません。


 市井では王妃を虐げる悪人として国王の悪口を隠さず言う者が増えているそうです。


 警備兵も最初は捕まえていましたが、あまりにも人数が多くなり、だんだん警備兵達も連日聞かされる可哀想な噂に王妃に同情してしまったそうです。

 そのため噂に歯止めをかける者が日に日に減ってしまっているとか。


 王家に身の置き場のない可哀想な王妃様。

 可愛がっていた義娘に裏切られた不憫な王妃様。

 権力を振りかざし、本来結ばれる婚約者を切り捨て嫌がる王妃と結婚したくせにちゃんと愛してやらない王は夫失格だ。


 もっとちゃんと愛してやれ!と市民が口々に不満を吐き出していましたが、徐々に貴族間でもそんな噂が浸透しだしていると言います。


 そんな噂を聞いた王妃は『そんな根も葉もない噂がどうして囁かれているのかしら』と、とても心を痛めているそうです。

 体裁程度に犯人探しをしているようですが、今のところ見つかっていないみたいです。本気で探す気はあるのでしょうか。



 そんな折に母から手紙が届きました。

 内容は『あの人(国王)が閨を共にしてくれないの。どうしたら良いと思う?』という明け透けな出だしで始まり、嫁姑問題が勃発していてみんな若い王子妃に絆され味方がいないという話。

 王子妃に妊娠の兆しがまったくなくもしかしたら石女(うまずめ)かもしれない!ああ!王子が可哀想!!と書き綴ってありました。


 あらあら。手紙までゴシップに見えてきましたわ。

 妊娠のタイミングなぞ人それぞれでしょうに。誰かさんみたいに結婚前に妊娠する方がありえないと思いますけど。

 というか、閨に妊娠ってわたくしへの嫌味かしら?


「未だに未婚のわたくしに閨の話を聞かれても困りますわ、と返したくなるのは心が狭いせいかしら?」

「いいえ。そんなことはないかと」


 ぼやけば手紙を持ってきてくれた執事が答えてくれました。



 これは大事なことなのですが、母親と義妹はとても仲が良いのです。本物の親子か姉妹のようにとても似ています。

 なにせ実の娘を差し置いて二人の絵姿の商品を出すくらいですし。あらやだ。つまらない嫉妬が出てしまいましたわ。


 寄越された報告書を見る限り、表向きは相変わらずとても仲良くしていますし、裏でもそこまで周りが引くような口喧嘩もしていません。

 なのでこちらとしては『ご自分達でどうにかなさったら?』としか言えません。

 母の内容は夫婦同士、嫁姑同士で解決すべきものです。外野が割り込めばいらぬ火の粉が飛んでくるだけ。


 面倒ですがもうしばらく様子を見ましょうか。と手紙と報告書をテーブルの上に放ったのでした。



 次に母から手紙が届いたのは報告書と同時でした。

 今度は子供を作れない王子妃に弟がキレて連日ケンカをしているそうです。

 母は()()()()諌めようと頑張っていますが父は非協力的で、王子には『夫婦のことだから』と突っぱねられると嘆いています。

 王子妃にも『おばさんが余計なことをしないで』と口汚く罵られ姑いびりをすると。だからドロシーからも何とか言ってやってほしいと書いてありました。


 ……何を仰いますやら。

 そもそも義妹を選んだのは母ですのに。


 王家に仕える重鎮達が今後を見据えて弟の婚約者に公爵令嬢を選んでも絶対に首を縦に振らなかった母。

 候補ですらなかった子爵令嬢を選び、ならばと高位貴族への養女の話をしても受け入れず、後ろ盾がないことを『しがらみに囚われないクリーンな令嬢』だと言いきった母。


 何度でも言いましょう。

 選・ん・だ・の・は・()()なのです。


 そして手元に寄せられた報告書によれば弟と義妹の仲は極々普通で、物を壊すようなケンカもヒステリーを起こしていびり倒す王子妃もいないそうです。

 子爵令嬢なので育ちはまあまあアレだそうですが。


 王家を揺るがすケンカをしていると危機感を覚えているのは母親の頭の中だけなのです。



「まあ、期待はしていませんでしたが、やはりわたくしの誕生日を忘れているのですね」


 ご自分は大々的にパーティーを開いて父や弟達からたくさんのプレゼントを貰ったと細々と自慢げに書かれていましたのに。

 わたくしもプレゼントを贈ったはずなのに、その他大勢に紛れたのかお礼の手紙すらないのには少々呆れましてよ?

 同じくパーティーを大々的にしてもらった王子妃にもプレゼントを贈りましたら(簡素ですが)お礼カードが届いたというのに。


 あら。わたくしの方が小姑みたいかしら?



 更に後日、また母からの手紙が届きました。毎度毎度分厚い紙の束(すべて愚痴)ですけどお暇なのかしら?

 内容は『離縁させられそうだから母を助けてほしい!わたくしはあの人を愛しているのに何でわかってくださらないの?!』という嘆きの手紙でした。


 連日王子妃に苛められ、息子である王子は嫁に洗脳され母親を冷たくあしらうのだそうです。

『父と王子妃が同じ部屋に入って行くのを見たのに誰も信じてくれない!わたくしの味方はドロシーだけよ!だから戻ってきて!』と如何にも感情が昂って震えた文字に思わず鼻で笑ってしまいました。



 更に更に後日、またまた母親の手紙と今度は父親から手紙が届きました。初めてのことで少し驚きました。


『留学など無駄なことは止めて帰ってきなさい。王妃がお前を心配して毎晩泣いている。

 今度オーウェンの誕生パーティーがある。それに合わせて帰ってくること。お前の母親なのだから娘のお前がなんとかしなさい。

 いつまでも逃げていないで、いい加減王女の役目を果たせ』


 だそうです。

 はあ。留学が無駄ときましたか。用意された婚約を悉く破棄されて傷を負ったわたくしが逃げていると。お父様はそう仰るのね。


 お母様がわたくしを心配して毎晩泣いている??留学してもう四年も経つのに何で今頃心配しているのかしらね?

 手紙ではわたくしを慮る言葉などひとつもありませんでしたが。


 報告書でも義妹が「早くお義姉様帰ってこないかしら。お義姉様がいないとお義母様が鬱陶しいのよね~」と頻繁に呟いているらしいです。


 あの人達はわたくしに何をしたのか覚えていないのかしら?


「はぁ、困った人達ですわね」


 頬に手をあて溜め息を吐けば猫が欠伸をかいていました。



 更に更に更に後日。母と父からの手紙が同時に届きました。どうやらわたくしが送った荷物が届いたようです。


 実はわたくし、留学してから執筆活動を始めまして先日やっと一冊の本にまとめ出版することになりましたの。留学先の国ではもう発売されていて売り上げは好調のようです。

 もう少し売り上げが伸びればピッツアードの言語でも出版出来るのですが、それは追々という話だったのでとりあえず両親と弟夫婦にシュバリエ版を送ってみましたわ。


 てっきり読まずに本棚の肥やしになるかと思いましたが、年を跨がずに読まれるとは驚きでした。



「あらあら。まあまあ、」


 コロコロと笑えば斜め前のソファに座っていた彼がどうした?と聞いてきたので手紙を見せて差し上げましたわ。


両親(二人)がここまで気が合ったのは久しぶりなんじゃないかしら?」


 手紙に書かれていたのは『今すぐ販売を止めろ。なんという物を世に放ったんだ!王家の恥晒しめ!』という激励(苦情)でした。

 おかしいですわね。わたくしは本当のことしか書いてませんのに。なぜ罵られなくてはならないのかしら?



「〝男爵王女〟というタイトルが良くなかったのかしら?」

「……違うと思うぞ」


 ですわよね。なにせ男爵王女は『わたくしの蔑称』ですもの。


 それから母親からは、

『わたくし達があなたを傷つけてるとは知らなかったの。ごめんなさい。早く国に帰ってきて。久しぶりにあなたの顔が見たいわ』

 と涙が滲んだ読みにくい文字で書かれていました。


 つい最近帰国して参加した弟の誕生パーティーのことをもうお忘れになったのかしら?

 謝罪の言葉はあの時に聞きたかったですわ。だって今更謝られてもその場凌ぎの詭弁にしか聞こえませんもの。


 本当、両親揃って何を今更叫んでいるのでしょうね。わたくしに文句を言う前にご自分達の周りをよく見た方がよろしいんではなくて?





読んでいただきありがとうございます。


誤字連絡ありがとうございます!助かります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ