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五人のメイドと面倒な事件簿  作者: 杉村雪良
メイドが映画のメイドに憧れる面倒な事件
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メイドが映画のメイドに憧れる面倒な事件 9(後日談)

 かくして、管理棟の入り口からフランスの国旗は取り払われ、午後のエスプレッソは紅茶に戻り、食卓は和食中心の献立に戻った。フランス料理も十分堪能させてもらったが、やはり慣れた味噌醤油の味は故郷に戻ったような安心感があった。


 花見の前日の夕食後、団子を作るA田だけでなく、I海さんもキッチンに立ち何やら料理していた。I海さんの包丁の音が、心なしか軽くなったように聞こえた。

 担当に任命されたわけではなかったが、I海さんはできあがった大量の料理を花見に持ち込んだ。重箱の中身は、筑前煮、野菜入りの玉子焼き、おでん、酢の物、一夜漬けなどなどだった。A田の団子は大好評だったし、予定になかったI海さんの料理もそれに負けず喜ばれた。

 おかげで参加した人たちは食が進み、そのため飲み物も進み、気を利かせた人たちが飲み物をどんどん追加して、恒例の花見は例年よりも更に盛り上がった。

 

 見ていると、I海さん自身はあまり食べ物に手を付けていないようだった。やはりある程度節制しているのかもしれない。その代わり、かどうかわからないが、他の参加者に取り分ける役を積極的に買って出て、行き渡っていないものがあれば声をかけたりして、皆が食べるように勧めている。

 輪から抜け出して一息ついていると、I海さんが楚々と寄ってきた。旦那様召し上がってないでしょ、と取り皿に取り分けた筑前煮を勧めてくれる。I海さんの手料理はこの機会でなくても家で食べられるので、と遠慮しようと思ったがせっかくなのでありがたくいただく。

 さすが安定のおいしさですとつまんでいると、遠慮しないでもっと召し上がってね、と、お替りをどんどん盛ってくる。

「ちょ、ちょっと、もうあっちで焼きそばだの焼き鳥だのいただいたんで、腹一杯なんですよ」

「あらー、だめよ。もっと召し上がっていただかないと」

 皿が空くやいなや追加するので、だんだん筑前煮が椀子蕎麦のようになってくる。

「何考えてるんですか、I海さん」

「私ね、なかなか痩せないから、考え方を変えて、他の人に太っていただくことにしたの」

「は?」

「他の人が太れば、相対的に私が痩せたことになるでしょ? いくらジムに行っても全然体形が戻らないから、いっそのことそうしようって思ったの。途中から、夕食までフランス料理にしたのはそのためよ。みんな、献立が和食中心からフレンチになったことばっかり気を取られて、量が増えたことにはさほど注意しなかったでしょ。きっと旦那さまも、徐々に体重が増えてるはずよ。今日もたくさんお料理作ってきたから、たくさん召し上がってね。旦那様には、特に太っていただかないと」

 その行動に意味があるかどうか私にはわからないが、I海さんの目は笑っていなかったので、しばらく私の茶碗は山盛りになるだろうなという直感はあった。


 おかげで私はその後しばらく東町のジムに通う羽目になった。I海さんは私に付き合うという体で堂々とジムに同行し、半年ほど後でメイド服は無事発注された。あらためて五人が話し合って決めたのは、やはりそれまで使っていたものと同じメイド服の継続だった。

 それ以来エスプレッソマシンはそのまましまわずにおいたし、週に一度くらいは朝食がクロワッサンの日が混ざるようになった。


 *


 読者の皆様の周りでも、紅茶派の方が突然コーヒー派に転身するようなことがあれば、そこには意外な理由が隠されているかもしれない。その場合、本人に尋ねてもごまかすだろうから、それ以上深入りするべきかどうかはそれぞれの判断だろう。ただ、ご自分の体重は毎日量っておいた方が良いかもしれない。

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