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五人のメイドと面倒な事件簿  作者: 杉村雪良
メイドが見学される面倒な事件
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メイドが見学される面倒な事件 4

 4

彼女の「見学」中 、I海さんがご令嬢に手づくりのチラシを見せてささやかなイベントに誘った時のことである。

「日曜日は、見学ツアーをやるのよ。説明をしながら館の見学者さん達と一緒に本館とお庭を回るの。いらっしゃらない?」

 しかし、令嬢は首を横に振った。

「せっかくですけど、土曜日と日曜日は時間が空けられないのです。」

「平日は来客も少ないし、暇ですよ。いつも平日にばかりいらっしゃるのを減らして、その分土日にいらしたらいかがですか」

 私が横から提案すると、

「習い事がたくさんあって、朝から晩まで決まってしまっているのです。もともと平日に予定されていた分も、今回の見学のために土日に変更していただいていますし、夏休み期間は両親と一緒に会食やパーティーなどにも出席しなければなりませんので。両親に、私のことで恥をかかせるわけにはまいりませんから」

とおよそ小学生らしからぬ予定を紹介してくれたので、私からはそれ以上何も言えなかった。

 彼女は大人に混じって、大人の期待を背負って生きている。兄たちも実に立派な人物たちで、きょうだいで唯一の女性であるということも、きっと彼女にいろいろなものを背負わせているだろうことは想像に難くない。

「そう、それでは仕方ないわね」

「いえ。でもお誘いありがとうございます」

 I海さんの少しだけ残念そうな表情を見て、一言礼を付け加えるという配慮ができるというところが、彼女が年の割に人間ができている所だとは思う。

 ただ、この話だけではなく、平日に何か誘っても、部屋の外に出る話には全く乗らなかったのは不思議だった。


 メイド達はというと、ご令嬢が見学に来ている間は明らかにいつもと様子が違った。

 Fヶ崎はご令嬢が来る時間になると急に掃除を始め、しかもいつも円く掃いている廊下を隅まできちんと掃いたり、普段拭かないようなところまで拭いたり、はては多少見栄えのするような食器を倉庫から引っ張り出してはきれいに磨いたりしていた。

  A田はクッキーだのビスケットだのを焼き、お茶に添えた。ついでに他の見学客にも振舞って、怪訝な顔をされていた。五人のメイド達は働きながら、もしくは働くふりをしながら、ちらちらとご令嬢の様子をうかがっている。目が合うたびにご令嬢は首を少し傾げて会釈を送る。するとメイドは、えへへとか何とかおかしな声を発して視線を逸らして作業に戻る。

 K条はむやみに電卓をたたいたり忙しそうに伝票を日付順に並べたりしていた。

 U月は、子供用のメイド服をどこかからか見つけてきて、「ゆかりお嬢様、これ着てみません? いろいろ教えますので、メイド体験しましょうよ」と提案していた。

 I海さんに「お嬢さんにはメイド服なんて」とたしなめられていたが、

「でも最近は、良家のお子さんも社会勉強のために短期間メイドや執事をされるらしいですよ。それに何より、似合いそうじゃありません?」

 二秒ほどの沈黙は、他のメイド達が一斉に、見目麗しいご令嬢が可愛らしいメイド服に身を包んだ様を想像したために発生したのかもしれない。

 だがそれもご令嬢本人の

「ええ、父も、いずれはそんな体験もと申しておりましたが、今回はお気持ちだけいただくことにしておきます」

というやんわりとした断りで終了となった。

 U月はそれほど固執していなかったのか、

「そうですか」

と言って終わりになったが、かえって他のメイド達はご令嬢のメイド服姿を惜しそうにしていた。

 

 だがメイド達の張り切りはそれほど長く続かなかった。我が家はもともと見学者も少なく、かといって他に商売をしているわけではなかったので、メイド達には、張り切るような仕事はそれほどなかった。本館の受付には誰かが立っていたほうがいい、という程度で、その他特にやるべき仕事がなければ、エアコンの利いた事務室の応接セットでお茶と雑談にいそしんでいても、私も小言の言いようがなかった。

 ご令嬢はそんな時でも自分の決めた特等席に静かに座っていた。せっかく見学に来てもこんな様子では呆れてしまうのではないかと思ったが、特に何か言う訳でもなく、表情を変えることもなく、ただ行儀よく座ってじっとしていた。

 

 ご令嬢の、メイド達の会話に対する反応にも多少妙な点が見られた。

 彼女は基本的に「見学」の間は黙っており、メイド達のとりとめもない雑談を聞いているのかいないのかわからなかった。話しかけられれば当たり前の受け答えはするが、そうでもなければ積極的に会話に参加することはせず、皆が笑うような話でも申し訳程度に笑うだけで、それもなぜか少し遅れて笑顔を浮かべたりするのだった。

 

「今の小学校って、どんな授業をしているの?」

と誰かが尋ねると、すべての小学校が、特に公立私立に関わらず同じかどうかは把握していませんが、と前置きしたうえで、自分の学校の時間割についていろいろ教えてくれた。

「私のころとはだいぶ違うわね」

 I海さんが驚いたような呆れたような声を出した。

「そのようですね。学習指導要領は定期的に改訂されているようですし。もっとも国語とか算数などは変わらないと思いますが」

 ご令嬢は学習指導要領の動向まで気にしているようだ。

「全然関係ないですけど」U月が、思い出したように言う。「大学の時に、『犯罪学』って言う講義があったんですけど、わたし、あれのことをずっと犯罪のやり方の講義だと思ってました」

 一瞬間を置いて、Fヶ崎が聞き返す

「泥棒のやり方の授業とか、ってこと?」

「そう。だから法学部って怖いところだと思ってた」

 真面目な顔のU月を中心に、他の四人のメイドが一斉に笑う。

「嘘でしょ!?」

「大学生なのにそれは……」

「笑っちゃ悪いけどそれは笑っちゃうわね」

 しかしご令嬢はピクリともせず、まっすぐ前を向いたまま黙っていた。大学の話なのでわかりにくいのかもしれないと思ったが、そうでもないことはすぐにわかった。

「『来週は詐欺のやり方です』とかね」

 笑いは下火になったが、メイド達の気に行ったと見えて話は続いていた。

「じゃあそのうち小学校でも犯罪の授業をやるようになるかもねー。『たのしいはんざい』とか」

「そんなまさか」

 Fヶ崎とI海さんがそんなやり取りをしたところで、笑い声がひと段落つく。

「大学って、変わった授業も多かったですけどね」

 K条の言葉は話を続けるともまとめるともつかず、中途半端な状態になる。一度笑いが起こった後なので、それが収まるとかえって静かさが強調される。沈黙が漂う。

 だがその中にくっくっと聞いたことのない音が混じった。

 皆の視線が音の出所を探す。ご令嬢が、両手で口をおさえて笑いを噛み殺していた。周りの視線に気づいても、どうしてもその笑いを抑えることができないらしく、

「ご、ごめんなさい、ちょっと可笑しくて」

と苦しんでいた。

 皆が笑ったところで笑わず、笑いが盛り下がって話の谷間になったところでの失笑だったので、メイド達は不思議そうに彼女を見ていた。その後もこれに類することが何度かあった。U月はメイド達の中でも他と違う感性を持っていて、他人が何とも思わないところで良く笑ったりするのだが、ご令嬢の場合もそれに似て、人と笑いの基準が違うのかもしれない、とその時は特に気にもしなかったのだった。

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