メイドが鉢植えを愛でる面倒な事件2(解決編)
「U月、それならそうと言ってくれよ」
「何のことですか?」
朝方庭に出ると、やはりU月は寒桜の棚の前で掃除をしていた。
「鉢植えだよ。わざわざここに持って来た理由さ。偶然だけど、昨日やっとわかったんだ」
「ここだけ、前から寂しいと思っていたんですよ」
「そうじゃないだろ。本当のことを言いなよ。ここに、こんな高い棚に乗せたら、しかも庭木が途切れているここなら、外の通りからもこの桜が塀越しによく見える。そしてこの塀の向こうの通りは……」
私の声をかき消すように、若くて賑やかな声が塀の向こうの通りから飛び込んでくる。
「あっ、ほんとだ。ここ、桜が咲いてる!」
「わーっ、もうサクラサクじゃん! いいもの見た!」
「あたし、明後日第一志望の試験なんだ! すっごい縁起いいよ! なんか勇気でた!」
U月は満足そうに目を閉じる。
私は言葉を続ける。
「……昨日の朝もこんな風な声が聴こえてきたんだ。でなきゃ、ずっと理由はわからないままだっただろうな。高校生や中学生が朝晩ここを通る。考えてみたら今は受験シーズンだ。不安を抱えた彼らにこの『サクラ』を見せてあげたかったんだな。それならそうと言ってくれればいいのに」
「ふふ。そういうのって、説明すると、ビッとしてないじゃないですか」
片手でマフラーを引き上げ、顔をうずめる。
「『ビッとしてる』かどうかは相変わらずよくわからないんだけど……。それにしてもU月はよく気づいたね、受験シーズンだって」
「実は駅前商店街で、近所のお母さん達が話してたのを聞いたんです。受験生のお子さんはみんなピリピリしちゃって大変だそうです」
そう言えばあの時、鉢を移そうと言い出したのは駅前から戻ってすぐだった。
「それと、どちらかと言うと、逆です」U月は目を細めて寒桜の後ろ姿を見上げる。「この寒桜に、若い人達が自分を見て喜ぶ顔を見せてあげたかったんです。この寒桜も、これからずっと生きていくんですからね。楽しい風景をいっぱい見せてあげたいじゃないですか」
後日遊びに来た梅の老人にこの話をしたところ、彼はU月の両手を取って深々と頭を下げた。
もちろんこの話の後も、U月が不思議なこだわりを発揮することはよくあったが、本当の理由はわからないことが多かったし、私は、それでも構わないと思うようになった。




