メイドがダックスフントを集める面倒な事件 9(後日談)
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「さ、皆さん、ちょっと注目」
I海さんがいたずらっぽい表情と声で皿を持ってくる。
「A田さんは、トースターが当たって、運を使い果たしました」
「そうですね、だいぶ運を使っちゃいましたね」
K条が真っ先に賛同する。
「でも、実はイチゴ狩りの懸賞に応募したいので、運を復活させたいです」
I海さんの言葉にA田が慌てる。
「わ、わわ、言っちゃだめですって」
「ほー、いーじゃんいーじゃん」
Fヶ崎の軽い声が響く。
「それ、当たったら何人行けるの? わたしも行きたい」
U月の真剣な声に、あたしも、私も、私も、と他のメイドが続く。
「えっ、そ、そうですか?」
A田の意外そうな声に、私は微笑む。
I海さんが続ける。
「で、皆さんご協力ください。A田さんの『逆』運試しです」
持っていた皿を静かにテーブルに置く。皆が覗き込む。
六個のたこ焼きだ。
「六個のうち一つだけ、激辛です。唐辛子入りです。当たった人は、相当、運が悪いです。はい、では皆さん楊枝を持って!」
勢いのいいI海さんの掛け声に、皆が楊枝を手にする。
「え、でもA田さんが当たらなかったら、どうするんですか? 運がいいってことになっちゃいません?」
K条が当然の心配をする
「そこはほら、あくまで運だから」
I海さんが自信ありげに笑う。策か何かあるのだろうか。私が真意を測りかねて彼女を見ると、気づいた彼女が片目をつぶってみせる。
「じゃあ、順に選んで」
彼女の楽し気な声に、A田がこわごわ適当な一つを選んで楊枝を刺す。どれも見た目は普通のたこ焼きで、違いはわからない。
他のメイド達も順に選び、私も残った一個に楊枝を刺す。
「いくわよ。ちょっと齧ったりしちゃだめよ、一口で食べちゃってね。いち、にの、さん!」
一斉にたこ焼きを口に入れ、もぐもぐと咀嚼する。
ようやくI海さんのトリックに気づく。
A田以外の全員が顔を見合わせる。
A田が口を押えて、ふほほほほと声にならない声を出す。顔は真っ赤で、目に涙を浮かべている。手元にあったお茶を一気に流し込む。
「かっ、辛い、辛いです。激辛です。皆さん辛くなかったんですか?」
辛くなかった、と五人が順に答える。
「じゃ、じゃあ、私今、相当運が悪いですね。六分の一を一回で当てました、いえ、外しました。ダックスフントは効きました!」
ダックスフントのことは私とI海さんにしかばれていないので、他の三人は不思議そうな顔をする。しかし、喜んでいるA田に見つからないように、親指を立てて皆の前に出したI海さんに気づき、皆が同じポーズで返す。
私が食べたたこ焼きは、ほんのり辛かった。ピリ辛未満というところだろう。特に辛いものが得意と言う訳ではない私でも、顔色を変えずに食べることができる。他の五人も同じだったようだ。A田にだけはさぞ激辛に感じただろう。
こんなに運の悪いことが起きたら、きっと次はいいことが起こります、と喜び勇んで懸賞に応募したA田だったが、イチゴ狩りご招待はいとも簡単に外れた。しかしダックスフントが効いたのかたこ焼きの『逆』運試しが幸いしたのか、残念賞が当選したというお手紙と共に小さな包みを受け取った。中身は、大ぶりなイチゴの実物大マスコットがついたキーホルダーだった。
それからというもの、A田のポシェットには、お役御免になったダックスフントの代わりに、いつも招き猫やお守りと一緒にイチゴのキーホルダーが揺れていた。また、たまにリボンが結わえ付けられる日もあり、日によってピンクや白や黄色など様々色だった。
イチゴのキーホルダーは目立つので、来館者にそのキーホルダーかわいいですね、どうしたんですか、と尋ねられることがあった。決まってA田は顔を赤らめて、いろいろありまして、えへへ、と返すのであった。
思い返せば、中にはキーホルダーの出自をしつこく尋ねる人もいたように思う。そういう人たちは、その朝の占いのラッキーアイテムが、実はモグサだったのかもしれない。




