メイドがダックスフントを集める面倒な事件 2
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「犬を連れた女性に、わざわざ自分から近づいたんですよ。おかしいと思いませんか」
「どうかしら。よほどそのブローチがかわいいと思ったんでしょ」
「それはそうなんでしょうけど……」
せっせとしゃもじを動かしながら、私はA田の様子を反芻する。I海さんが夕食はちらし寿司だと言うので、酢飯の面倒を買って出た。何しろ我が家のメイド達は一人を除いてよく食べるため、ちらし寿司ともなれば八号もの酢飯を用意する。直径四十センチの寿司桶にいっぱいの米は、切るだけでもなかなかの仕事だ。
I海さんは海老や椎茸などの仕込みを手際よくこなしてゆく。メインのちらし寿司に、お椀、小鉢、小皿の献立全体を作る進行表が頭に入っているのだろう。
夕食の支度はシフト制になってはいたが、実際の所I海さんに頼ってしまうことが多かった。私はせめて手伝える工程がある時にはなるべく手伝うようにしていた。
「だって、はなちゃん、小物好きじゃない。缶バッジとかキーホルダーとか、よくつけているでしょう。お部屋入ったことある? 小物だらけよ。ぬいぐるみとか、置物とか……」
「彼女が小物を集めてるのは知ってますけど、犬のそういうのは一切持っていないじゃないですか。犬が苦手だからだと思いますよ」
「あら、へえ……」I海さんは手を止めて、振り返って私の目を見る。どういう意味があるのかはわからないが、値踏みをされているような気分だ。
「な、なんですか? 変なこと言いました? 何となく思っただけですけど……」
「ふーん、まあいいわ。確かに犬のアクセサリーをつけているところは見ないわね」
とグリルの方に向き直って鮭の具合を確かめる。
今の視線がどういう意味だったのか思案していると、バタバタと階段を上がってくる音がして、キッチンの入り口を覗き込む顔がある。当のA田だ。
「あっ、ごめんなさい、ちょっと買い物行ってました。夕食の準備、終わっちゃいました?」
A田は仕事が終わってから着替えたらしく、私服だった。丸襟のブラウスに落ち着いたブラウンのワンピース、クリーム色のダッフルコートのポケットはフリル付きだ。駅前商店街くらいならメイド服にコートを羽織って行ってしまうことが多いので、それより遠い所へ出かけたのだろうということがわかる。
「もう少しだけど、大丈夫よ。旦那様が手伝ってくれてるから、手は足りてるわ」
I海さんがにっこり微笑む。
「そうですか、旦那さま、ありがとうございます。」
「いやそれはいいんだけど……」
A田が手にしている物が気になった。店名が印刷されたビニールの袋、いわゆるショッパーだが、印刷してあるマークは○急百貨店のペット用品店のものだ。
「もしかして、早速買ってきた? ダックスフントのブローチ……」
A田はやや戸惑いながらショッパーを隠すようにして、「え、あ、あの、はい……」と答え、逃げるように去っていった。
振り返った時、彼女が下げていたポシェットにも、既に別のダックスフントのキーホルダーが括り付けられているのが見えた。




