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五人のメイドと面倒な事件簿  作者: 杉村雪良
メイドが三台の目覚まし時計を拾う面倒な事件
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メイドが三台の目覚まし時計を拾う面倒な事件 8(解決編 前半)

 三台目の目覚まし時計が鳴った時、その音を発しているのが目覚まし時計だということは、館に居合わせた人間にはすぐにわかった。そして皆がすぐさま野次馬精神を発揮して音の鳴る方へ向かった。だが私が音を聞きながら走ったのは別の方向だった。

 

 目覚まし時計が鳴った一階の西の端のトイレから一番遠い場所、それは東側の階段、そしてその脇のドアから出られるのは、見晴らしの良いバルコニーだ。

 私が二階にたどり着くと、ドアの前にいたのは思った通り『お似合いの恋人さん』の二人だった。ノブに手をかけていた『彼氏さん』の方は、走ってきた私を見てあからさまに落胆の表情を見せた。私には、彼が何をしようとしているかは一目瞭然だった。

 私は掃除用具入れからモップと『清掃中』のフロアスタンドを取り出して立て、床を適当に拭くふりを始めた。二人とも怪訝な顔をしてその場に立っていたので、仕方なく「掃除しているだけですので」と呟いた。それでもまだわからないようだったので、さらに「私は後ろを向いていますのでそちらは見えません。掃除していますのでここは誰も通れなくなります。そんなに長い時間じゃありませんが」までサービスした。

 『彼氏さん』はようやくわかったらしく、私の背後から「あ、ありがとうございます! 助かります!」という声と、二人が扉からバルコニーへ出る音が聞こえた。

 私は、彼らに言った通り後ろを向いていたので、彼らがバルコニーに出るのは見なかった。

 

 私がしばらくモップを滑らせていると、K条がやってきて、『恋人さん』が来たかどうか尋ねた。私は腕時計を見て、恋人さんはいないと答えた。二人がバルコニーに出て十五分は経っていたからだ。それだけあれば、プロポーズを終えているだろう。つまりその時バルコニーにいたのは恋人さんたちではなくて婚約者さんたちなのだ。だから、ここに恋人さんたちはいないという私の言葉に嘘はない。

 扉の向こうでやり取りを聞いていたのか、K条がその場を去ってから『お似合いの恋人さん』改め『お似合いの婚約者さん』のご両人が出てきた。二人は涙ぐんでいて、私に何度もお礼を言った。私は、特に何もしていません、私は何も見ていません、ところでおめでとうございますと言った。二人は再三頭を下げて帰っていった。

 

 本館を貸し切りにしたいとか、バルコニーだけでも貸し切りにできないかと私に相談していたのは、『彼氏さん』だった。私は、できないと答えざるを得なかった。正式に尋ねられれば、私は断ることしかできない。こっそり引き受けるという選択肢は選ぶことができない。もし引き受けてしまったとしたらその時は、物見高いメイド達が邪魔をしないように説明しておく必要がある。ところがそんなことをしたら外部に漏らす者が必ず出てくる。そうすると、噂は簡単に広まる。あの館は貸し切りができるそうだ、うちもやりたい、こっちにも貸してくれ、となるのは火を見るよりも明らかだ。そうなっては近所づきあいの手前、断るのが非常に難しくなる。そんなことをして、私が館の決まりを破ったという話が大伯母の耳に入る危険だけは絶対に避けたい。常連さんの頼みであったとしても、大伯母の怒りを買うようなことをするわけにはいかないのだ。

 今回、私はバルコニーの利用を許可したわけではない。ただ掃除をしていただけで、目の届かない場所で客が何をしていたかは私の預かり知らないことだ。リクエストもかなえつつ、規則も守って、面倒な事態になることを防ぐ、私なりのやり方だった。


 私がその場にいなくてもプロポーズは決行されただろうが、私はあえてそこに行き、誰もプロポーズの邪魔をしないように見張ることにしたのだった。結果的には、お客さんも含めて館の中にいた全員がベルの音に向かったので、杞憂ではあった。

 『彼氏さん』はあらかじめ目覚まし時計を二度トイレの前に置き、我々に発見させた。そして、三台目の目覚まし時計の音を鳴らすことで、メイドや常連全員を西のトイレに誘導した。これまでに二台発見されていたことで、その音はただの大きな音ではなく『また現れた謎の落とし物』になり、いやが応でも皆の注目を集めた。二度ともトイレの前で発見されたのだから、今回もトイレの前にあるということが容易にわかった。

 つまり、二度目覚まし時計を発見させたのは、三度目のための布石だったのだ。

 

 そしてそれは、K条のパソコンも同じだ。

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