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五人のメイドと面倒な事件簿  作者: 杉村雪良
メイドが三台の目覚まし時計を拾う面倒な事件
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メイドが三台の目覚まし時計を拾う面倒な事件 6

 外出から戻ると事務室には誰もいなかった。パソコンの電源が入っていたのでK条は一時的に席を外していることがわかった。四人のメイド影も形も見えない。相変わらずストーブの前に固まっているのだろう。

 

 一番奥の机に座る。隣の机の上のパソコンは、数日前にまた飾りつけが施されていた。今度は節分の豆や鬼だ。鴬もいる。桃だか梅だかあるいはその両方だかの花のシールが散っている。確かにここ数日間、この席に座るとかわいらしいパソコンが目に入り、和むような気がしていた。

 ふと見ると、パソコンの位置が少しだけ動いているように見えた。二、三日前はもっと机の端ぎりぎりにあったはずだ。飾りつけの調節でもして動かしたのかもしれないと、その時はあまり深く考えなかった。

 

 そのうちにK条が事務室に戻ったので

「K条、パソコンを――」

 と話しかけると

「はっ、な、なんでしょう!?」

 と思ってもみないような反応を示した

「いや、少し位置が変わった気がして、飾りつけの微調整でもしたのかなと思って」

「あ、え、そうですそうです。何となく、何となくです。よく見ると、シールの位置とか変えたんです。気づかないかもしれませんが。いろいろ気を使っているんですよ」

 なぜか棒立ちで言い訳がましいことをまくしたてる。別に咎めているわけではないので、そんな風に弁解しなくてよいのだが、と言いかけると、K条の肩越しに見える入り口にFヶ崎が現れた。

 K条はそちらに背を向けているので、Fヶ崎に気づいていない。Fヶ崎はその状況を見てとると、私に向けて自分の唇に人差し指を立てた。

『しーっ』

 というFヶ崎の表情で、私は彼女がよからぬことを考えているのを理解した。

 K条は、飾りつけの話に夢中で後ろに気づかない。

 意地悪そうな薄笑いのFヶ崎は音も立てずにK条の真後ろに忍び寄る。そして、その手がゆっくり動き、K条のスカートにかかる。

 私は急いで視線を外し回れ右をする。

 ほとんど同時に、Fヶ崎がK条のスカートの裾を迷いなく盛大にめくりあげるのが目の端に入り込む。

「なっ、何するのよ!」

 やはり咄嗟に後ろを向いたのは正解だった。

「にっへっへ。見たー。見たよー」と、Fヶ崎の気持ちいい笑い声がする。「中にジャージ履いてた。ということは上もだな?」

「ちょ、ちょっと、何するの! やめてよねほんとに!」

「おかしいと思ったんだよねー。そんな恰好で寒くないなんてさー。真面目に働いていれば寒くないですなんて言って、実は下に着こんでたんじゃん!」

 私は逃げることもできず、二人に背を向け壁の方を見たままおろおろする。、

「だっ、だからって突然スカートめくらないでよ! ごっ、ご主人様に見られたらどうするつもりなの?」

「見てないぞK条! 僕は断じて見てない! 何も見てない!」

 私は後ろを向いたまま叫ぶ。

「別に見られてもいーじゃん、ジャージはいてるんだから」

 そうなのかもしれないが、例え下にジャージを履いていても甲冑を着こんでいても、メイドのスカートの中を見るというのは許されない罪な気がする。

「だからー、上もさー」Fヶ崎の更に調子に乗った声が聞こえる。「ここんとこをこうして……あ、上はこうなってんのか、意外。これって寒くないの? かわいいデザインだねー」

「ぎゃー! ちょっといい加減にしてよね! あつ、そこほどいちゃだめ! あっ!」

 壁に頭をつけた私にわかるのは、自分がますます振り返ることができない状況に追い込まれているという事実だけだ。

「もうやだ! 掃除行ってきます」というK条の声に続き、どたどた言う足音が遠のいていった。

「あー、怒って行っちゃった。もーこっち見ていーよ、ご主人様」

 Fヶ崎の声に、私はようやく振り返る。

「やっぱり、Kちゃんだって寒いんじゃんねー。あんなのこっそり着てるなんてさ」

 Fヶ崎だけが笑っていた。

 私は彼女に何か言ってやろうと思ったが、何と言っていいかわからなかった。嫌がっている人にスカートめくりするのはやめましょう、では小学校の先生だ。

「あ、でも、ご主人さまは絶対後ろ向くと思ったんだ。でなきゃやんなかったよ」

 私がどう返答したものか思案していると、U月が後ろを振り返りながら事務室に入ってくる。

「K条さんに何があったんですか?」

 私とFヶ崎の顔を交互に見つつ尋ねる。

「ちょっとFヶ崎がくだらないことをして」

「へっへっへ」

 U月はきょとんとしつつ

「そうなんですか。ちょっと聞こうと思ったことがあったんですけど、今はやめた方がいいかな」

「聞きたいことー?」

「シールをちょっとね」

「シール?」

 私とFヶ崎が声を揃える。

「K条さんがコンピューターにまた飾りつけしたじゃないですか」

「ああ、節分になったな。今、その話をしていたんだ」

「わたし、前のお正月バージョンの時に、コンピューターの底に獅子舞のシール貼っておいたんですよ」

「底にシール? 底って、見えないところだろ? なぜそんなことしたんだ?」

「底見たら何も貼ってなかったから……かわいくしてあげようと思いまして」

 私にはよくわからない発想だが、K条が飾りつけをしているのを見て、U月なりに彼女の気持ちに寄り添おうとした行動ではあるのかもしれない。

「で、獅子舞のシールがどうなったかと思って昨日見てみたら、なかったんです」

「ふーん」

 私にはどうでもいい話題であったが、思いのほかFヶ崎の興味を引いたようだ。彼女がK条の机の前に行き、パソコンの筐体を傾け、底面を覗き込む。

「ここに貼ってあったの?」

「そう」

「はがしちゃったのかな? 底に貼ってあったのに、よく気づいたよね」

「ね。捨てちゃったならそれでもいいんだけど。粘着力が強力なシールなんだけど、跡が全然残ってないでしょ。さすがK条さん、きれいにはがす技とかあるんだね、きっと」

「いつのまに剥がしたのかなー? お正月バージョンの飾りをやめた時?」

「どうだろうね。その時底まで見たってことかな?」

 二人の話を聞いて気づいたことがあり、私もパソコンの底を覗き込む。確かに剥がした跡は全く見えない。

 Fヶ崎がパソコンを戻すと、私はケーブルなどが何本も出ている裏面を見た。目を閉じて、反芻する。三度目の飾りつけ、消えたシール、入力作業の途中での突然の強制終了、K条の奇妙な態度……。ようやく彼女らしからぬ飾りつけの本当の意味に気づいた。

 私は目をゆっくりと開いた。

「K条……なんて面倒なことしてるんだ」

 Fヶ崎とU月は既にキャビネットの上の共有お菓子ボックスを漁っており、つい口から出てしまった私の独り言は彼女には届かなかったようだ。


 K条がパソコンに凝った飾りつけをした理由がわかった時、同時に私は、目覚まし時計の「落とし主」も同じことも考えているのではないかと思い始めていた。

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