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五人のメイドと面倒な事件簿  作者: 杉村雪良
メイドが三台の目覚まし時計を拾う面倒な事件
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メイドが三台の目覚まし時計を拾う面倒な事件 4

「ご主人様、合計六カ所間違えていましたよ」

 K条が真顔で私に告げた。私の間違いを責めているわけでもないし嘆いているわけでもない。ただ淡々と告げているだけだ。だがそう無表情で自分のミスを指摘されると、やはりなんだか暗い気分になる。

「そうか……申し訳ない」

「あ、いえ別に謝っていただくには及びません。打ち間違いというのは誰にだってある物です。ただの報告です。修正しておきます」

「いやもう、悪いから私は手を出さないことにするよ。やっぱりK条に任せる」

 私が頭を下げると、K条は

「そんなこと言って、ご自分の仕事を減らそうとしてるのでは?」

 と苦笑する。彼女も、その程度の冗談は解するのだ。


 K条の指摘は、私がパソコンに打ち込んだ伝票の数字に打ち間違いがあったという報告だった。私は少しでもK条の負担を軽くするため、伝票の入力など私でもできる単純作業を買って出るようにしている。しかしそれでミスを指摘されていたのでは世話はないのであった。

 私は同じような笑顔を返しつつ、

「そういえば、入力している途中で二度も、勝手にソフトが終了したんだ。僕、何かいけないことしたかな」

と報告すると彼女は素っ気なく

「いえ、大丈夫だと思います。このパソコンも古いですからそういうことあるんですよ。でも、本当に助かりましたよ。大量に打ち込んでくださって。またお願いします」

と返しただけだった。


 事務室はその名の通り事務仕事を行う部屋で、本館とは別の、『管理棟』と呼ぶ建物の一階にあった。味も素っ気もない事務机が三台置いてあり、そのうちの一台には、こちらもいかにも業務用といったパソコンが乗っている。そのほかは安い応接セットと、壁際に並んだ書棚、キャビネットなどだ。

 引き取り手の現れない二台の目覚まし時計のことをぼんやり考えながら、カチャカチャと軽快な音を立ててキーボードを操るK条の横顔を何となく眺める。仕事に対する几帳面さでは五人のメイドの中でも抜きんでている。他のメイドがさぼっていてもK条だけはパソコンに向かっていたり過去の書類を改めたり、せわしなく働いている。制服であるメイド服の着こなしや事務室まわりの整理整頓、はては我々の生活エリアである管理棟の二階や三階の管理もおろそかにしなかった。

 どうせ暇なのだし、我々は公的な役所でもなんでもないので、几帳面にするばかりでなく力を抜いてくれたらよいのにと思うこともあるが、性分なのだろう。

 

 ところで先ほどから彼女が向かっているパソコンだが、何か物足りない感じがしていた。大きなモニターと箱型の本体が並んでいて、その前にキーボードとマウスが置いてある。それで一式揃っていると思うのだが、何が物足りないのだろうか。

「あの……さっきからどうされました」

 K条の声で我に返る。どうやら考え事をしながら、彼女の顔を凝視してしまっていたらしい。

「見られていると緊張するんですけど……」

 目を泳がせながら彼女が口をとがらせる。

「あっ、ごめん、ちょっと考え事をしてて」

「だって、ずっとこちらを見てらして……」

「いやいや、そんなつもりでは」

 と何となく悪いことをしたような気がして弁解していると、先ほどのパソコンに対する違和感の理由に気づく。

「そういえば飾りつけ、やめたんだな。一月のやつ」


 パソコンは主に経理業務と書類作成に用いるのだが、この二つともをほとんどK条が行うため、パソコンは半ばK条専用になっている。

 十二月の初旬に、そのパソコンが冬景色になっていた。

 筐体と言うのか、パソコンの本体のケースが、ボール紙のようなもので覆われていた。本体の背面、ケーブルが出ている部分や排気口に当たる部分だけは紙が切り取られて、それ以外の部分がぐるっと一周、囲まれている。そのボール紙には、更に色画用紙や折り紙などで作ったと思われるもみの木や雪の結晶、ポインセチア、それから既製品らしき星型のシールなど、様々な物が張りつけられていた。モニターの方にも、同じようにボール紙が画面の周りを取り囲むように設置され、そちらには綿が張り付けられていた。雪に見立てているという訳だろう。

 私はてっきりFヶ崎あたりが勝手にやったと思ったのだが、そうではなくK条がやったというのだ。

 美的センスを持ち合わせていない私にはそれが綺麗かどうかはよくわからない。その評価は置いておいて、仕事で使う備品に飾りつけをするという発想をK条が持っていたことには内心驚いた。他のメイド達も同様に、驚いてはいたが、かわいいかわいいと好評だった。

 しばらくするとその飾りは取り外されいつものパソコンがむき出しになったのだが、その後一月に入ると、別の飾りつけがされた。今度は和風で、門松だの、鏡餅だのの折り紙やシールが張り付けられていた。モニターの周りは紅白の紙で覆われていた。

 この時もパソコンに直接飾りつけを張り付けているわけではなく、一度ボール紙を巻いてその上に画用紙だのシールだのを這っていた。なるほど、直接パソコンにシールを貼ったりすると剥がした時に跡が残ったりして煩わしい。その点こうやっておけば、その心配はなくなる。飾りつけを外したり別の飾りつけをしたくなった時に便利と言う訳だ。私には、こういうちょっとしたことにもK条の注意深さが表れているように思えた。

 

 その一月仕様の飾りが取り払われ、また元の武骨なパソコンの姿に戻っていたのだった。三週間程の間、飾りつけがされた状態のパソコンを見ていたので、元の状態に戻ったそれをみて無意識のうちに『物足りなさ』を感じたのだった。

「もう正月バージョンは終わりなの?」

 と何気なく問う。

「え、ええまあ。いつまでもお正月の飾りではおかしいので、そろそろと思って剥がしました。何か問題あります?」

「いや、別にないけど。どちらかというとさ、K条が備品に飾りつけとかするのが珍しいなと思ってたんだ。そういうの、他のメイドがしたら叱る方だろ?」

「べっ、別に、私だって、こんなことぐらいしますよ。こうやって、職場を飾ることで楽しい気持ちになって、むしろ仕事の効率が上がるんです。そういうのを考えているんですよ。そんなのいいからご主人様は仕事してください」

 なぜか早口になって明後日の方向を見たので、何か弁解がましさを感じたものの、飾りつけを指摘されて照れているのかと思いその時は追及しなかった。

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