大事な人を拐われた勇者は
大事な人を拐われた勇者は
それが誰かはわからないが
どこに行ったかは
心当たりがあったので
救い出さねばと思い
ひとり旅に出た
その人について
何も思い出せなかったが
とても良くない人だという
印象を抱いていた気がする
なぜそんな人が大事なのかはわからなかったが
会えばわかると高を括った
その人の元に行くまでの道中
そこには幾つもの罠があった
それも全て彼の癖や
考え方を知り尽くした人が
作ったようなものだった
彼が勇者だからか
いくつか罠にかかったが
まるで一度経験したことがあるように
いくつかの罠を躱して
彼女のいると思われる場所までたどり着いた
そこは悍しい魔王城
とかではなく
一つの小さな民家だった
想像していたのとはだいぶ異なり
勇者は面食らったが
意を決してそこに入ると
ひとりの女性がいた
ようやく会えたと喜び
一緒に帰ろうと手を掴もうとしたが
振り払われて冷たい目を向けられた
そして言われた
なんでまた来たの
二度と顔を見せないで
って言ったでしょ
勇者は意味が理解できなかった
ここには初めて来た気がするし
とても拐われたようには見えなかったから
そんなことを考えていると頭痛が襲った
思い出した
その人は自分の婚約者だった
そしてある日自分に愛想を尽かして
出て行ったことを
彼は絶望していた
大事な人を助けようとしていたはずが
彼女をさらに困らせているだけだったことを
そしてそれを今まで忘れていたことを
2度と迷惑はかけまいと
罠をいくつも足し
自分の記憶を操作して
会いに行かないようにした
彼が彼女の下から離れ
しばらく日が経ったある日
ふとその勇者は思った
助けに行かなきゃ
また誰だかわからない人を
助けに勇者はひとり旅に出た