0.0 表現者
ある日
なんの脈絡もなく
人類は次のステージへと進んだ
のちに"ビヨンド"と呼ばれるようになる超越者達
ビヨンド研究の黎明期
ある著名な生物学者はそれを"進化"だと言った
鳥が翼を得て敵のいない空へ逃げたように
昆虫が枝葉に紛れる色形になったように
爬虫類が甲羅へと身を隠したように
弱き者が生きながらえるための"進化"だと
強者と比較してこその弱者
現れたのだ
人類を強制的に押し上げるだけの絶対的な強者が
すぐ、目の前に現れたのだと
陰謀論
頭のおかしな学者もどきの妄言
話題作りのプロバガンダ
メディアに祭り上げられ熱を帯びた時もあったが
すぐに一笑に付して忘れ去られた
あれから数十年
"こちら"側に1匹の生物が紛れ込む
たった1匹の
絶対的な強者が。。。
ビヨンドが現れてから消えたものがある
マジシャンと呼ばれる職種だ
現代の科学と技術で超常的な現象に見せかける
騙しと虚構のプロフェッショナル
そんな彼らはここ最近全く見当たらなくなった
超常現象が"当たり前"になってしまったこの世界では
そりゃあ食いっぱぐれるってなもんだ
だがしかし
"私"は彼らが大好きだったんだ
こんな世界であっても
彼等のような存在は残っていて欲しいのだよ
観客を錯覚させ
手の内に、テーブルに、ステージに
幻想的で不可思議な世界を生み出す"表現者"
見る者を魅了しワクワクさせる
そんな存在が"ボク"は大好きなんだ
人は誰もが表現者である。
人生という舞台の主役であり、脚本家であり、演出家だ。
などと口走ってみたものの吾輩としては
"表現者"
という表現は鼻につく高飛車な印象があり好ましくは思っていなかったりする。
昨今の"文章をつづり"、"絵を描き"、あとは"映像"なるものに至るまで。
なにかを制作する者たちを創造主クリエイターなどと呼ぶ風潮があるそうだが
「貴様は何を創造したのか」と問いたくなる。
制作物を"作品"と呼び、自分自身を"創造主"と称する。
"表現者"という物言いはそれに似た自身を高尚なものとしたい打算が見え透いて鼻につくのだ。
だが、しかし、今この場ではあえて"表現者"と表現させてもらおう。いち表現者の端くれとして。
何かを説明する時に肝要なのは、個人的意見でも思想でもなく明確な事実なのだから。
そう、"説明"だ。
"私"はいま説明をしている。
明白に説いている。
"何"を?
"誰"に?
もちろん
"舞台を楽しむために必要なこと"を
"観客オーディエンスである君たち"に、だ。
君たちは観客、傍観者、第三者、神? etc.
呼び名は違えど要するに"俯瞰でこれから起こる出来事を認知できる立場"にあるのが君たちだ。
"此処"幕間の場を含め、
一歩劇場から足を踏み出せば諸兄らもまた自身を表現する舞台を持つ表現者なのだろうが、
今はこの物語を只々眺めていて欲しい。
さて
人は生まれた瞬間に舞台の中央へと落とされる。
スポットライトを独り占め、なんてことはありえないがね。
主要な場面やキャストは生まれながらに決められている面もあるにはあるが、
どう転ぶかはそれこそ無限の選択肢の果てに集約される。
自分の考えた筋道にアトランダムに配置されたキャスト、
偶発的なアクシデント、
果てには突然の幕引き、なんてものに至るまで。
決して思い通りに事が進まない即興劇エチュードは、
それこそ表現者としての冥利に尽きるとは思わないか?
時には捻じ曲げ、時には空かし、自身の思い描く結末へと導く。
ただ、残念なことに、
舞台に立つすべてのキャストが、ヒロインから端役に至るまでその尽くが、
自分こそが主人公であり演出家であると思っているものだから大変だ。
思い描く通りに―――なんてこと、そうそうありはしないがね。
はて? 何の話をしていたんだったか。
マジシャン、がどうとか話していた気もするがこの話に何か関係があったのだろうか?
クリエイターを腐すようなことを言葉を放った気がするが、何を思ってそんな思ってもないことを言ってみたりしたのだろうか?
あー、つまりだ、何が言いたいかというと、これから"紹介"をする彼らもまた、
それを取り巻く人々を含めて全ての人物が、
『これから語られる物語の唯一にして絶対ではない主人公である』
ということだ。
少し回りくどかっただろうか?
わかりやすく端的な説明で君たちを物語の導入へと誘う
"案内人"
としての役割を"俺"は果たせていたか?
まぁ、なんだ、"あたしも"こういった役回りは不得手でね。
"あー"だの"まぁ"だの、"吾輩"だの"私"だのとつい言葉がつっかえ、立ち位置を忘れてしまうのだが、それもまた即興劇のだいご味ということで一つ。
"ボク"は"吾輩"の人生という舞台の主役ではあってもプロフェッショナルな役者ではないのでね。
あー、まぁ、それじゃあさっそく登場人物の紹介と行こうか。
1人目は、、、、うん、そうだな誰にするか、
とある"殺しを生業とする淑女"か、
どこにでもいるような"片田舎のチンピラ"も面白い男だが、
うん、最初は彼がいい
さる"亡国の騎士"についてだ