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三話 旅立ち


「あれっ、少し寝てしまったか。」


 ふと、気が付くと辺りは暗くなっていた。

 周りが京都の夕景を眺めようと集まったカップルばかりになっていた。


「明日も仕事があるのに俺は何をしているんだ。」


 そもそも何で俺はこんな所に居たんだろう。

 覚えている事は今日の仕事の失敗位だ。

 確かに何かあればここの夕景を眺めに来てはいるが、今回はこの位の出来事でここにいることが不思議であった。


「・・・」


「まあ、こう言う事もあるか・・」


 立ち上がり、ここにいる違和感を少し覚えていたが、これといって思い当たる原因がある訳ではない。 

 お尻辺りの埃を払いながら、斗真は駐車場の方向へ歩き始めた。



 西展望台の少し上空から自分を眺めていた。

 少しの引っ掛かりを覚えたようだが無事に事は済んだようだ。



「行ったな。」


 自分が帰って行くところを見届け、テラミアに合図を送った。



「⊅⊆⊇∟∠∪」


 詠唱を唱えながら、少し笑顔が止まらない様子のテラミアは、結界を作った時のように知らない言葉で呪文を唱えると、二人の目の前に銀色の揺らぐ水面を立てた様な楕円形の壁が現れた。



「ゲート?」



「はい。」


「ここを抜けるとレスクロム様が産まれた異界層に行くことが出来ます。」


 以外と簡単な方法で行けるものなんだなと思いながら入口の前に立った。


「斗真様どうぞ。」


 ゲートの壁の前に立ち、指でその水面のような表面を触ってみる。

 表面は水面に似ているが、触れて見ると水の時のような何かに触れた感覚は無いが、触れた指に表面が吸い付いてくるのが見てとれた。



「不思議な物だな。」



「時間と空間の境界線になりますので厚みはないですがこのような薄い膜の様な見た目になります。」



「ワープと言ったところか。」



「ここをくぐれば故郷に戻れます。」


 誘うようにテラミアは言った。



「まあ、故郷と言っても今はこの世界の俺だからな実感が無いね。」

「翡翠、俺の中に入れ。」


 斗真の肩にいた翡翠が薄くなりながら体に重なるように消えていった。


「じゃあ、行くよ。」


 斗真は意を決してゲートをくぐった。



 一瞬視界が真っ暗になったが、すぐに先程いた夕景と同じような景色が見えた。

 先程との違いは夜景の街灯が極端に少なくなっている。

 それに、見えるのは鉄筋のビルではなく瓦屋根が所々集まって集落の様に見える。

 後は田畑と森が目立って見える。

 俺の世界の御所が見えているところは立派な建物が見え、そこを中心に町と思われる建物が広がっていた。


「これが京都か。」

「凄く田舎になったな。」



「はい。」

「ここは先程と同じ場所ですが、異界層の同じ場所となります。」


 続いたテラミアがそう言った。


「ようやく帰ってこれましたよ斗真様」


 ほっとした様子でこちらを見ている。



「ああ、マナの濃い感覚が懐かしいと体が感じているよ。」

「ここに来て色々と能力が自動発動したみたいだからか、体が信じられない位軽く感じるな。」


 この世界の危険度に併せてなのか、いくつかの能力が勝手に働いていた。

 これはテラミアの記憶を読み取った時のテラミアが自身にかけていたステータスの増幅スキルが環境が変わった事で自動的に俺にも働いた様だ。


「体の能力向上、異常耐性、感知能力が働いているんだな。」


 感覚が向上したことですでに超人の様な状態になっている。



「“方”からと、マナの影響でしょうね。」

「私も本来の能力が戻っていますから。」


 今も空中に浮いているが、足元にあった展望台は無く、時々人が来るのか少し地面の見えるスペースと細い小道が右と左に続いていた。



「この後はどうされますか?」

「なんなら私の宮殿にお越しください。」

「レスクロム様がお戻りになられる時を考えての宮殿として用意しています。」



「宮殿住まいかぁ。」

「魅力的だけど。」

「折角だから色々と見て回りたいからなぁ。」

「因みに何処に宮殿が在るんだい。」



「プロイセン王国にあります。」



「・・・」

「どこそれ?。」



「ヨーロッパの中央辺りに在る国です。」



「メチャクチャ遠くだな。」

「テラミアはそこで暮らしていたんだ。」



「はい、特に何かと言うことはないのですが、レスクロム様をお迎えするのに場所が無いなんて考えられないことですから。」

「何ヵ所かに領地を持っておりますので、数十年に一度領地を変えながら暮らしていました。」

「今はプロセイン王国に落ち着いています。」


 領地を変えていたのは長命である事を領民に悟らせないために行っていたようだ。



「そうだったのか、ありがとうテラミア。」

「よし、そこまでのんびり向かうとしますか。」


 これからの道中を楽しみに目的地を定めた。



「もう日も暮れたから、取り敢えず町へいくか。」



“主殿、主殿・・・”

“すまんが、出してはくれんかの~”



「おおっ、翡翠か、ごめんな。」


先程とは逆順を追うように翡翠が現れた。


「テラミア、翡翠をこのまま連れて歩くと不味いよな?。」



「いいえ、大丈夫ですよ。」

「この階層ではマナが生物の進化に影響してますので、ご主人様の世界の空想上の生き物に近い姿をしたものがこの世界では沢山います。」

「大きさと体色が違いますが、翡翠に近い竜も存在しています。」

「それに、前の世界で言う異世界や神話等は、他の異界層の情報が漏れでて作られていますから。」

「アビスは魂の牢獄のような世界ですが、能力がほんの少し長けた者がこちらの世界を見た者が伝承や形にして残していたのでしょう。」



「竜がいるのか?。」

「それは楽しみだな。」

「異世界としてはお約束だな。」



「どの様な神獣、魔獣が居るのかお知りになるのなら記憶をお見せしますが。」



「止めとこう。」

「わざわざテラミアの記憶を分けて読み取ったのに、知らない世界でいた方がこれからの楽しみになるしな。」


 そう言われると俺たちがここへ来たのとは反対にUMAやネッシーなどの未確認生物などは階層の裂け目から偶然出てきた奴等なのかもしれない。


「宮殿は何時でも行けるから、それならこの世界を知るために宮殿まで旅をしたいな。」



「主殿。」

「お楽しみの所すまんがのう。」


 翡翠が話に割って入ってきた。


「さっき、我らの気配を感じて興奮している奴が居るんだが。」



「そうですね、先程から探りを入れてくる輩が居ますね。」


 テラミアもそれを感じていたようだ。



「そうだな。」


「まだ感知感覚になれれていないけど。」


軽く風が触るような感覚を体が捉えていた。


「・・・本当だな。」



「こちらも力を隠していませんから気になるのでしょう。」

「取り敢えず隠蔽偽装しましょう。」


 俺たちは直ぐに気配隠蔽を施した。



「驚いておるのう。」

「突然、巨大な気配が現れて消えたんじゃから無理はない。」



「俺たちはそんなに凄いのか。」


 体力はスキルで大変なことになっているのは分かるのだが未だ、マナの力の大きさはこの世界の住人達のレベルが分からないので今一つピンと来ていない。



「それはそうじゃろう。」

「この世界の神クラスの気配が三つも現れれば、能力のあるものは大騒ぎじゃよ。」


 俺の表情を汲み取ったのか、翡翠が答えた。



「神クラスか・・」


 少なくとも数分間は巨大な力を隠蔽無しで晒したから俺達の存在に気付いたもの達がいるはずだ。


「まあ、考えてなかったけどこの世界の実力者にはいい宣伝になったかも。」

「それと、さっき興奮してるやつと言っていたけど、ソイツは現れた事を驚くよりも興味の方が強いみたいだな。」


 標的を失って相手を探っているような気配が感覚に絡まってくる。



「まあ、無理もない。」

「あやつは、この世界のワシじゃからな。」

「気配がそっくりじゃ。」


 翡翠は仕方がないなと言わんばかりに答えた。



「なるほどな。」


 相手も突然現れた気配の一つが自分自身と同じであれば驚くのも無理はない。

 元の世界でも翡翠が居たのだから、少しずれた異界層なら翡翠と同じ状況竜が居ても当然のことだろう。



「あやつがちょっかいを出す前にこちらの気配を隠蔽したから問題無いじゃろ。」



「そうだな。」

「ややこしくなる前にこの場を離れようか。」

「誰か来て因縁を吹っ掛けられても面倒だしな。」

「とにかく今は俺はこの世界の事がとても知りたいし、それを可能にする能力も早く試してみたい。」


 マナの溢れる似て非なるこの世界を旅することが、楽しみで仕方がなかった。



「手始めにあそこに行こうか。」


 指差したのは比較的明るくなっている町の一画だった。

 ここから見てもあの御所に近い町の入口になっている橋のある所だ。

 移動は見える範囲であれば、先程の階層転移で使ったゲート応用で空間を曲げて繋げることが出来る。

 簡単なワープの様なもので、テラミアの展開を見て発動できるようになっていた。

 目視範囲か一度訪ねたところにマーキングすればその場所への移動も簡単に出来る。

 飛んで行く事も可能だが今回は鴨川であろう川が見えるのでそこへ移動することにした。


 目の前にゲートを作り、川原へと移動した。

 薄暗いが整備された護岸であることは分かった。

 少し上流に少し大きな橋があった。


「場所から考えると、三条大橋だな。」


 見かけは木で組まれた大きな橋で美しい橋だ。

 三条大橋と言えば俺のいた世界で言うなら東海道の終点地だ。

 流石に東海道だけあって程々に人の往来がある。

 時刻は19時位だろうか。

 橋の脇には上れる階段がある。


「流石に車はまだ無いんだな。」


 先程から渡っているのは人と荷車と馬車ばかりで自動車のような移動手段はないようだ。


「先ずは折角だから、二十歳位に体を若返らせてと、それから宿だな。」


 と言いながらすでに若返りを始めていた。

 わずか数秒で完全に20歳の体を取り戻した。

 自然なマナコントロールを呼吸をするように使っている。


「やはり体が若いと体が思い通りに動いて違和感がないね。」


 階段を上がりながら、息が切れない若くなった体を久し振りに感じていた。



 階段を上がると道路に沿って東西に石畳の道が真っ直ぐ続いていた。

 道路脇には町屋が続いており、感覚的には江戸時代の木造家屋の様な建物が並んでいる。

 丁度、時代が明治に移ろうかという頃のように見えた。

 きちんと街灯もあり、高さは2メートル位で低めだが、夜歩くには位が等間隔で設置されている。

 山並みを見てここが三条通である事は間違いなさそうだ。

 歩いてる人は着物の人もいれば、洋服の様な人もいる。

 そして一部の人は刀らしき武器や剣を持っている。

 そして驚いたのが、パッと見ても色々な人種?、と言っていいのか明らかに人間ではない人間の様な姿をした獣人と言うべき人たちもいた。


「さすがにマナが生命に影響している世界は違うな。」


 ベースはこれだなと思い付くあり得ない姿をした色々な種族がいて、明らかに武器と分かる物を携帯している。

 それらが問題なく暮らしているようだ。


 元いた世界と同じでここはメインストリートとなっているらしい。

 “京”らしく南北にも似たような間隔で南北に続く道があり、食事や宿屋には困らなくて良さそうだ。


 色々と見ているうちに、周囲が少しざわついていた。

 肩に乗っている翡翠に驚いているらしい。

 小型とはいえ竜を連れていることが注目を生んでいるようだ。

 俺たちも前の世界の格好のままなのと、テラミアのエルフそのままの格好が少し目立っていた。

 宿の場所を聞く為に少し離れたところにいるこちらを見ていた女性に場所を訪ねた。


「すみません。」

「ここに来るのは始めてなんですが、何処かいい宿屋はありませんか?。」


 女性はチラッとテラミアを見た後、翡翠をみて明らかに恐れている様子が見てとれた。


「大丈夫ですよ、賢い奴なんで噛んだりしませんよ。」



「ほんまに?」

「竜は神聖な神獣様やし、こうして連れて歩いている方はおりまへんので。」

「それにこの神都“京”の守護聖獣様ですから。」


 ここが“京”と呼ばれている事と、どうやらこの結界を作っている守護聖獣様は翡翠と似ているらしい。


「大きさは違いますけど、そっくりやから・・」


 女性はそう言って恐れていた。



「ワシを下等な神獣と一緒にしないでくれ。」 


 翡翠が唐突に女性に向かい答えた。



「ひっ、・・喋ってる?!」


 女性は声を上げて驚いていた。



「すみません、驚かせてしまって。」

「こいつはそんな大したものじゃありません、驚かなくても大丈夫ですよ。」


 女性は本当に?っと言った感じで再び翡翠を見ていた。



「あの~、すみませんが宿屋を・・」


 斗真がそう聞き直すと女性は、はっとして答えてくれた。



「すぐそこに池田屋と言う宿屋があります。」

「そこならいい宿屋なのでそちらに。」


 そう言って今いる所から少し西の道を渡った所の大きめの建物を指差した。


「あれですか?」



「そうどす。」


 元いた世界にも三条通のほぼ同じ場所に、今はもう無いが池田屋と言う幕末の志士達の集まっていた旅籠があったその場所だ。

 この世界は俺のいた世界の200年位前の時代とにているようだ。

 但し、比べればと言うだけで実際は違うことが多そうだ。



「古くからの旅籠ですよ。」

「お泊まりにならあそこやね。」


 女性はそう答えると足早にこの場を離れていった。



「ありがとう。」


 女性に一礼をし、宿屋へ向かった。


 宿屋に着き暖簾を分けて敷居を跨ぐと、落ち着いた雰囲気のある玄関口の上がり框の上にいた忙しそうにしている女将がこちらを見てぎょっと驚いていた。


「ど、どうぞおこしやす。」


 驚きながらも直ぐに膝をつき、俺たちを迎えていた。


「お泊まりどすか?」


 驚きながらも普通に京言葉で伺いを立ててきた。


「女将さん、二人と従魔獣の泊まり行けるか?」



「へぇ、いけますけど・・。」

「神獣様どすか?」


 先程の女性と同じ、ここでも守護聖獣と間違われていた。

 


「それはそうじゃろなぁ、主殿。」


 翡翠がまたかといった具合に答えた。



「神獣様が喋った??」


 先程の女性と同じように女将もひどく驚いている。

 どうやら神獣様はこの“京”では結構身近な存在らしい。



「女将さん、その神獣様ってよく知っているの?」


 今後の行動に影響しそうなので聞いてみた。



「ええ。」

「五年に一度、この“京”で神礼大祭がありましてなぁ、その時に天子様が礼祭を執り行わはるんですが、その時に祭壇に神獣様のお御影が現れます。」

「その時にうちらも御会いすることが出来るんどす。」

「この神獣様はこの“京”を魔獣から結界で町を御守りしてくれはるんどす。」

「いやぁ~。」

「あんさんほんまに違うの?、いやぁ~、ほんまにそっくりやわぁ。」



「この世界のわしがその神獣様だからな。」


 もともと、翡翠も俺のいた京都の霊的結界の“要”として何百年も眠っていた。



「こちらでもお前はそうなのか・・。」


 同じようにこちらでも竜が結界の核として囚われている。

 但し、こちらでは覚醒しているようだ。


「女将さん、いいですか?」



「すんまへん、お泊まりやったら、お食事を朝夕付けさしてもらって一泊500文となりますなぁ。」


 女将が宿泊代を説明してくれた。

 知識として持っているのは江戸時代の掛け蕎麦が一杯16文と覚えていたので一泊2万円と言った所だ。

 平均的なホテルの価格ぐらいだ。



「じゃあ、取り敢えず1週間お願いできるかな。」

「それと、両替商は近くにあるか?」

「あいにく、持ち合わせが砂金しかなくて、お金に未だ両替していないんだ。」



「それなら、旅籠なんでうちの番頭が両替できはりますぇ。」


 そう言って女将は奥へと番頭を呼びに行った。


 暫くして番頭が木箱を持ってやって来た。

 姿をみて先ず目が行ったのが頭に猫耳と呼ぶにふさわしい立派な耳が生えていた。

 姿は人なのだが顔つきは猫科の特徴が出ている人?だった。

 手足は町人の服だろうか、和装っぽい作務衣のような服に羽織のようなジャケットを着ている。


「あなた様が、両替をお望みの方ですか?。」


 言葉は違和感なく聞こえている。



「あぁ、持ち合わせが砂金しかないから両替してほしいんだ。」



「かしこまりました。」

「ここまでの道中はお手持ちなしでどの様に?」


 両替の準備をしながらここまで来るのに通貨を持ってない事の疑問を番頭は不思議に思ったようだ。



「なに、近くに住んでいて旅に出ようと家を引き払ったもので、追加の路銀を準備しようと思ってね。」

 

 別の異階層の京都から旅立ったので説明としては間違いではない。


「では、両替をしたい砂金をご用意ください。」


 小袋に入った砂金を取り出した。


「では。」


 準備していた大きい方の皿に砂金を乗せた。

 この砂金はさっき錬金で空の袋にマナを砂金として錬金させたものである。

 直接貨幣を創れば手間は無いのだが、この“京”の通貨が斗真のいた江戸時代の通貨と同じとは限らない。


「金のみの交換となりますのでご容赦下さい。」


 砂金には銀が25%含まれる事が多いが含有量に変動があるためリスク分として銀は換金されないのだ。


「150gありますね。」

「砂金の交換率は国で決まっていますので・・」


 金の質を鑑定しているようだ。

 番頭の神力が発動している。


「お待たせしました。」

「12両と二朱銀2枚と400文になります。」


 御用と書かれた木箱からも神力を感じる。

 収納も神力で拡張されているようだ。

 やはり取り出された貨幣はやはり知っている1両とは少し違っていた。

 銀貨も銅貨も形は同じだがデザインが違うようだ。

 これで今後は同じものを直接錬金すれば軍資金には困らない。

 木箱の上に紫色の布を敷き、取り出したお金を並べ確認をして渡してくれた。



「ところで番頭さん。」

「近くに探索者組合はありませんかね?」



「ああ、それならどすなぁ」

「西に寺町通がありますなぁ、そこを禁裏に向かって上がって行かはったら左手の大きな屋敷があります。」

「そこが探索者組合どすな。」

「基本、一日中開いてますけど、受付は朝6時やったと思います。」



「そうか、なら明日の朝だな。」

「番頭さん、ありがとう。」



「とんでもない、お安いご用です。」

「そしたら、お部屋へ案内いたしますよって。」


 泊まる1週間分の宿代を支払い終えると、案内係の女中が今晩止まる二階の部屋へと案内してくれた。

 少し廊下を歩き、中庭横を通って奥の階段を上がり右側を回った所が今晩泊まる部屋だ。

 和室二部屋の落ち着いた部屋だった。


「これでやっと落ち着けるなぁ。」

「今日は本当に色々あったしな。」

「これが現実なんて今でも信じられないな。」


 斗真はそう言いながら畳の上に大の字に転がった。

 腹の上に翡翠が乗っている。

 少し左にテラミアも女性座りで腰を降ろした。

 しばらくこの状態のままゆっくりしていると、テラミアが浄化の神力を俺に掛けてきた。


「勝手にすみません。」

「湯浴みと思いましたが、桶で体を拭くよりもこの方が早くてしっかり綺麗になりますので」


 浄化分離だけても体のベタつきが取れ、着ている服もすっかり綺麗になっている。



「ありがとう。」


 風呂は銭湯の様な公衆浴場に行くか、桶にお湯をもらって体を拭のが一般的らしい。

 同じようにテラミア自身も自分で浄化分離をかけ、翡翠も汚れを落としてもらっていた。


「何でも出来るって便利だね~。」



「思う事が形になるのが我々の力ですから。」

「これからどうしますか?」


 テラミアが尋ねてきた。

 翡翠も此方を伺っている。


「そうだなぁ、力が戻って未だ数時間しかたってないのと、仕事からも解放されて本当に自由を手に入れたからなぁ。」

「先ずは俺のステータスを見てみようと思う。」

「翡翠、俺のステータスを見てくれるか?。」


 斗真が起き上がると、翡翠が俺の正面に座って此方を見た。



「主殿、見えるかぇ?」

「流石主殿、数値には変換できんのぅ。」

「格下のワシには解析できんようじゃ。」



「成る程、半分自分を見るようなものだからか。」

「となると格の違いで見えない事も原因の一つか。」



「主殿に関しては心配することはないじゃろう。」

「勝てる者がいれば見てみたいわい。」



「ということは全てがこの世界の最大値を越えていそうだな。」

「レベルアップみたいな成長が在るものと思ってたから残念だな。」



「斗真さまが“方”を取り戻された時点で地上で誰も勝てません。」


 微笑みながらテラミアが答えた。



「ならば尚更“方”を使わずにこれからは行動だな。」



「主殿も面倒なことをするのぅ。」

「直ぐに面倒になって飽きると思うがまあ、おかげでワシも千年ぶりに自由になったから良いがのぅ。」



「俺はこの世界を知らない。」

「だから色々と見てみたいんだ。」

「まあ、向こうでも旅行って殆ど行ってなかったからね。」

「正直、昨日までこんな世界があるとは思っても見なかったしな。」

「時間もタップリあるからプロセインまで宜しくな。」

「じゃあ翡翠、俺が見られないなら次にテラミアはどうだ?。」



「うむ。」


「テラミア殿は見えますな。」


 生命力  720000

 神 力  125000

 魔 力  110500

 神 術      30

 魔 術      25


 

 生命力とは体を激しく稼働させる持続力を数値化したもの1単位で1時間位。


 神力、魔力は精神体であるブラフマンが自己の持つ性質の陰か陽の性質を触媒として作用することにより、陽性ならば神力、陰性ならば魔力といった形で無意識変換されて発生する力。

 変換された神魔力は発現する為にはあくまでも発現の素となる物質が必要となる。

 火の魔力で言えば対象もしくはその周囲に燃えるガス等の物質が必要。

 無意識に変換された力に意思を作用させる事で、準備された物質を使い治癒や回復、木火土金水と言った現象をコントロールする。

 発現まで短い時間で組み上げる事が出来るが、そうでないものは時間をかけての発動か威力の小さなものとなる。


 神術、魔術を発現しているものは、その現象を神魔力と同時にマナから直接物質を錬成、作り出した物質を材料にして神魔力を作用させて発現出来る力を言う。

 いわゆる詠唱や触媒、材料が必要なく意思の確定がしマナを直接結果に結ぶことが出来る。 



「ほぼ、無敵じゃな。」

「属性が出ておらんが、マナコントロールが出ている時点でオールラウンダーと言うわけじゃからな。」

「テラミア殿のブラフマンがそもそも主殿の独立した軸から生まれておるから、生命力はあってもなくてもいいくらいじゃな。」



「ええ、私のブラフマンは斗真様が輪廻から解放された時点で産まれた異なる理で動くので、作られた従者は同じく斗真様の加護を受けた状態です。」

「翡翠の言う数値は私が作った肉体が耐えうる強度の数値となりますね。」

「だから、仮に死ぬほどのダメージを受けたとしても精神体があるかぎり新しい体を作れるので死ぬことは無いですね。」

「そのブラフマンさえも複製できますからね。」


 テラミアはさらっと答えた。



「この世界の生き物からみれば全くでたらめじゃのぅ。」


 溜め息をもらいながら答える翡翠だった。



「なら、今のところ敵になるものはいないってことか。」

「それならやることは楽しむ事だけだな。」

「どんな世界なのか楽しみだし、分かってるテラミアには悪いけど。」

「ゲームなら卑怯な位に、いきなり裏技MAXと言うわけか。」


 現実では生死は一回きり。

 その現実で死なない能力MAXなんてゲームなら楽しくはないだろうが、現実の知らない世界でしかもいきなり死なない、万能MAXスタートなんて俺からすればなんと楽しいことだろうと思ってしまう。


「その気になれば収入は錬成でなんとでも出来るし。」

「こんなに江戸時代の様な京都は始めてだし、あの龍も気になるしな。」



「そうじゃのう、あやつはこちらに興味深々だからのう。」


 翡翠は答えながら禁裏に方面をみていた。



「明日は情報収集を兼ねて最初に探索者組合に行くよ。」

「みんないいかい?。」


 テラミアと翡翠も俺のこれからのに賛同してくれた。


「確認は出来たから飯でも食いにいくか。」


 そう言って斗真達は部屋を出た。




 

 





 

 


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