第六話 「魔王軍」
この世界は人が住む中央大陸と、それを囲むように位置する魔大陸と呼ばれる地域で構成されている。
魔大陸は、魔王を筆頭に魔族と魔物だけが住まう大陸だ。
大陸中央にそびえたつ魔王城はてっぺんが見えないほどの巨大な塔であり、天を貫くようなその威容は魔大陸中に届いていた。
そんな中魔王城には今日、魔王とその幹部たちが緊急の案件により集合していた。
用意された会議場には豪華な装飾が施された調度品が所狭しと並べられ、最高級と思われる酒や料理が用意されている。長いテーブルには燭台が灯され、いかにも物々しい雰囲気を醸し出している。しかし、特殊な魔道具の効果によるものか決して暗すぎるということはなかった。
これらの装飾品はここに集まった者たちがいかに大物であるかを象徴するようであった。
最奥のひと際高い玉座に座るのは今代魔王のディアブロである。
そこから一つ下がって残りの四天王の大悪魔サタン、賢者サルマン、黒騎士サーナイトが居並ぶ。他の参加者は政治にかかわる上級貴族たちである。
今回の進行を任された山羊頭の悪魔がしゃべりはじめた。
「三日ほど前、わが魔王軍四天王の一角でおわせられる竜王タイタン様の気配が消失した。タイタン様はディアブロ様に対して忠誠も厚く決して裏切るような様子ではなかったと把握している。それに地下遺跡周辺で大きな爆発が起こったとの情報も届いている。よって竜王は消滅したものと仮定する。四天王の座にあったタイタン様の損失は大きく、即座に原因究明と対策を立てなければならない」
会議場がわずかにざわついた。
幹部級の魔物がやられることは直近では数百年ほどなかったが、過去の歴史を振り返ってみれば決して珍しいことではないのだ。
「では、誰かにやられたということですかな?」
最初に発言したのはフードを被った怪しげな男、賢者サルマンだった。
「奴の護るダンジョンは古より存在する堅牢の要塞、まして昨今の力の落ちた人間どもには近づくことすらできないはずであるな」
ここでは魔王に次いで長き時を生きる大悪魔サタンがそれを保証する。
「しかし、地下であっても認識できるほど巨大な魔力があっさりと消滅しておる。何者かにやられたと考えるしかあるまい」
「奴は四天王の中でも最弱、倒せるとすれば北の巨人族か海の怪物クラーケンあたりか」
早速話始める四天王二人の会話にまた別の声が届いた。
「いや、犯人の目星はついている」
漆黒の剣士、黒騎士サーナイトがゆっくりと周りを見渡しながら発言したのである。
「なに?それを早く言え。魔王様にあだなすものならすぐにでも討伐に向かわねば」
サタンは最も忠誠心が深く力もあるが、それゆえ何も考えずに、すぐに行動に移してしまうことが彼の弱点でもあった。
腰を浮かしかけたサタンに対し、手で制しながらサーナイトが答える。
「機神『桜花』が犯人よ」
「なるほど、確かに彼女ならば竜王ごとき路傍の石ころ程度にもならんだろう」
そう太鼓判を押すのは古の時代より生きる魔王その人だった。
「お言葉ですが陛下、奴には竜王を倒す理由がないのでは?少なくともここ千年は地下遺跡から動かなかったはずです」
「わからん。彼女の気まぐれか、それとも古代の魔科学文明の仕掛けか。だが魔科学文明が動き出した後特有の現象が起きている。何にしてもより詳しい情報が必要だな」
話を打ち切るしぐさを見せた魔王ディアブロにその場は一斉に静まり返る。
「古代魔科学文明遺跡及び、その周辺の迷いの森の調査を命じる。可能ならば討伐してこい!」
魔力すら感じる陛下のそのお言葉にその場の全員が頭を下げるのであった。
会議場を魔王が去った後は、残りの貴族たちで詳しい人選と計画が話し合われた。
古代遺跡は海を超えた中央大陸に存在する。
いくら魔王といえどもすぐに正規軍を派遣することはできないが、異空間を移動できる下級悪魔たちならばすぐにでも派遣することはできる。
会議の終盤には作戦の詳細も決定され、大悪魔サタンの配下である下級悪魔が呼び出された。
山羊の悪魔によって命令が下される。
「迷いの森に生息するエルフどもをそそのかし、遺跡の調査を行わせろ。敵を発見したらエルフを使いつぶす覚悟でどんなことをしても全力で情報を持ち帰るのだ」
「ハ!我ら悪魔の性分にかけて、必ずしもご期待以上の成果を持ち帰ってまいります」
『フン!おまえらなんぞに期待などしておらぬは、ただ命じられたままに仕事をこなしていればよいのだ、敵を発見し次第わしが討伐の手柄をとってやる』
去り際の大悪魔サタンのつぶやきに気づくものはいないのであった。
10話ぐらいまでいったら一旦見直します。