第三話 「竜王」
我は魔王軍四天王にして生態系の頂点に存在する竜王タイタンである。
かつては金銀財宝や宝石を採掘するエルダードワーフと共存しながら地上で栄華を極めておった。そのころわしは黄金竜と呼ばれドワーフたちの採掘する財宝を貰う代わりに、ドワーフ王国を守護することで共存を図っていた。
しかし、竜とは孤独であった。生態系の頂点に存在することからその絶対数は極めて少なく。決して群れることはない。それゆえ他者の機微を読み取ることに疎かったのかもしれない。まあすべて力で解決できるからする必要もないのだが。
その日までわしは王国とは良好な関係が築けており、今代のドワーフ王とも仲良くやっていけてると思っていた。だが違った、何代も代を重ねていくうちにドワーフ王たちは黄金竜を邪魔に思うようになっていた。採掘の効率も上がり大陸でも有数な商業国家と化した王国は、財宝の四割を竜に持っていかれていることが気に入らなかったのである。
黄金竜のおかげで他国と対等に交渉できていることも忘れて。
ドワーフの王とその兵たちは隣国の人間と手を組み黄金竜を滅ぼそうとした。
それが5000年前の出来事である。
突如として歯向かってきたドワーフどもにわしは激怒し、一息で王国を滅ぼした。
赤くドラゴンブレスはドワーフたちの首都を焼き尽くし、その戦火は大陸の端からでも望めたほどだという。
ドワーフ王国が滅ぼされ、これ幸いにと周辺諸国はハイエナのようにたかってきた。
邪竜と呼ばれ常に狙われる身となった我は常在戦場に嫌気がさし、魔王軍の門をたたいたのである。
「しかし、暇だ。魔王軍四天王になったはいいもののやることがない。こうして僻地のダンジョンを任されたはよいけれど部下は御し難いし、何より味方が強すぎてここまで敵が降りてこないのだ」
今日も自分の黄金鱗でも磨いているかと思っていた時部下の一匹の地竜から報告があった。
「何者かがこの地下50階層に降り立った模様です。ものすごい振動と熱源を感知しました。
「ほほう、まさかこの最下層まで到達する侵入者がいるとはな。すぐに哨戒部隊を向かわせ、迎撃に当たれ」
ここ地下50階層は魔王軍ダンジョンでも破格の規模と難易度を誇る。
四天王であるわしが直接管理するとともに地竜やヒドラ、ワイバーンなどの天災級モンスターが階層を徘徊している。
とても負ける気はしない。
「陛下、緊急事態です。侵入者は人間と見られながらも我々地竜を素手で破砕。とてつもないスピードでこちらへ向かってきています」
「なに?!地竜が人間ごときにやられただと?それに防衛システムの機神は何をしている」
「それが、分かりません。とにかく今にもこの王の間に到着しそうです!」
「敵の正体がわからないうちは危険だ。扉をロックしろ。金剛石で作られた大扉は時間稼ぎにはなるだろう」
ドがしゃああああ
えっ?
金剛石で作られた90トンはある扉が大きくひしゃげ、内側に倒れた。
嘘だろ?わしの全力の体当たりでも傷をつけられるか怪しいというのに
現れた人間は少年だった。
黒髪で黒目、背丈も小さくとても筋肉質とは呼べない。
それにこやつ全く魔力を感じない。隠ぺいした痕跡すらないとは一体どういうことだ。
まあよい、魔力がないならブレスは防げないはず。会話で時間を稼ぎ、一撃で決める。
くらえ!一撃で王国を滅ぼしたわがブレスを
周囲の魔力を取り込み竜特有の長い首から放たれるブレスはあらゆるものを薙ぎ払う。
人間一人に耐えられるわけがない。
って嘘だろ?ブレスが単純に力で押し負けた?
ブレスが相殺され、敵の攻撃の余波が届いてくる。竜の鱗が赤熱し、溶解しそうだ。
何らかの武器か魔道具を隠し持っていたか。こんな神話級の武器、もう一度使われてはたまったものではない。接近して一気に決める。
竜のかぎ爪は鋼鉄すら引き裂く。圧倒的な体格差で押しつぶしてやる。
わしは空気が炭化してくすぶる中、羽を使って猛加速し、その勢いのまま右腕を振り下ろした。
一瞬地面でも殴ったかと錯覚した。ものすごい衝撃の後、腕がちぎれ飛び、そのままひっくり返った。
もんどりうちながら何とか飛び上がって取り繕ったもののバランスが偏ってうまく飛べない、何より激痛である。生まれてこの方穴が開いたことはおろか、ひびすら入ったことのない鱗が砕け、消滅した。
頭の中は人生で初めて感じる痛みでいっぱいだった。
初めての感情だ、我は目の前ににやにやしながら突っ立っている少年に恐怖を感じていた。
人間ごときがなにを!という気持ちもないではなかったがもはやわしの心は折れていた。
もうとにかく早く帰ってくれ!
すがるような思いで説得したらどうやら受け入れてくれたらしい。
ダンジョン攻略者がなぜあっさり引いたのだとかはもうどうでもよかった。
もとはといえば侵入者に対して防御システムが作動しなかったのが原因。
機神め、せいぜい相打ちくらいにはなってくれよ。
竜王は失った右腕を抱きかかえながら眠るのであった。
一日一話目標!