1. 黒い彼との出会い
ロマス・デ・サンタマリア孤児院
ここは生まれたばかりの赤ん坊から成人前の少年少女達が住む孤児院。
街の教会が経営しているため、決して裕福だとは言えないが心優しい院長やマザー逹のおかげで子ども逹が幸せな暮らしを送ることができている。
「おはようございます、マザー・ルピナ。朝ごはんの準備、手伝いますね。」
「あら、フレア。またこんなに朝早くに起きて…寝てていいのに」
「これくらいやらせてください。料理するのも、マザー・ルピナと過ごすのも大好きなんです。」
そう言いながら微笑んだのはこの孤児院の古株の一人。
綺麗な長いミルクティー色の髪に、燃えるような真紅の瞳、誰もが振り向くほどの綺麗な容姿。
この国で一番の評判を持つ高等学校に特待生として入学できるほどの頭脳の持ち主。
さらに、心優しいからこそ、この街で彼女を嫌う人が一人もいない。
それがフレア・ロピラトである。
彼女の朝はいつも朝食の準備のお手伝いから始まり、年下の兄妹達を起して、みんなと一緒に朝食を取る。
それからはみんな出る時間がバラバラだが、学校に向かう。
方向が同じ兄妹と一緒に歩きながらすれ違う人々に挨拶をする。
最後の兄妹を見送り、フレアが自分の学校へと足を運ぶ、これは彼女の日課である。
「今日小テストあったから、着いたら復習しなーーん?」
一人で学校に向かいながら、フレアが今日の授業について考える。
しかし、とある路地の横を通ろうとしたときにフレアが違和感を感じ、立ち止まった。
「ーーぁぅ!!」
ジーッとその路地を見て、耳を澄ませていたら動物の鳴き声のようなものが聞こえた。
何となくその声に必死さを感じ、フレアがその路地へと足を踏み入れた。
「っ?!」
そこで彼女が目にしたのは、怪我をしている黒い犬を襲おうとしている、鋭い牙と爪、黒い影を身にまとう化物であった。
「!」
フレアの気配に黒い犬が気付き、金色の瞳が彼女の赤いそれをとらえた。
「怪我してるじゃない!やめて!」
黒い犬と目が合ったフレアが彼を放っておけず、怯えながらも化物に近くにあった石を投げはじめた。
「シャーっ!!」
フレアの投げた石が当ったことで、彼女の存在に気付き、化物達が標的を犬からフレアへと変えた。
襲ってくる黒い影達への恐怖で立ち止まることしかできないフレアだったが、襲われる寸前にさっきの黒い犬が間に入って、彼女が襲われることがなかった。
しかし、守ってくれた犬が壁へと投げ飛ばされ、反射的にフレアが犬のもとへと走った。
「ダメ!ひどい状態なのよ!立とうとしちゃダメ!」
立つことも難しい状態なのに、それでも化物達に立ち向かおうとしている黒い犬を離さないように強く抱きしめた。
じりじりと様子を見るように迫っていた化物達だったが、相手が瀕死だと気付いたのか、一斉にフレア達へと襲いかかった。
「やめてーっ!!」
反射的だった。
フレアが今にも倒れそうな犬を庇うために彼の上に覆い被さったそのときだった。
フレアの体から彼女と黒い犬を守るかのように無数の炎が化物達に襲いかかった。
「おわぁぁぁー」
「?!」
フレアの炎に襲われた化物達が霧のように消えて跡形も無くなくなった。
当の本人のフレアが唖然としていて、黒い犬も目を見開き、驚いているようだった。
「何が…起こった…の…?」
「ーーっ!」
「いけない!獣医様を呼ばないと!」
今までのあったことを理解するように混乱している頭を必死に働かせているフレアだったが、犬の力が尽きたのか、彼が倒れてしまったことでフレアが我に返り、急いで助けを探しに行った。